第3話
☆☆☆
着替えをして外へ出ると遮熱地獄が待っていました。
これほど熱いと思っていなかったので、玄関を出た瞬間に足を止めてしまいました。
40度という気温は本当に命に関わるような気温みたいです。
それでも行かないわけにはいかず、私はツバがひろめの白い帽子を深く被って自転車にまたがりました。
自転車は日陰においてあるにも関わらす、サドルとグリップがひどく熱くなっていました。
それを我慢して5分ほど自転車を漕ぐと目的のコンビニに到着しました。
ほんの5分間でも私の背中には汗が流れてきました。
「瑞希」
コンビニへ入って左手にあるイートインスペースから声をかけられて見ると、正樹が冷たいジュースを飲んでいました。
いいなぁと感じながらも、それを隠して近づきます。
「穂波がいなくなったって、本当?」
私は正樹の隣に座って聞きました。
正樹は真剣な顔で「そうらしいんだ」と、答えます。
ただ、タッチーは噂好きで少しお調子者なところがあるので、すべてを信用しているわけではありませんでした。
冗談を言って人の気をひこうとしているのかもしれません。
だけど穂波と連絡がつかないことは事実ですから、やっぱり心配になって私に連絡してきたのです。
「だから、これから穂波の家に行ってみようと思うんだ」
「うん。わかった」
またこの炎天下へ出ていかなければならないのかと思うと、正直うんざりしますが仕方ありません。
私は凍らせているスポーツボリンクを一本買いました。
ガチガチに凍っているからすぐには飲めませんが、この熱さなら氷が溶けるのも早いでしょう。
そしてふたりで自転車をこいで穂波の家へと向かいました。
穂波の家までは自転車で10分ほどです。
だけどこの熱さの中なので、やっぱり5分ほどですぐに汗が吹き出してきました。
背中を流れる汗はとても気持ちが悪くて、プールに入りたくなりました。
それを我慢して穂波の家に到着すると、大きな庭先に自転車を置かせてもらって、玄関まで行きました。
穂波のお父さんとお母さんは有名な企業に努めているとかで、カーポートには立派な車が2台停まっています。
穂波の乗っている自転車は毎年買い換えられて、常に最新のものを乗っていました。
だけど穂波はそれを鼻にかけることなく……というか、穂波はひょう弱であまり学校に来ていませんでした。
どれだけお金があっても病気では家から出ることもままならなくなるのです。
そんな穂波と私が仲がいいのは低学年の頃同じクラスになり、同じ映画や本が好きで、意気投合したからでした。
穂波は病気がちであまり学校に来ていませんし、その結果学校へ来てもクラスになじめずに大人しくしているタイプでした。
だから、急にいなくなったと言われても正直ピンときていません。
そんな広い庭を抜けて玄関へ向かい、チャイムを押しました。
家は見上げるほど多いくて、まるでシルバニアファミリーの赤い大きなおうちみたいで、わくわくしてきます。
この家の中にはきっとシルバニアの住人たちが暮らしているんだ。
そんな空想ができそうな可愛らしい家から出てきたのは、背の高い男の人でした。
スラリとした手足に綺麗に整えられた髪型を見て少しとまどってしまいます。
この人は穂波のお父さんだと思うのですが、あまりにも自分のお父さんと違っていたからです。
私のお父さんのお腹はもっと前に突き出していて、いつもタバコの臭いがしています。
「こんにちは、○○小学校の藤井です。こっちは久保田」
正樹に紹介されて私は慌てて頭を下げた。
玄関の奥から涼しい空気が流れてきて、少しだけホッとしました。
「あぁ、もしかして穂波の……?」
穂波のお父さんがそう聞いてきたときでした。
廊下の奥に見えていたドアが開いて、今度は女性が出てきました。
白いエプロンは汚れていて、髪の毛はひとつにくくっているものの乱れています。
その人はスリッパもはかずにペタペタと足音を立てて近づいてくると、青白い顔で私と正樹を見ました。
「あなたたち、穂波の友達!?」
その声はまるで魔女のようにしわがれていて、驚いて後ずさりをしてしまいました。
正樹の背中に回り込み、服の裾をつかみました。
「そうです。穂波は元気ですか?」
その質問に女の人は血走った視線をこちらへ向けます。
それが怖くて熱さを忘れてしまったほどです。
お父さんは普通なのに、この女の人、おそらくは穂波のお母さんはなにかおかしな様子でした。
「穂波をターゲットにするなんておかしいわ! 間違ってる!」
突然怒鳴ったかと思うと、靴も履かずにたたきへ下りてきました。
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