第17話・擬態生物『シェイプシフター』魔王に化けてモモ太郎に抱かれる

 童話国──草原の池の中から、青いゼリー状に体が透き通った。童顔の青年が出てきた。

 頭に角を生やした、その童顔青年は裸体のヒップを軽く触ってから呟いた。

「本物の魔王さまが入浴しているお姿は、拝見したコトは無いけれど。想像だと裸体はこんな感じかな?」

 半透明の透き通った体をした擬態生物『シェイプシフター』は、魔王がいつも着用している赤い服の姿に変わった。


「さすがに魔王さまが全裸で、童話国をウロウロしているのはマズいからね……水色から肌色に皮膚の色も変化させてと……さて、モモ太郎さんはどこにいるのかな?」


 キョロキョロと周囲を見回していると、くらを背中に装着した白馬が草を食べているのが見えた。

 擬態生物のシェイプシフターが手招きすると、彼の方に白馬は寄って来た。

 白馬を撫でるシェイプシフター。


「よし、よし、よし。君、人馴れしているね」

 シェイプシフターは、馬の鞍に『アー・サー』と刻まれていたのを見つける。

「アー・サー……君、アー・サーって名前なの? 白馬のアー・サーだ」

 アー・サーは、しきりに首を動かして背中に乗れと誘う。

「もしかして、モモ太郎さんの所に連れて行ってくれるの?」

 シェイプシフターが背中に乗ると、白馬は草原を走り出した。


  ◇◇◇◇◇◇


 その頃、モモ太郎一行は今夜宿泊する【スズメの宿】に向かっていた。

 歩きながら温羅の肩に座ったティンカー・ヘルが、珍しく喋り続ける。

「でね……スズメのお宿の目玉は、スズメ料理と夜中に月一回、赤鬼と青鬼がやって来て『泣く子はいないか、悪い子はいないか、ウソつきは舌をチョン切るぞ……オラ泣くぞ』そういって、赤鬼がボロボロと涙を流すイベントなんです」


 モモ太郎が言った。

「なんか、いろいろと混じった宿の演出だな……その泣いた赤鬼と青鬼は、温羅の配下なのか?」

「はい、ボクの配下の鬼たちです……童話国内で鬼は仕事をしています」


 宿へ向かう途中の道で、罠に掛かっている一羽のツルを発見する。

 ガラガラ・ドンが言った。

「そのツルは助けない方がいいですよ、自分から罠に掛かって助けを求めるって有名なツルですから」

 モモ太郎は、ガラガラ・ドンの言葉を無視してツルを罠から外した。

 ツルは嬉しそうに上空を旋回すると、飛び去っていった。

「あ~ぁ、どうなっても知りませんよ」


  ◇◇◇◇◇◇


 スズメのお宿は、格調がある古民家風の旅館だった。受け付けにはスズメ頭の半面をかぶった和装の男性従業員がいて、モモ太郎一行を部屋に案内した。

「なかなか、いい旅館じゃないか……天然のかけ流しの白濁温泉か、みんなで一緒に入るか」


  ◇◇◇◇◇◇


 モモ太郎たちは、白濁湯の温泉に浸かって疲れを癒す。

 白濁のお湯に浸かったモモ太郎が、上機嫌で安堵の息を漏らす。

「いいなぁ、風呂は」

 その時──露天風呂の竹垣根の向こう側で、馬のいななく鳴き声が聞こえ。

 垣根を越えてシェイプシフターが変身した魔王が、風呂に飛び込んできた。

 ベチャと一瞬、スライム状態化して元の魔王の姿に戻った、シェイプシフターが立ち上がる。

「いきなり、急停止するんだもんな……あっ、モモ太郎さんだ! 白馬さん連れてきてくれて、ありがとう……アラクネさま、お久しぶりです」


 下半身がクモのアラクネは、魔王に化けたシェイプシフターを凝視してから言った。

「スライム系のシェイプシフターか……魔王さま、そっくりに化けましたね」

 笑顔で頭を掻きながら、シェイプシフターが言った。

「やっぱり、上手く化けたつもりでしたけれど、アラクネさまはダマせませんね……あはははっ」

「白魔法使いの所にいた、シェイプシフターが童話国に来たというコトは何か伝えたいコトでも?」


「はい、魔王さまが幽閉されている場所がわかりました。異世界国の〝ラプンツェル塔〟に幽閉されているのが見つかりました……近いうちに魔王さまは、白い魔法使いの力で救出されて童話国に来ます」


  ◇◇◇◇◇◇


【スズメのお宿】深夜、モモ太郎が上半身裸で寝ている一人部屋──月光で照らされる障子戸に、着物姿の青年の影が映り。

 寝具の上で上半身を起こしたモモ太郎が、障子の影を眺めていると。

 障子がスゥーと横に開いて、鶴の模様が描かれて着物姿の若者が現れた。

 若者が、肩から胸まで鶴の着物を脱ぎながら言った。

「わたしは、昼間助けていただいたツルの化身です……昼間のお礼に参りました。お好きなように、この身を抱いてください」

 モモ太郎はツルの恩義の気持ちを受け入れて……ツルの化身の若者を抱いて愛した。


  ◇◇◇◇◇◇


 モモ太郎がツルの化身と、愛し合ってから数分後──今度は、天井板の隙間から畳の上に垂れてきた水色粘液のシェイプシフターが、魔王の姿になってモモ太郎に夜這いをかけてきた。

「モモ太郎さん、夜這いですよぅ……抱いてください」


 モモ太郎の傍らで眠っていた裸のツルの化身も目覚め、今度は夜這いシェイプシフターを加えた三人で愛し合った。


「あふッッッ……魔王さまだと思って、ボクを抱いてください」

「ん゙んッ……この体を差し出しますから、恩返しの倍返しです……ん゙んッ」


  ◇◇◇◇◇◇


 愛の行為が終わり、潤んだ目で抱きついた、モモ太郎の顔を見ているシェイプシフターがモモ太郎に質問する。

「ボクの体の中はどうでしたか?」

「なんか、体の中がヒンヤリとしていて、ネットリとまとわりついてくる。キュッとした狭い部分や、吸いついてくる箇所もあったな……これは、これで悪くない」

 シェイプシフターが、小声でモモ太郎に言った。

「黒い老魔法使いのマー・リンのジジイが、すでに童話国に入り込んでいます、月が見えない真っ暗な夜は用心してください」


 モモ太郎を挟んで、反対側に横たわっているツルの化身も、小声で言った。

「北の谷の上空を飛んだ時.……今までに見たことが無い、禍々しい漆黒の侵攻卵を見ました……注意してください」

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