第19話・禍々しい漆黒の巨大卵〔マンドラゴラの青年は誰に抱かれる?〕
竹林からもどってきて、ガラガラ・ドンの仲間と合流したモモ太郎と温羅は、銀色の侵攻卵が出現したと知った。
『ロシナンテの里』に向かった。
里に向かう途中で休憩のために立ち寄った水車小屋の中に、他の仲間から離れて一人……温羅は麻袋の上に座って、困惑し続けていた。
(モモさんは、ああ言ってくれたけれど……鬼とモモ太郎は交わってはいけないモノなのか……鬼のボクは必要ない存在なのか……モモさんは、ボクだけのモノ……誰にも渡したくない)
温羅の背中から、黒い炎のような負の感情が波動になって湧き上がる。
小屋の中に入ってきたティンカー・ヘルが、温羅の背中から昇っている負の波動を見て。
「ひっ?」と、短い悲鳴を漏らした。
◆◆◆◆◆◆
童話国北の渓谷──水枯れした谷の底に、巨大な漆黒の侵攻卵があった。
禍々しいほどツヤが無い黒い侵攻卵に向って空から、黒い炎の形をした負の波動が流れ込み消えていく。
すると、今度は谷をピンク色の風が吹き抜けてきて、漆黒の侵攻卵に入り込んで黒色が浄化されて薄れる……その現象が繰り返されていた。
谷の上から、漆黒の侵攻卵を覗き見ていた。童話国の若い魔法使いマー・リンが呟く。
「やはり、童話国の愛の波動は強いか……これでは、計画に支障が出る」
それだけ呟くと、若い美形マー・リンは去って行った。
◇◇◇◇◇◇
若マー・リンの姿が見えなくなった、谷の反対側の岩の陰に隠れていた。
キン太郎と熊ノ海が、若マー・リンが立っていた渓谷の上を見上げて、キン太郎が呟く。
「薬屋に売る薬草を探して渓谷に入って、とんでもないモノを見ちまったな」
「ごっつあんです」
キン太郎は、ビルの三階ほどの高さがある、漆黒の侵攻卵から離れて山に帰った。
◆◆◆◆◆◆
ロシナンテの里に到着したモモ太郎、一行を出迎えたのは。
顔出しのロバの着ぐるみを着た青年だった。
「ようこそ、ロシナンテの里に……わたしは村長の『ロシナンテ』です」
モモ太郎が、ロシナンテに訊ねる。
「銀の侵攻卵は、どこにある?」
「こちらです」
ロシナンテに案内されたのは村の風車小屋だった。
風車小屋の壁に、斜めにめり込むような形で銀色の侵攻卵があった。
侵攻卵は異世界国から、黒い老魔法使いが指示を残してきた、弟子たちの手で童話国に次々と送られてくる。
そして、侵攻卵に向って何回も馬上槍で突進して、弾き飛ばされている全身甲冑の男がいた。
ロシナンテが、甲冑男を指差して言った。
「彼は、我が
「アー・サーってのは、こんな場所にもいるのか?」
「ええっ、他にも無気力アー・サーや、脳筋アー・サー……ギャル男アー・サーなんてのもいますね。アー・サーは童話国のどこにでもいます」
風車アー・サーが、今までで一番激しく、侵攻卵に突進して。
馬上槍が卵に突き刺さった反動で、風車アー・サーは大きく弾き飛ばされ。
大岩に後頭部を激突させて気絶した。
それを見て温羅が言った。
「うわぁ、ありゃ死んだかな?」
ガラガラ・ドンの肩に座っているティンカー・ヘルが、少し怯えた目で温羅を見る。
◇◇◇◇◇◇
馬上槍が刺さった銀色の侵攻卵に亀裂が走り卵が割れた。
卵の中から、頭頂にホウレソウ草のような葉を生やした等身の裸の青年『マンドラゴラ』が現れた。
足に細い毛根を生やした目のやり場に困る裸の成人マンドラゴラが、両腕を上に向けて柔軟体操をしながら言った。
「ふぁぁ、良く眠った……ここが童話国かぁ」
裸のマンドラゴラは、モモ太郎たちの方に近づいてきて質問をしてきた。
「こんにちは、マンドラゴラです……どこかに畑はありませんか?」
モモ太郎が、怯えているロシナンテに代わって答える。
「畑? 畑で何をするつもりだ?」
「ボクが、童話国へ送られた目的が。畑で根を張ってマンドラゴラの仲間を増やすコトなんですよ」
成人マンドラゴラの話しだと、畑に両足を潜らせそこから段々と地中に沈み、最終的には肩から上を地面の上に出して畑に定植するらしい。
「地面から風呂に入っているみたいな形になるのか……不気味だな、根を張って仲間を増やしてどうするんだ?」
「収穫まで待ちます……収穫期に頭の葉っぱを引いて地面から抜ける時に、悲鳴を発します」
「悲鳴を聞いた者が死ぬのか?」
頭の葉っぱをいじくりながら、マンドラゴラが答える。
「いいえ、ボクは品種改良されたマンドラゴラですから……【悲鳴を聞いた者は、女性にしか欲情を抱かなくなります】」
「それは、このBL童話国にとっては、大変な事態だ」
「ただ、ボクを男が抱いて愛してくれれば、根から増えた同胞も引き抜かれた時に【男性に欲情を起こす声】に変わるのだそうです……品種変化したら、引き抜いた泥のついた新鮮なうちに、食べちゃってください性的な意味で」
マンドラゴラが、肢体を色っぽく蠢かせて男を誘う。
「さあ、誰がボクを抱いてくれるのかなぁ」
その時に、大岩に後頭部を激突させて気絶していた風車アー・サーが意識を取り戻して。
マンドラゴラの方にやって来て言った。
「わたしが抱こう」
外した兜の下から、爽やかな青年の顔が現れる。
ロシナンテが言った。
「風車アー・サーさま、正気に戻られたのですか」
「ロシナンテにも迷惑をかけたな、もう大丈夫だ」
風車アー・サーは、マンドラゴラ青年の裸体を見ながら、鎧を外していく。
マンドラゴラ青年の
頭頂には、ホウレン草のような葉っぱが生えていて。
股間には毛のような短い根が薄っすらと生え、足にも少しだけ大根のような細い根が生えていた。
マンドラゴラの男性のシンボルは、野生のキノコに酷似していた。
◇◇◇◇◇◇
「んぁ……んんんんんんッ」
そのまま、柔らかい芝生草の上に体を横たえ、男同士の愛し合いをはじめた。
ロシナンテの目に涙が浮かぶ。
「良かった、風車アー・サーさまが……正気に戻られて、男を抱くコトができて本当に良かった」
ロシナンテの丘を訪れても、何もやるコトが無かったモモ太郎が言った。
「さて、次の侵攻卵があるところに向うか……黒い老魔法使いで、正体が妖怪夜泣きジジイをとっ捕まえて、カグヤにかけた魔法を解かせないといけないからな……妖怪夜泣きジジイは、童話の町に移動したらしい」
ロシナンテが恐る恐る、モモ太郎に言った。
「あのぅ、近くの森の中にもう一つ。侵攻卵があるのですけれど……真珠色をしていて強弱な光りを発している、キレイな侵攻卵なんですけれど」
◆◆◆◆◆◆
森の割れた岩の間に等身大の真珠色をした、侵攻卵が挟まっていた。
侵攻卵に亀裂が走り割れた中から、頭に角を生やした異世界国の魔王が、粘液で濡れた全裸姿で現れた。
四つ這い姿勢になった、裸の童顔魔王が呟いた。
「はぁはぁはぁ……ここは? 童話国? モモ太郎が居る?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます