第22話・ハーフ・ダークエルフの軍団は互いの手を握りキスをする
追っ払い隊のウルフィンたちの森近くにある【ウソつき少年の村】の入り口にも、ショロトル猟犬の群れは現れた。
ブレードクロー《刃爪》のグラブで、シュロトルを追い払っている、ウルフィンがボヤく。
「これじゃあ、キリがないな……なんなんだ、コイツら? ぜんぜん敵意を感じないぞ」
ショロトルたちは、尻尾を振りながら、ウルフィンの攻撃を巧みに避けていた。
まるで、遊んでもらっているかのように。
レッド・フードの方も、ハードグミの弾丸をシュロトルたちの足元に狙って放って、
空になった弾倉を捨てて、レッド・フードが言った。
「モモさんとの約束だから、最低限の防御で相手を殺傷させないようには、やっているけれど……面倒くせぇ」
マッチ売りの少年は、燃え尽きない魔法のマッチを擦った炎でケダモノを寄せつけないようにして、現実逃避の世界に入っていた。
揺らぐ炎の中に、夏の夜の海岸で一家
「へへへっ、幸せそうだなぁ……オレにもあんな時代があったなぁ」
死んだ目のマッチ売りの少年の周囲にだけ、なぜか雪が降って積もっていた。
少し離れた場所で「オオカミが出たぞぅ!」と、騒いで走り回っている少年を無視して、ウルフィンは筋斗雲に乗ってソン・ゴ・クウと一緒に、旋回している藍菜和に向って言った。
「日食の空から見ていないで、なんとかしてくれ! コイツらを人間の男に変えてくれ!」
酒を呑みながら酒仙が言った。
「それムリ……ショロトルは人工の魔法生物だから」
「何か方法は無いのか、このままじゃどうにもならない」
「方法なら、モモさんがすでに見つけているわ……さすがね、家来にイヌを連れている人は、扱いに慣れているわね」
◆◆◆◆◆◆
無防備で立っているモモ太郎に向って、黒い老魔法使いマー・リンがショロトルに命令する。
「襲いかかれ! 喰い殺せ!」
モモ太郎に飛びかかるショロトルの猟犬──押し倒されるモモ太郎。
だが、次の瞬間……老魔法使いは、開口したまま呆然とモモ太郎と飛びかかったショロトルたちを眺めた。
「よしよしよし、遊んでもらいたいのか、よしよしよし」
モモ太郎に、じゃれつき尻尾を振って甘えるショロトルたち。
モモ太郎が老マー・リンに言った。
「妖怪夜泣きジジイは、コイツらが猟犬だと言ったな……コイツらは誇り高い猟犬であるのと同時に、愛を求める愛玩犬や愛犬でもある……その本質を見誤ったな」
激怒する、妖怪夜泣きジジイ。
「儂は薄汚いジジイだが、妖怪ではない! 失敗作の魔法生物など消し去ってやる!」
そう言って、魔法の棒をショロトルたちに向けた時、日食時間が過ぎて太陽の日差しが戻ってきた。
悲鳴を発する妖怪夜泣きジジイ。
「ぎゃあぁぁぁ! 目が、目がぁ!」
老マー・リンは、陰を求めて逃げて行った。
◇◇◇◇◇◇
残った一匹のシュロトルの頭を撫でながら温泉街の童話町を出て、モモ太郎が街道の大樹の下で仲間たちに言った。
「カグヤを元の男に戻すコトはできなかったが、老魔法使いの妖怪夜泣きジジイは太陽の日差しの下では活動できないと、はっきりとわかった……さて、どうしたモノか?」
モモ太郎が思案していると、小さな筋斗雲に乗ったミニのソン・ゴ・クウが丸めた手紙を抱えて飛んできた。
藍菜和の伝書ゴ・クウは、ブツブツと文句を言いながら手紙をモモ太郎に渡す。
「まったく、本体の親分は分身使いが荒いぜ……ほらよ、酒呑み女装仙人からの手紙だ」
手紙を渡したミニのゴ・クウは、ツバメの背中に乗った親指王子を筋斗雲で追いかけ、からかいながら去って行った。
手紙を見たモモ太郎が言った。
「今度は、今まで以上の数の
◆◆◆◆◆◆
ドロ・シーとア・リスは、荒野に散乱するおびただしい数の翡翠色をした等身サイズの侵攻卵を眺めた。
「なんだ、この大量の侵攻卵は?」
大量の侵攻卵に不安と恐怖が広がる、侵攻卵は人魚王子の島や海上や、ピノッ・キオの男娼の館周辺、シンド・バッドやアラ・ジンたちが居る砂漠地帯にも散乱していた。
町に村に、里に山に、海に森に、平原に川に、家の中にまで、翡翠色をした侵攻卵は広がっていた。
童話国の住人が無意識に体から出した、不安や恐怖の負の感情は負の波動となって、谷にある漆黒の超巨大侵攻卵へと流れ込んでいった。
谷の上で、妖刀ムラマサを腰の剣帯から提げた『白馬に乗ったアー・サー』を従えた美形の若マー・リンは、光沢が無く吸い込まれるほど黒い超巨大な侵攻卵を見下ろしていた。
「一気に負の波動が増えた……その調子だ」
◆◆◆◆◆◆
大量の侵攻卵に、さすがのモモ太郎たちも、どうしたらいいのか困る。
イラついている温羅が、思わず魔王に向って怒鳴った。
「君の国が送ってきた侵攻卵なんだろう! なんとかしろよ!」
「そう言われても、ボクにはどうするコトも」
「チッ」
舌打ちをした温羅を、モモ太郎がたしなめる。
「落ち着け温羅、悪いのは異世界国の老魔法使いだ……魔王を責めても仕方がないだろう」
魔王を睨みつける温羅の体から、黒い負の炎の波動が出ているのをモモ太郎は見た。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜、モモ太郎たちが宿泊している街道の宿屋──モモ太郎の部屋に、沈んだ表情の温羅がやって来て言った。
「昼間は魔王に怒鳴ってしまってすみませんでした。モモさん、ボクを抱いてください……最近、ボク変なんです。やたらとイラついたり、悪い考えばかりが浮かんでくる……自分で自分が怖い」
温羅の体から黒い負の波動が湧き出る。
「この、負の感情を消し去るために、モモさん抱いてください」
和服の胸をはだけさせ、ストンと和装を床に落として裸になった。
胸を両手で押さえ隠した、裸の温羅に近づいたモモ太郎は温羅の両肩に手を添えて言った。
「そんな負の感情を消したい理由で、温羅を抱きたくない……誰にだって負の気持ちは大なり小なりある。謝るのはオレじゃない、怒鳴ってしまった魔王に謝ってやってくれ……温羅自身のためにも」
「モモ……さん」
モモ太郎は、裸の温羅を
さらに、男のシンボルを片手で愛した。
「あふッ……モモさん」
上半身裸になったモモ太郎が、温羅にキスをしていると。
ドアが無い部屋の入り口に、スサノオとその後ろにエロス神が立っていた。
ニヤニヤ笑いながら、スサノオがモモ太郎に言った。
「少しタイミングが悪すぎたかな……モモに話したいコトがある」
「なんだ今、手と口が忙しいんだ……これから温羅と合体するんだからな」
「そうか、お愉しみのところ悪かったな……続けながら聞いてくれ」
モモ太郎は行為を続けながら、スサノオの話しを聞く。
「聞いた話しだと異世界国から侵入してきた、黒い魔法使いは月の光りや太陽の日差しの中では活動できないらしいな」
「あぁ、アラクネの話しだと異世界国で誰からも相手にされずに、男にも女にも一度も愛されずに、卑屈になった心の異世界ジジィには童話国の月明かりと太陽の光りは耐えられないらしい」
モモ太郎は、温羅の心と体にプラグインした。
小さな声を発して、悩ましい表情をする温羅。
「あッ……モモさん」
エロス神が、モモ太郎と温羅に向けて、黄金の矢を向けるのを見てスサノオは。
「この二人に黄金の愛の矢は必要ない」
そう言って、エロスを制した。
スサノオが、温羅に愛を注いでいるモモ太郎に言った。
「できれば昼間に、妖怪夜泣きジジィを引っ張り出したいんだろう……夜だと逃げる場所が多くなるから」
「日食は終わったばかりだから、次の日食は半年後だぜ」
モモ太郎は、温羅をひっくり返す。
「オレに考えがある……昼間に日食が起こればいいんだよな」
「どうやって?」
「オレを誰だと思っている……オレの兄貴は太陽神のアマテラスだぜ」
◆◆◆◆◆◆
二日後──
卵の中から武装した『ハーフ・ダークエルフ』の軍団が次々とあらわれる。
腕組みをして立っているモモ太郎に、ハーフ・ダークエルフ青年のリーダーらしき男が近づいてきて言った。
「我らは屈強で勇猛な人間の兵士軍団と、勇壮なダークエルフの
そう言って、男しかいないハーフ・ダークエルフたちは武装を解除した。
「我々、ハーフ・ダークエルフは童話国の味方となろう……まずは、結束を固めるために、互いのパートナーを愛さなければならない」
ハーフ・ダークエルフは、対いで男同士のカップルを組まれ、互いを守り合うように幼い頃から訓練されていた。
リーダー格のハーフ・ダークエルフが、隣に立っていたダークエルフの手を握ると、そのままキスをした。
「んッ……んんんッ」
「はぁぁぁ……オレの片割れ」
別の侵攻卵に入れられて、別々の卵から出てきた者たちは、自分の
モモ太郎が言った。
「こりゃ、ハーフ・ダークエルフは放っておいても自分たちのパートナーを探し出して、味方になってくれるから心強いな……いよいよ、妖怪夜泣きジジイとの決戦の時! 黒い超巨大卵がある谷へ」
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