第15話・ランプの魔神……炎のイフリートと愛し合う
◆◆◆◆◆◆
童話国の食堂──雑談の声が飛び交う中で、異世界クマの熊ノ海が半分毛皮を脱いでタンクトップの上半身出した青年姿で、食堂の厨房に向って叫んだ。
「どんどん、童話国の肉料理を持ってこい! こんな、上手い肉料理ははじめてだ! ごっつあんです」
テーブルの上に並べられていく、肉料理の数々に下半身がクモのアラクネは、財布の中を確認した。
「少し注文しすぎですよ……確かにおごってあげるとは言いましたが」
「ゴチになります」
「いや、だからそういう意味じゃなくて」
アラクネが厨房の中で皿洗いをしている、男性を眺めて皿洗いのやり方を覚えようとしていると。
モモ太郎の声が聞こえてきた。
「相席いいか? ここしか席が空いていなくて」
熊ノ海が慌てて毛皮を着込み。
アラクネが返答をする前に、温羅やガラガラ・ドンが椅子を持ってきて勝手に相席にする。
椅子に座ったモモ太郎が、目の前にある謎の煮肉が盛られた皿から、肉の塊を二又のフォークで刺して口に運ぶ。
「おっ、うめえなコレ」
頬をヒクッヒクッさせている、アラクネに温羅がテーブルの上に宝石を出して言った。
「この店は宝石での支払いも受けつけていますから、足らない食事代はボクが出しますよ」
さらに温羅は言った。
「さっき、財布の中を確認して厨房の方を見ていたでしょう……そんなにお金の持ち合わせないんですか?」
アラクネが床で土下座する。
「助かりました……一時はどうなるコトかと」
◇◇◇◇◇◇
数十分後──酒の勢いも手伝って、アラクネの口も
「でね……聞いてくらさいよ、モモさん。わたしは異世界国で魔王さまの側近をしていたんですよぅ……それなのに、あの魔法使いのジジイ……勝手にわたしに総司令官なんて役職を押しつけて、きやがったんですよぅ」
モモ太郎は、串に刺さった肉を食べながら、適当に相槌を打つ。
「ほう、それはそれは」
「どうせ、わたしみたいなのを総司令官にでも置いておけば、たいしたコトはできないし……魔王さまからも離せるから都合がいいとでも、あの白ヒゲジジイ考えたんですよね……あのクソジジイ、わたしを見くびり過ぎでしゅ」
「アラクネは、そんなに凄いのか?」
アラクネは指先に出したクモの糸で、あやとりをしながら答えた。
「そりゃあ、魔王さまの側近を務めていましたからね……あのジジイの考えているコトなんて、手に取るように……異世界国には、とんでもないヤツもいます。〝燃え盛るマグマの巨人〟とか」
「マグマの巨人?」
「もっとも、マグマの巨人を侵攻卵で童話国に送り込むのは、リスクが大きすぎて……あのマー・リンのジジイもそこまでは出来ないでしょうけれど……等身の炎の『イフリート』を一体くらいを送り込むのが限界でしょうけれど」
そう言って、アラクネは木製のカップに入った発泡酒を飲み干した。
◆◆◆◆◆◆
海岸の砂浜に
浜から二十メートルほど離れた距離で噴煙を上げている、海面から三メートル突き出したミニ火山の反対側は切り取られたような切断面をしていて。
火山の真ん中からは、灼熱色をした等身の卵が海面と接する形で出ていた。
海面が沸騰しているミニ火山を見てシンド・バッドが言った。
「火山だな」
アラ・ジンが、それに答える。
「そうだな」
「熱気が熱いな」
「熱いな」
「何か卵から出てくるかな?」
「出てくるだろうな……ヒビが走ったから」
卵が割れて、水蒸気の中……髪が炎で燃えている赤銅肌の裸の男性『イフリート』が現れた。
海水を沸騰させて、浜まで歩いてきたイフリートが、砂浜の上で四つ這いになって悲しそうな声で呟く。
「誰もオレを抱いてくれない……オレはすべてを焼き尽くすから、誰もオレを愛してくれない……誰でもいい、オレを抱いて愛してくれ」
イフリートの涙は、すぐに蒸発して消えた。
立ち上がったアラ・ジンが魔法のランプを取り出して、イフリートに言った。
「オレたち人間にはムリだが、ランプの魔神を呼び出して命令して抱かせてみよう……出てこい、精魔王ジン」
アラ・ジンがランプを擦ると、煙の中から青い肌をした裸の男が現れた。
入浴をしていたらしく、シャワーヘッドを持った格好で現れた精魔王ジンはタメ息を漏らすと、呼び出したアラ・ジンを睨みつけて言った。
「わざとでしょう、わざと入浴タイムを狙って呼び出したでしょう、ご主人さま……何か用があったら、さっさと命じてください」
「炎のイフリートを抱いて愛せ」
「はぁ? イフリート? げっ、本当にイフリートだ」
ランプの魔神のジンは、四つ這いになっているイフリートを見て、首を横に振る。
「ムリムリムリ、イフリートを抱くなんてムリ!」
アラ・ジンが語尾を強めて命令する。
「抱けよ、男同士で愛しているところをオレたちに見せろよ……ご主人さまの命令だ」
ジンは、震えながらイフリートの肌に触れて悲鳴を発した。
「アチィ、こりゃ氷にでもならないとムリだ」
ジンは自分の体を氷塊させると、イフリートを対面で立たせて言った。
「これから、おまえを抱いて愛する……誤解するなよな、別にご主人さまから命じられて抱くんじゃないからな……おまえが好みのタイプだから抱くんだからな」
ランプの魔神が、炎の魔神を抱擁する。氷塊していても熱さにジンは悲鳴をあげる。
「やっぱ、こいつアチィィィィ!」
イフリートの方は、生まれて初めて男に抱かれた喜びから、積極的にジンを抱き締めて。
唇を重ね炎のキスをした、キスをされているジンの唇の端から炎が噴き出す。
「おごごごごごごっ!」
もがくジンの体を、イフリートは強く抱き締めた。
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