第7話・引きこもりのピノッ・キオ……心を解放して男を抱け……異世界国の侵攻卵出現

 モモ太郎一行は、クジラ型をした奇妙な家の前に来ていた。

 ガラガラ・ドンがいくらドアをノックしても、中から返事はなかった。

「留守……ですか?」

「いや、クジラ家の屋根から、クジラが潮を噴いているように煙が出ているから、中にいるはずだ……おーい、『ピノッ・キオ』いるのはわかっているんだ、おまえの唯一の友だちの黄金の裸の王子が心配して、様子を見てきて欲しいと頼まれたモモ太郎だ……返事が無かったら、ドアをぶち破って中に入るぞ」


 モモ太郎が拳を握って、ドアをぶち破ろうとした時──中からカギが開いた音が聞こえ、青い鳥のコスプレをした男性がドアを開けた。

「黄金の裸の王子の助手をしている。幸福の青い鳥か……なるほど、引きこもりピノッキオの世話をしているのか……ピノッキオは、奥にいるのか?」

 うなづいた青い鳥が、奥の部屋を指差す。

 部屋のドアを開けると、木製のマスクをかぶった青年が椅子に座っていた。

 マスクの鼻は棒状に突き出している。

「いたなぁ、ピノッキオ……黄金の裸の露出王子が言っていた。異世界国からの侵攻を防ぐために、敵を抱いて抱かれる仲間は多いほうが一人でもいいと……ピノッキオ、おまえも童話国の危機に協力してくれないか? おまえは能動的攻めなのか?」


 ピノッキオの鼻がググッと前方に伸びる。

「じゃあ、受動的受けなのか?」

 また、ピノッキオの鼻がググッっと伸びる。

「どっちなんだ? リバースなのか?」

 縮んだピノッキオの鼻が、ピクッピクッと上下に動いた。

「そうか、攻めも受けもどちらもオッケーな、リバースなのか……まっ、オレもムリにとは言わないから。自分の殻を破る気になったら愛の参戦をしてくれ……じゃあな」


 それだけ言い残して、モモ太郎たちはクジラの家を出た。

 歩きながら、肩にティンカー・ヘルを乗せた温羅が、少し悲しそうに顔でモモ太郎に言った。

「ずっと考えてきましたけれど……頭では割り切っていてもボクの心は、割り切れないコトがあるんです」

「話してスッキリしてみろ、聞いてやる」


「やっぱりボク、モモさんが他の男を抱くなんてイヤです……モモさんは、博愛主義で童話国のために敵さえも愛さないといけないのは、わかっています……でも、どんなに敵を抱いて愛しても。ボクに注ぐ愛情だけは、ちょっぴりで他の人よりも上であって欲しい……コレって童話国の人間としては、ワガママな願いですか?」


 立ち止まったモモ太郎は、温羅の頭を大きな手で優しく撫でた。

「話してくれて、ありがとう……それは温羅の正直な気持ちだと受け止めた、ちょっぴりだけでも温羅を他のヤツよりも強く愛してやる」

「モモさん……」

 モモ太郎は、残雪が残る山の稜線を眺めながら言った。

「辛いよな、童話国の住人は多くの人から愛されるのが宿命だから……自然と愛の形も多様化しちまう」


 モモ太郎たちが、歩いている道の丘を少し越えた辺りに知っている顔の人物が立って、山の方を凝視していた

 近づいたモモ太郎が、腕組みをして残雪の山を見ている人物に話しかける。

「奇遇だなスサノオ……おっ、エロスも一緒か」

「モモさんか、説得の方の状況はどうだ?」

「まずまずと、いったところだ」

「そうか、いい剣を背負っているな。オレの神剣〝アメノムラクモノツルギ天叢雲剣〟と交換しないか」

「断る、この聖剣エクスカリバーは、オレのモノじゃないから」

「それが、伝説の聖剣エクスカリバーか……冗談だよ、交換なんてできるか」


 モモ太郎がスサノオノミコトに質問する。

「こんなところで何をしているんだ?」

「やはり気にはなっていたのか、オレが半分所属している日本神界のアマテラス大神と、エロスが所属しているギリシャ神界のゼウス神、それとエジプト神界のラー神がこっそり、異世界国が侵攻を開始する場所を教えてきやがった……アレだ」


 そう言って、スサノオが指差した先の空間から、赤い卵の先が空間を押し開けるように出現して、卵の表面に亀裂が走った。

 楽しそうな笑みを浮かべるスサノオ。

「いよいよ、はじまったぞ異世界国の侵攻が……さてさて、どんなヤツが卵の中から出てきて抱いてくれるかな」


  ◇◇◇◇◇◇


 割れた卵から鼻先を覗かせたのは、ハ虫類型の生物だった。

【ドラゴン軍団】が次々と童話国に現れた。

 それを見たスサノオが残念そうな顔をする。

「なんだよ、ドラゴンか……童話国にもドラゴンはいるから、珍しくもないな……モモ、この場合どうしたらいい? ドラゴンを可愛がって愛するのか?」

「作戦は考えてある、こちらも竜系の怪物を出そう……だが、戦わせるなよ威嚇いかくさせるだけだ。酒仙の藍菜和が到着するまで、オレたちで持ちこたえて、なんとかする」

「わかった……とりあえずは、先鋒で出すのはヤマタノオロチだな、その後は次鋒でロン


 スサノオがアメノムラクモノツルギを地面に突き刺すと、大地から八本の頭があるヤマタノオロチと東洋の龍が現れた。

 ドラゴン軍団がビビっている間に、竜退治が専門のスサノオは次々とハ虫類系の怪物を出してきた。

 黄金のリンゴを守るラドン。

 英雄ジークフリードに退治された、魔竜ファーブニル。

 裸の男性を見ると顔を赤らめて逃げていく、メスの竜ギーブルなどなど。

 次々と現れた童話国のドラゴン系に、完全にビビったドラゴン軍団は、牧場の羊の群のように一箇所に固まって動かなくなった。

 

 それを見て、モモ太郎がガラガラ・ドンに言った。

「出番だ、巨大化してドラゴンを撫でて、よしよししろ」

 ガラガラ・ドンが雲を越えるほどのサイズの超ガラガラ・ドンに膨れ上がり。

 一匹のドラゴンをつかまえると、なでなでした。

「よしよしよし、怖くない怖くない」

 ドラゴンたちは完全に戦意を喪失する。

 そこに、ソン・ゴ・クウの操る筋斗雲に乗った、藍菜和あいさいわが現れた。

 着陸した筋斗雲から、酔っ払った千鳥足で地面に立った藍菜和に、ソン・ゴ・クウが呆れた頬杖で言った。

「そんなに酔っ払っていて、仙術使えるのか? 頼まれて筋斗雲タクシーで連れてはきたけれど、本当に大丈夫かよ?」

 ヒョウタンに入った仙酒を飲みながら、呂律ろれつが回らない女装酒仙が言った。

「らいじょうぶ、この藍菜和にドーンとまかせなしゃい」

 藍菜和は、仙薬の錠剤を口に含んで仙酒で溶かすと、霧のように口から放出した。

 濃霧に包まれた、異世界国のドラゴン軍団と、童話国の竜系が男の姿へと変わる。

 ヤマタノオロチは、八人の男性に変わった。

「さぁ、男同士で愛し合いなさい」


 異世界国のドラゴン軍団と、童話国の竜たちが仙術の媚薬で操られ愛し合う。

 ある者は半裸で、ある者は衣服をすべて脱ぎ去り。

 童話国の大自然の中で、抱擁して愛し合う。

「んん……んぁ」

「あふッ……あぁぁぁ」

 ヤマタノオロチの頭から変化した一人の男が、ドラゴンから変わった男の体を強く抱き締めて唇を重ねる。

「んくッ……んッんんッ」


 男が抱かれ、男を抱く……互いの体を愛撫して愛し合っている男たちを見て、体が熱くなったモモ太郎とスサノオも、あぶれて寂しそうにしているドラゴンに向って。

「オレたちが相手をしてやるよ、だから童話国では大人しくしていてくれ」

 そう、言って。

 人間のいい男になったドラゴンを、たくましい胸板で優しく抱いて愛した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る