第18話・カグヤ……女になる
◆◆◆◆◆◆
月夜のカグヤの竹林──男カグヤは、月光の中、矢を放ってイケメンのゴブリンたちを追い払っていた。
「いくら追っ払っても竹林に侵入してくる……困ったモノだ」
夜空の満月を見上げるカグヤ……次第に月が欠けはじめる。
「今宵は月食だったか」
童話国では月に一回、月食が起こり。
半年に一回、日食が起こる。
すっかり月が皆既月食で隠されると、カグヤは竹林を吹き抜けてくる風に、禍々しいモノを感じて両腕で体を押さえた震えた。
(この感覚は……竹林の中で謎の黒い影を見た時と同じ感覚)
弓に矢をつがえて、暗闇の一点を狙って矢を放つカグヤ。
放った矢は同時に鏡面にでも写ったように、同じ矢が反対方向から飛んできて衝突して落ちた。
「そんなバカな、オレが放った矢が、オレの矢で落とされるなんて⁉」
月食の暗闇の中から、黒いフードをかぶった老魔法使いマー・リンが現れた。
老マー・リンが、吐き捨てるような口調で言った。
「儂は異世界国の黒い魔法使いマー・リン……間違っている……儂の知っているカグヤ姫は男ではない、儂が正しい姫の姿に戻してやろう」
恐怖で足が動かないカグヤの体を、黒い霧の渦が包んでいく。
「あぁぁぁぁぁ」
黒い霧に包まれたカグヤの悲鳴が、竹林に響き渡る。
竹林の中から出てきた、ニャルタニアンが叫ぶ。
「カグにゃ⁉」
老マー・リンの枯れ枝のような指先が、ニャルタニアンに向けられる。
「おまえも間違った姿をしている……ネコの姿に戻してやろう」
その時、老マー・リンの指先に月食の終わった月の光りが差す。
「月食が終わってしまったか……魔力が弱まる」
老マー・リンは、竹林の暗闇へと姿を消し、ニャルタニアンは急いでその場から離れた。
◆◆◆◆◆◆
翌朝──胸騒ぎを覚えたモモ太郎は、別行動で温羅と一緒にカグヤの竹林に向かうと仲間に告げた。
「何かイヤな予感がする……カグヤの様子を見てくる」
モモ太郎との別れ際に、童話国でスローライフな生活をしていくコトを決めたシェイプシフターが言った
「暗い夜には〝妖怪夜泣きジジィ〟に注意してください……こんな姿の妖怪です」
シェイプシフターは地面に棒で、黒い魔法使い老マー・リンの姿を描いた。
◇◇◇◇◇◇
モモ太郎と温羅が、昼間の竹林にある庵に到着すると、入り口に両手で体を抱き締めて座り込んだニャルタニアンの姿があった。
ニャルタニアンは、何かブツブツ呟いていた。
「恐ろしいにゃ……怖いにゃ」
モモ太郎は、庵の中に入る。雅な平安宮廷貴族の重ね着を着た、黒髪のカグヤが背を向けて座っていた。
「カグヤ……何かイヤな予感がしたから来てみたが、大丈夫か?」
近づこうとするモモ太郎に対して、背を向けたカグヤは拒絶する。
「近づくな! 来ないでくれ!」
それでも、心配したモモ太郎がカグヤの肩に触れると、カグヤは胸を押さえて泣き崩れた。
「いやぁぁぁッ、モモ見ないでくれ!」
カグヤの胸には乳房の女の膨らみがあった。
「カグヤ……おまえ、どうしたんだ? その体」
カグヤは月食の夜に竹林で、黒い老魔法使いマー・リンと遭遇して、こんな姿にされてしまったと伝えた。
悲しげな声でカグヤは、女の手を眺める。
「醜い姿だろう……黒い魔法使いは、姫の姿が本当の姿とか言っていた……こんな姿じゃ、モモに抱いてもらえない」
そう言って女カグヤ姫は、仕切りの向こう側に身を隠して言った。
「もう帰ってくれ、まだあの黒い魔法使いは、竹林の中に潜んでいるかも知れない」
モモ太郎は、唇を噛み締めると怒りに拳を握り締めた。
◇◇◇◇◇◇
温羅はニャルタニアンの話しを聞いて、黒い老魔法使いを、鬼の金棒でぶっ叩いて退治するために竹林を進んだ。
太陽の日差しがある場所を選んで進む温羅は、老マー・リンに向って叫ぶ。
「出てこい! 黒い魔法使いの〝妖怪夜泣きジジイ〟」
竹林の奥から黒い魔法使いマー・リンの、怒鳴り声が聞こえてきた。
「誰が、妖怪夜泣きジジイだ! 夜泣きをしたコトなどないわ!」
パラパラと竹林に砂や小石が飛んでくる、どうやら激怒したマー・リンが投げているらしかった。
姿を見せない老マー・リンが、少し落ち着いた口調で言った。
「童話国の太陽や月明かりの下では、儂の魔力が弱体化する……儂はこの竹林から別の場所に夜になったら移動する……まったく、いまいましい愛の波動に満ちた国だ。愛の波動も儂の魔力を半減させる」
さらに、老マー・リンは温羅を動揺させる目的で、あるコトを口にする。
「桃太郎と鬼の頭領……交わってはならない存在、離れろ桃太郎はおまえのコトなど眼中にな無い」
「勝手なコトを言うな! モモさんとボクは愛し合っているんだ」
「本当にそう断言できるのか……誰とも寝る桃太郎に、本当に愛されていると断言できるのか……おまえは桃太郎にダマされている、桃太郎が鬼を本気で愛すると思っているのか」
金棒を振り回す温羅。
「言うな! それ以上、モモさんの悪口をいうな!」
老魔法使いの笑い声が遠ざかり、温羅は涙を手の甲で拭った。
この時、温羅の体からは負の波動が黒い炎のようになって空に昇っていった。
◇◇◇◇◇◇
カグヤの竹林から、仲間の所に戻るモモ太郎と、温羅は沈黙したまま道を少し距離を開けて歩いていた。
ふいに後方で立ち止まった温羅が、モモ太郎に言った。
「モモさん、ここで別れよう……やっぱり、モモ太郎と鬼は一緒にいては、いけないんだ」
「どうしたんだ? 急に竹林で何かあったのか?」
温羅は黒い魔法使いの〝妖怪夜泣きジジイ〟から「鬼とモモ太郎は一緒にいてはいけない」と……忠告されたと伝えた。
「異世界国の黒い老魔法使いから、余計なコトを吹き込まれたな」
「鬼はモモ太郎には愛されない……博愛主義のモモさんの近くに、ボク一人がいなくても」
モモ太郎は、無言で温羅を抱き締める。
「モモ……さん」
「オレ自身、時々自分の博愛がイヤになる時がある……でも、これはモモ太郎の宿命なんだ、多くの人に愛され多くの人を愛する……それが、童話国のモモ太郎なんだ」
モモ太郎は、温羅を見つめて言った。
「オレから離れないでくれ……温羅の力が必要なんだ、温羅はオレにとって大切な存在だから」
「モモさん」
モモ太郎と温羅は街道で抱き合って、唇を重ねた。
その二人の姿を、道端に並ぶ六体の成人姿で半裸体の、生きている笠地蔵が横目で見ていた。
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