女体化したカグヤと鬼の温羅と異世界魔王……誰を選ぶモモ太郎

第21話・黒い老魔法使い〝妖怪夜泣きジジイ〟の邪悪な罠〔童顔の魔王……モモ太郎の胸に抱かれる〕

  ◆◆◆◆◆◆


 魔王の背中と腕のキズの話しを黙って聞き終わったモモ太郎が、静かな口調で言った。

「辛い話しをよく最後まで話してくれたな……ありがとう」

「こんなキズモノのボクを、抱いてくれますか?」


 露天風呂の縁に置かれた平らな石の上に腰かけた、モモ太郎が魔王に横に並んで裸で座るように促す。

 裸で並んで座った魔王が、モモ太郎に言った。

「体……触ってもいいですか?」

「あぁ、好きなだけ触っていい」

 魔王がモモ太郎の、胸部や腹部や太ももを撫で回す。

「たくましい肉体……本当に男らしい体をしているんですね」

 

 モモ太郎は、魔王の体を自分の方に抱き寄せると……甘く唇を重ねる。

 魔王の、ふさがれた口から吐息が漏れる。

「んッ……んぁ」

 キスをしながら、モモ太郎は魔王の背中や体を撫でて十分な愛撫をすると。

 露天風呂の平らな寝台石の上に魔王の体を優しく押し倒して……月明かりの中で愛した。

「あっ、ぁぁぁ……体の中に」

 生まれて初めて抱かれた男性の肌の温もりに、魔王の目から随喜ずいきの涙が流れた。


 愛し合っている、モモ太郎と魔王の姿を物陰から見ている温羅の背中から、また黒い炎のような負の波動が出てきて夜空へと消えていった。


  ◆◆◆◆◆◆


 モモ太郎たちが湯治をしている、温泉童話町の夜の路地道──昼間、魔王に服を作った仕立て屋が必死に闇から逃げていた。

 暗闇を渡って移動してくる闇は、仕立て屋を袋小路に追いつめる。

 仕立て屋は壁を背にして呟く。

(ひっ、あれが噂の妖怪〝夜泣きジジイ〟)


 月の光りを避けた暗闇の中で、老魔法使いマー・リンのしゃがれた声が聞こえてきた。

「おまえは、儂が知っている裸の王さまに登場する童話の仕立て屋と姿は大差ない……おまえの、その恐怖心利用させてもらうぞ」

 闇の中から、短い魔法の棒が月明かりの中に出てきて呪文が唱えられた。

 仕立て屋の恐怖心が凝縮して、醜悪なイヌ型をした魔法人工生物たちが誕生した。


 後ろ足が後ろ向きについていて、口は歯が生えた鳥のクチバシ。両目は眼球が抜け落ちた眼孔がんこうの穴が開いている痩せた骨格猟犬の姿をしていた……房尾を振っていて、耳が垂れ耳なのが少しだけ可愛らしい。


「虚無の魔法人工生物【ショロトルの猟犬】若マー・リンが自然を破壊されるのを嫌がるので、こいつらには村や町を襲わせる……行け! ショロトルの猟犬」


 尻尾を振りながら、ショロトルの猟犬は町の中へと走って行った。

 腰を抜かした仕立て屋が、老マー・リンが潜んでいる暗闇を指差して言った。

「妖怪、夜泣きジジイ」

 怒鳴る老マー・リン

「誰が夜泣きジジイだ! この歳になって、夜泣きをしたことなど一度もないわ!」


  ◆◆◆◆◆◆


 次の日──モモ太郎は、仲間の温羅、ガラガラ・ドン、アラクネ、ティンカー・ヘルに間欠泉の前で魔王を紹介した。

 モモ太郎から紹介された魔王は、ペコリと頭を下げる。

「よろしく、お願いします……異世界国の魔王です」


 目の前にいるのが異世界の魔王と知って、驚くガラガラ・ドンとティンカー・ヘル。

 そこで、赤い服の魔王は今回の童話国侵攻が、自分が塔に幽閉されている間に勝手にはじまってしまった侵攻だと伝えた。

「ボクは、この間違った侵攻を止めたい……いくら、異世界国の食糧事情が天候不順や天災で悪くなっていても、他国への侵攻は許されない」

 魔王の言葉を聞いたティンカー・ヘルがガラガラ・ドンの肩に座ったまま魔王に言った。

「今回の童話国への異世界国の侵攻は、本当に食糧事情だけが理由かな? 別の理由が隠されているような気がする」

「確かに……考えてみれば、不自然すぎますね……急いで侵攻を開始しなければならない、理由があったような」


 しばらく続いた沈黙の後に、勢い良く噴き出した間欠泉を見てモモ太郎が言った。

「とにかく、今は黒い老魔法使いで正体は妖怪の〝夜泣きジジイ〟をとっ捕まえてカグヤを元の姿に戻すコトだ……今日は童話国で、半年に一度の日食の日、妖怪夜泣きジジイは太陽光と月明かりの夜には出てこれないみたいだからな」


 温羅が冷ややかな口調で魔王に質問する。

「君、モモさんに抱かれたの?」

「はい、抱いてもらいました……侵攻を止めるために、もっと抱いて愛を注いでもらいます」

「ふ~ん、モモさんに抱かれたんだ。またモモさんと寝るんだ」

 温羅は冷たい目で魔王を見た。


  ◇◇◇◇◇◇


 その日の午後──日食がはじまり、温泉街の童話町の中央広場に腕組みをして、一人立ったモモ太郎が周囲に響き渡る声で言った。

「出てこい! 妖怪夜泣きジジイ」

 日食の中を走ってくる老人の足音。

「誰がぁ! 妖怪夜泣きジジイじゃ!」


「現れたな黒い魔法使い……単刀直入に言おう、カグヤを元の姿に戻せ」

「儂も単刀直入に言おう嫌だ……妖怪呼ばわりするヤツの頼みなんて誰が聞くか」

「じゃあ、黒い魔法使い……カグヤを元の男の姿に戻せ」


 少し沈黙する老マー・リン。

「…………おまえも、儂の知っている桃太郎と違う、本来の姿に戻してやろう」

「話しをズラしたな……ふざけるな! 本来の姿ってなんだ、何が本有の姿で、何が偽りの姿だ! この童話国のモモ太郎は、これが本当の姿だ」

 老マー・リンは、魔法の棒をモモ太郎に向ける。

「本来の桃太郎の姿に戻れ」


 しかし、愛に満ち溢れたモモ太郎の姿は、変わらない。

 慌てる老マー・リン。

「なぜだ? なぜ、魔法が効かない? おまえはいったいなんなんだ?」

「オレが知るか……カグヤを女から男に戻せ」

「うるさい! 〝妖怪夜泣きジジイ〟の名にかけて、おまえをショロトルの猟犬の餌食にしてやる」


 日食の中、レトリバー種のイヌのような垂れ耳で、牙を剥き出したショロトルの猟犬の群がモモ太郎に迫る。

 モモ太郎は無防備で、房の尻尾を振るショロトルの猟犬を見つめる。


 ショロトルの猟犬は、他の町や村にも出没さしていた。

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