第4話

女性は真っ赤な目を大きく見開き、私と正樹を睨みつけてきます。

なにもしていないのになにかとてつもなく悪いことをしてしまった気分になって、顔をそむけてしまいました。


もしかしたら、私達は無意識の内に穂波を傷つけていたのかなと、本気で考えました。

「おい、やめないか」


後ろから穂波のお父さんが止めてくれなければ、私達は魔女のような穂波のお母さんに食べられていたかもしれません。

「ご、ごめんなさい。失礼しました」


さすがの正樹も驚いてふたりで慌てて玄関から飛び出しました。

そのまま自転車のところまで走って飛び乗り、全力でこいで少し離れた公園までやってきました。


「はぁ……はぁ」

暑さも忘れて自転車をこいできたため、気がつけば全身が汗だくになっています。

私と正樹は一目散に水場へと向かい、下向きの水道をひねって水を頭からかぶりました。


正樹の顔は真っ赤になっていたから、きっと私も同じくらい真っ赤になっていたと思います。

それから木陰にベンチに座って溶けてきたスポーツドリンクを飲むと、ようやく落ち着きました。


「穂波がいるかいないか、わからなかったね」

「いや、あれはどう見てもいなくなってるだろ」

穂波の両親はなにもいいませんでしたが、お母さんの様子を見ればそれもそかと納得です。


穂波とは連絡もつかず、家にもいない。

本当にいなくなっていたのです。

同年代の趣味の合う子が突然いなくなる。


それは私にとって夢みたいな出来事で、この時はまだ信じられていませんでした。

穂波はどこか他の安全な場所にいて、夏休みの宿題をしているんじゃないだろうか。

そんな妄想に支配されていました。


「ここって正樹がペットボトル爆弾を作った場所だよね」

重たい空気を変えたくて、私は小さな子どもたちが遊んでいる砂場へ視線を向けました。

砂場を半分だけ取り囲むようにコンクリート塀が作られていて、その塀は真ん中にハート、ダイヤ、クローバー、スペードのマークにくり抜かれています。


その塀の下の方が少しだけ黒く変色している部分があって、そこで以前正樹が爆弾の実験をしていたのです。

「おう。あれはよくできたと思うよ」


正樹は背筋を伸ばして自信満々に答える。

正樹はなぜか爆弾が大好きで、6年生に上がってからは自分でも作ってみるようになっていました。


それは簡易的なものばかりでしたが、人の近くで爆発させたらケガをするようなものだったので、正樹は必ずこの公園で人がいないときを見計らって実験していたのです。


それでも大人の人に見つかれば怒られてしまうことだと思います。

今まで正樹がバレずに爆発実験をできていたのは、運が良かったからです。

「今はもっと本格的なのを家で作ってるんだ」


こういうときに言う正樹の家とは、小屋のことです。

正樹の家は昔からある大きなお屋敷みたいな家で、周りには蔵や小屋が建っています。


その小屋のひとつを爆弾を作る場所として使っているようです。

「そんなの勝手に作っていいの?」

「さぁ? できあがったら瑞希に一番に見せてやるよ」


正樹は爆弾を作ることしか考えていなくて、他のことは調べていないみたいです。

私は犯罪の片棒を担ぐのは嫌なので、肩をすくめて黙っておきました。

「ここ、時々穂波とも来たよね」


今は小さな子供たちで賑わっている公園を見回して言いました。

穂波はあまり遊びに出る子じゃありませんでしがけれど、誘えば公園くらいなら付いてきてくれました。


ここでブランコやすべり台で遊んだ記憶があります。

穂波はあまり走ったり飛んだりしてはいけないようだったので、砂場で遊ぶのが一番好きみたいでした。

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