第13話・男巨人同士の愛し合いで大地が揺れて大気が震えた

 ◆◆◆◆◆◆


 父龍にまたがった、タ・ツノコ太郎は、超巨大なショッキングピンク色の侵攻卵に向って、何度も龍を激突させたり。

 龍が吐いた炎を卵に浴びせていた。

 現場に到着したモモ太郎は、タ・ツノコに向って大声で怒鳴る。

「攻撃をやめろ! タ・ツノコ、おまえが未知のモノを怖れて攻撃する気持ちはわかるが、とりあえず侵攻卵への攻撃はやめろ」


 タ・ツノコ太郎は、モモ太郎の声が届かないのか? 父龍を何度も超巨大な卵に激突させる。


 モモ太郎が道に落ちていた手頃な石を拾うと、温羅に向って言った。

「打てばあそこまで、届いて、頭を狙えそうか?」

「やってみる」

 モモ太郎がピッチャーフォームで、金棒を構えている温羅に向って石を投げた。

 金棒で中心を捉えした石は、タ・ツノコの頭部にヒットして意識を失ったタ・ツノコは、そのままバランスを崩して父龍から下の泉に向かって落下していった。


 どこかへ逃げしまった父龍を無視して、ショッキングピンクの超巨大卵のところに足早に向かう。

 途中、タ・ツノコが着水した泉の真横を通過した時、銀色に輝くタ・ツノコ太郎をプリンセスお姫さまだっこした、泉の男神が。

「おまえたちが泉に落としたのは……この銀のタ・ツノコ……」の問い掛けを無視したモモ太郎たちは、超巨大侵攻卵を見上げる位置まで接近した。

「でかい、今まで見てきた侵攻卵の数倍はある……いったい、こんなでかい卵から何が現れるんだ?」


 見上げているショッキングピンクの卵に亀裂が走り、殻の破片が落下してきた。

「卵から離れろ!」

 割れた卵の中から、肌色の男の手が殻を押し出し、全裸の男巨人が現れた。

「裸のギガント巨人だ! いろいろな意味で、でかい」

 裸の青年巨人は、両腕で自分の体を押さえると、恥ずかしそうにその場にしゃがみ込んで言った。

「いじめないでください、いきなり黒い魔法使いのマー・リンのクソジジイに、童話国に送り込まれてしまったんです。ボクは暴れませんから、いじめないでください」


 立ち上がった巨人が、裸体を太陽の下に晒す。

 走ってきた巨大ア・リスが、巨人を見上げて言った。

「サイズが大きすぎる……コレじゃない」

 そう言い残して、走り去ってしまった。


  ◇◇◇◇◇◇


 立ったまま困惑している裸の巨人を見上げて、モモ太郎がガラガラ・ドンに言った。

「同じサイズに巨大化して、異世界国の巨人を愛してやってくれ……どうしたら、いいのかわからずに苦しそうだ」

「はい、小ガラガラ・ドンから、超ド級ガラガラ・ドンになります」

 小ガラガラ・ドンから、中ガラガラ・ドン……大ガラガラ・ドン……巨人ア・リスと同じサイズの巨大ガラガラ・ドン……さらに巨大な超ド級ガラガラ・ドンへと変わっていく。


 裸で向かい合って立つ二人の巨人。ガラガラ・ドンが震えている巨人を抱き締めて、耳元で囁いた。

「ボクもそんなに経験豊富じゃないけれど……精一杯、愛してあげるから安心して」


 抱擁して唇を重ねるガラガラ・ドンと巨人。

「ん゙ぁ……」

「んぷっ……キス上手」

 そのまま、互いの背中を撫で回して巨人たちは愛撫する。

 そして、ゆっくりと大地に横たわり愛し合った。

 巨人の愛に大地が揺れ、大気が震える、雲が流れ、離れた海の波が騒いだ。


  ◇◇◇◇◇◇


 熊ノ海との稽古が終わった、キン太郎は土俵近くに置かれた、輪切りをした丸太椅子に腰を下ろして休憩していた。

 キン太郎は両隣の丸太椅子に座る者に、竹の皮で包んだ握り飯を差し出す。


 丸太にクモの脚を広げて座ったアラクネが、差し出された握り飯を一つ手にする。

「いただきましょう……ほうっ、米を固めた食べ物ですか、異世界国にはパンを握って変形させた食べ物があります……今年は数年続きの凶作で、あまり食べられませんが」


 キン太郎が、傍らで丸太に座って握り飯を食べている熊ノ海に訊ねる。

「どうだ、童話国の握り飯の味は?」

 熊の着ぐるみを腰まで脱いてくつろいでいる、タンクトップ姿の青年が言った。

「ごっつあんです」

 キン太郎が着ぐるみを半分脱いだ、青年を見て首をかしげる。

「まさか、熊横綱の中の人が、こんなヤサ男だったとはな……どうやって、あんな怪力が出せるんだい?」

「それは、異世界国の秘密でごわす……相撲取りが背中のファスナーを開けて、くつろいでいる姿はタブーです」


 キン太郎たちが、油断してくつろいでいるところに、モモ太郎たちが戻って来た。

「いやぁ、巨人同士の愛し合いは見応えがあった」

 慌てて熊の着ぐるみを着る熊ノ海と。

 ジャンプして樹上に身を隠すアラクネ。


 訝る目で、見るモモ太郎。

「今、そのクマ着ぐるみを脱いで、リラックスしていなかったか? クモみたいなヤツもいたような?」

「気のせいだろう」

「ふ~ん、気のせいか」

 モモ太郎は疑う目で、熊ノ海を凝視する。

 思わず顔を横に、視線をそらした熊ノ海が、四つ這い姿勢になって。

「くっころ、クマぁぁ」

 と、鳴いて誤魔化す。


 モモ太郎が言った。

「なんだ、童話国の普通のクマか……ところで、異世界国ってどんな国なんだ?」

 立ち上がった熊ノ海が、ポロッと喋る。

「それは、素晴らしい国で……ハッ⁉」


  ◆◆◆◆◆◆


【異世界国】童話国への侵攻がはじまる一~二ヶ月ほど前──黒い老魔法使いの『マー・リン』は、自宅の寝室で深夜に目が覚めた。

「また、あの夢か……」


 白いあごヒゲを伸ばしたマー・リンは元老院を名乗り、魔王を補佐する宰相も務めていた。

 なかなか、眠れないので夜風に当たりに外に出るマー・リン。

 薄雲がかかった三日月を、苦虫を噛み潰したような顔で見上げて老マー・リンは呟く。

「いまいましい月だ、あの月光の下で幸福な恋人たちが笑っていると思っただけで、怒りで血圧が上がる」


 マー・リンは、このところに毎晩のように見る夢の内容を思い浮かべる。

 それは、霧の中から若いマー・リンが、現れても何かを言いたそうに口を動かしている夢だった。

 聞き取ろうとしても聞こえない、何かを伝えようとしているコトだけはわかる夢だった。

(あれは、別の世界に居る若いわしか……なぜ、儂の夢の中に出てくる?)

 

 マー・リンには、道で出会っても挨拶をする者は一人もいない。

「向こうから挨拶もしてこない者に、なぜ儂の方から挨拶をしないといけないのだ」

 それが、マー・リンの考え方だった。


 夢の中に現れる若いマー・リンが、異世界国とは紙の裏表のような童話国世界の人間だというのは。

 夢の中の若いマー・リンが見せた、タロットカードの絵柄で理解できた。


(童話国の存在は理解できた、儂にいったい何を求めているのだ?)

 夜の町を歩いている老マー・リンは、腕に蚊が止まって血を吸っているコトに気づいた。

 目を細める老マー・リン。

「そんなに腹が減っているのなら、好きなだけ吸うがいい……魔力を秘めた儂の血を」

 マーリンの邪悪な魔法が、蚊を腕から離れられないように拘束する。

 もがき苦しむ蚊の腹が血で膨らんでいく。

「もっと吸え、もっと吸え」

 蚊はゴルフボールの大きさを越えて、野球のボールくらいの大きさにまで膨れ上がると破裂した。

 血が夜風の中で飛び散る。


「ふっ、つまらない世界だ……こんな世界、消えてしまえ」

 異世界国の老マー・リンが、そう呟いた瞬間……頭の中で、何かが貫通したような感覚があった。

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