第9話・チートな能力を持った異世界国の転生&転移者は童話国の結界でその卑怯な能力を失い……裸の黄金王子の深い愛に抱かれる

 黄金の裸の王子像が建っている町の公園広場──町の多くの者たちが、町外れに出現したオレンジ色の侵攻卵を恐れて避難してしまった町。

 人の気配が無い町の中央にある公園の黄金色に輝く裸身男性像を、異世界国の割れたオレンジ色の卵から出現した数名の男たちが見上げていた。


 一人の男──生死系のチート能力スキルを、異世界国では保有していた男が言った。

「なんでこの野外展示像、金色で全裸なんだ? 芸実的なセンスはまるで感じない」


 時間次元系のチート能力を持っていた転生者が言った。

「真性の変態だな……若い女の裸身像ならともかく、こんなセンスが悪い変態男の像は広場から撤去すべきだ」


 ご都合主義の無双バトル系のチート能力を持っていた、転移者が言った。

「それにしても、オレたちの卑怯なチート能力が、童話国に入った途端に消えちまったぞ」


 世界変化系のチート能力、精神操作系のチート能力者、相手の能力を奪い系のチート能力者、そんな無敵に近い能力を異世界国では持っていた男たちも。

 この童話国に、侵入した途端に無力に変わった。

「ちょろい童話の世界なら、オレたちのチートな力で簡単に蹂躙じゅうりん支配できると、思ったのにな」

「チートな力が使えなくなった、原因を探って元のチート能力者にもどらないと」


 チート能力者たちが、そんな呟きをしながら黄金男の像を眺めていると。

 突然、金片が剥がれ落ちて、パンツ一丁の黄金の裸の王子が現れた。

「童話国にようこそ、異世界国の方々……ラブ&ピース」

 像になっていた台から降りた裸の王子に、チート能力者たちが口を揃えて言った。

「「「服を着ろ! 変態!」」」


 裸の王子は像台の裏に隠してあった、白衣コートを羽織って言った。

「まあまあ、みなさん落ち着いて……パンツ脱ぎましょうか?」

 時間次元系のチート能力者が言った。

「脱ぐな! おまえ、科学者っぽいな……おまえなら、オレたちの能力が使えなくなった原因わかるか?」

「あぁ、それは魔法使いのマー・リンが、チートな能力を童話国内で使えなくする結界を張っているからです」


 生死系のチート能力者が、驚きの声を発する。

「なにぃぃ? 童話国にも黒い邪悪な魔法使いの、マー・リンのジジイがいるのか⁉」

「マー・リンは美形の青年ですが? そうですか……異世界国にもマー・リンが、残念ながらマー・リンが張った結界は強力なので誰にも解けません」


 ご都合主義の、無双バトル系のチート能力者が言った。

「じゃあ、その童話国のマー・リンを始末すれば……オレたちの力ももどって」

「物騒なコトを、このキャンデーでも食べて落ち着いてください」


 黄金の裸の王子は、そう言うと白衣コートの、ポケットからキャンデーを取り出してチート能力者たちに渡し、能力者たちはなんの疑いも持たずにキャンデーを口に入れる。


 即効で強制的に発情させられた能力者たちは、股間の男のシンボルを押さえた。

「なんだ? 急に体が熱く」

「うおっっっ、女でも男でも、どちらでもいいから抱きてぇ!」


 頬を赤らめた黄金の裸の王子が、パンツを脱いで言った。

「ふふふ……体が激しく発情しているでしょう……ほらほら、目の前にパンツを脱いだ無防備な男がいますよぅ」

「うおぉぉぉ!」


 複数の男たちから愛されながら、黄金の裸の王子が言った。

「一人の男性から愛され、愛するのも愛……複数の男性から愛されるのも愛……愛の形はさまざま。自分の愛と異なる愛し方でも、それを否定するコトはできません、あふぅぅ」


 ついに、白衣コートも脱がされた靴だけ履いた裸の王子が言った。

「はぁはぁ……あなたたちのチート能力は封印されているのと同時に童話国の結界に吸収されて消滅しました……これからは、どの世界でもなんの能力が無い一般人モブになって、男を愛して男に愛されて生きていくのです……あぁぁぁ、男に愛されて、わたし幸せです……はふッ」


  ◆◆◆◆◆◆


 童話国平原の中央──背後には眠り女装王子ター・リアが眠るイバラ城があった。


 イバラ城を背にして、シンディ・レラと白雪王子は白い侵攻卵から出現した『スケルトン軍団』の進撃を防いでいた。

 数発発射するたびに粒子になって消滅する、ガラスの砲台を次々と生み出しながらシンディ・レラはガイコツの軍団を粉砕していた。

 バラバラになっても再生する不死のスケルトン軍団に、シンディ・レラは髪を掻き上げながら舌打ちする。

「チッ、不死身の軍団か……厄介だな」


 白雪王子の方も、雪ダルマを合体させた。巨大雪玉を転がして雪の中に骸骨を閉じ込めても、すぐにスケルトンたちは雪玉の中から這い出して復活した。

「これじゃあ、同じコトの繰り返しどうにもならない……早く酒仙、来てガイコツたちに肉づけしてよぅ」


 接近戦に備えて、クリスタルな剣を生成して、クリスタルな防具を装着したシンディ・レラが眠り城の方を見て怒鳴る。

「いつまで眠っている、ター・リア! 外は大変なコトになっているっているぞ! 起きて加勢しろ!」

 シンディ・レラに怒鳴られた当の本人、眠り王子のター・リアは、城のベッドの上で眠っていた。


  ◇◇◇◇◇◇


『イバラ城』城内の寝室──パジャマ姿で、両手を胸の上で組んで女装王子ター・リアは眠っていた。

 ター・リアから少し離れた床の上に、胡座あぐらをかいて、眠り王子の寝顔を眼窩がんかで眺めている、一人のスケルトン兵士がいた。


 盾と剣を床に置いたスケルトンの兵士は、寝室の壁に飾られている武具の類に眼窩を向ける。

 三節棍サンセツコン

 双節棍ヌンチャク

 旋棍トンファー

 流星錘リュウセイスイ

 多節鞭タセツベン

 狼牙棒ロウガボウ

 などの実戦中華武具が、コレクションのように飾られていた。


(これはヤバいぞ、うっかり眠っている時に、手を出したら寝ぼけて頭蓋骨を砕かれるかも知れない)


 一人だけイバラ城への侵入に成功したスケルトン兵士は、異世界国では王子の一人だった。

 闇に沈んでいる、生前の記憶の中で、スケルトン兵士の心にある感情が芽生える。

(抱きたい……眠っている彼を愛したい……この体が肉の体だったら)

 スケルトン兵士は、この時に自分が、魔導で生み出された骨格だけの存在なのを悔やんだ。


(肉づけされていれば、この体に血肉が通っていれば)

 眠りから目覚め、薄っすらと目を開けたター・リアが、スケルトン兵士を見て言った。

「あっ、ガイコツさんだ……イバラの眠り城にようこそ」

「わたしの姿を見ても怖くはないのか?」

「別に、ボクの体の中にも骨は入っていますから」

「そうか優しい女装王子だな……君を抱き締めたいのだが、肋骨が君の体に刺さりそうで怖い……この体にもっと肉がついていれば」


 嘆いているスケルトン兵士に、ター・リアは言った。

「大丈夫ですよ、夢の中で酒仙が伝えてきました……もうすぐ到着して、スケルトン兵士は仙術で肉付けされるみたいです」

「本当か?」

「はい、だから希望を捨てずに待っていてください……あっ、はじまったみたいです」


 ピンク色の波動が寝室を通過して、スケルトン兵士の骨体が肉体へと変わる。


 異世界国の王子が、自分の体を触って確かめながら言った。

「黒い魔法使いのマー・リンから、殺されてスケルトンの呪いをかけられる前の、生前の姿にもどった?」

「良かったですね……ボクを抱きますか?」

 そう言ってター・リアは、胸をはだけさせて男の平らな胸を見せた。

 床に盾と剣を置いたまま、ター・リアに近づいた生身のスケルトン兵士はター・リアの薄い胸板を撫で回す。

「男の胸……男の乳首」

 ター・リアのルビーの宝石を舌先で、コロコロと転がしながら脱衣して……その流れで生身のスケルトン兵士と眠り王子は愛し合った。


  ◇◇◇◇◇◇


 ター・リアと、男の肉体を得たスケルトン兵士が城で愛し合う少し前──スケルトンの軍団が群がる平原に、ソン・ゴ・クウが操る筋斗雲に乗った酒仙、藍菜和あいさいわが現れた。

「遅れてごめんなさぁいねぇ、あちらこちらで侵攻卵が割れて異世界国の軍団が、溢れてきてその対処が大変で」

 上空を旋回している筋斗雲に向って、スケルトン兵士と刃を交えているシンディ・レラが怒鳴る。

「なんでもいいから、コイツらを生身の男に変えてくれ……うわぁ」

 スケルトン兵士の骸骨山に埋もれる、シンディ・レラと白雪王子。


 藍菜和が導線に着火した、花火玉のような仙薬玉を空中に放り投げる。

 爆発した仙薬玉から広がったピンク色の波動が、スケルトン兵士たちを男に変える。


 男の山から這い出てくる。シンディ・レラと白雪王子。

「助かった……一時はどうなるかと、思った」

 筋斗雲に乗っているソン・ゴ・クウが自分の髪の毛を引き抜いて、分身を作ろうとしていたのを藍菜和が制する。


「ゴ・クウちゃん、今回はそれはいいの……三人の女装姫王子が、スケルトンの相手をするからルールだから」

 藍菜和は男の肉体を得たスケルトンの軍団に自己判断で、三つの列に分かれてもらった。

 なぜか、眠り王子ター・リアのプラカードを持った、ソン・ゴ・クウの前に男たちは多く整列する。


 それを見た二人の女装姫王子は、不満の声を漏らす。

「なんで、眠ってばかりの活躍しないアイツに、人気が集まるんだよ」

「不公平……眠っている王子を抱きたがるマニアが多すぎる」


 自分の前に整列している男たちに向って、シンディ・レラと白雪王子が小声で、同じ内容の言葉を呟いた。

「初めてだから、優しくしてくれ」

 シンディ・レラと白雪王子は、自分を選んでくれた男たちを引き連れて。

 それぞれの城にもどって……愛し合った。

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