第5話・ポチよ裏の畑でミドルな年齢のアニキに抱かれて鳴け……ついでに敵にも抱かれろ

 カグヤの竹林の裏にある畑にやって来た、モモ太郎たちは畑をクワで耕しているイヌ耳青年に遭遇した。

 モモ太郎がイヌ耳青年に近づいて訊ねる。

「おまえが『ポチ』か?」

「はい、そうです。ボクがポチです」

 ポチのクワが畑の中に埋まっている、黄金色の物体に接触する。

 土の中から掘り出した物体を手にしてポチが呟く。

「また大判か……これじゃあ、畑の耕作が進まない」

 そう言うと、黄金色の大判を畑の石扱いで、畑の脇に放り投げる……そこには、大判小判や宝石が散乱していた。


 モモ太郎がポチに、訊ねる。

「ポチの主人は、やっぱり〝花咲かじいさん〟か?」

花咲はなさきは花咲ですけれど、老人ではないです」

「どういう意味だ」

「言葉で説明するよりも、実際に本人を見てもらった方が……あ、ちょうど、やって来ました」


 ポチが見ている方向から、風呂敷包とヤカンを提げた。

 青みがかかったシルバー髪のミドルな年齢で、後ろ髪を束ねているサングラスをした、ダンディな和装男性がこちらに向って歩いて来るのが見えた。

 ナイスなミドル年齢の男性がポチに向って言った。

「ポチ、握り飯と麦茶を持ってきた。少し休憩だ……おや? モモ太郎じゃないか?」

「オレを知っているのか? オレはあんたを知らない」

「ムリもないな、あの時に会ったオレはヨボヨボのじいさんだったから……若返りの桃を食べて、この姿になったんだよ」


 ナイスなミドル年齢の男性が続けてしゃべる。

「モモの家のじいさんと、ばあさんも若返りの桃を食べて、若返っていたはずだが?」

「桃から生まれたオレを育ててくれた息子と娘は、じいさんとばあさんだったのか! 気づかなかった」

「その、モモのところの、じっさまとばっさまから聞いた若返りの桃を半分だけ食べてこの姿になった。あまりガキの姿だとナメられるからな……ミドルエイジのこの年齢がちょうどいいんだよ、オレのコトは『花咲はなさきのアニキ』と呼びな」

「花咲のアニキ、教えてくれ。人魚王子が言っている陸の王子って若君なのか?」


「おうっ、あの殿さまの息子の若君か、知っているぜ……オレがジジィだった頃に、殿さまの行列の前で枯れ木に花を咲かせて褒美ほうびをもらったのは、ちょっとしたイリュージョンだったけれどな……いろいろと、ヤバいブレンドをした灰を撒いてな……まあ、あの木の下に座って。握り飯でも食いながら話そうや」


 木の下で握り飯を食べて、麦茶を飲みながらモモ太郎たちはアニキの話しを聞いた。

 花咲のアニキの話しだと若君は世襲で先日、殿さまになったらしい。

「陸の王子が、陸の殿さまに出世か……ありがとう、城に行ってみる」

「行くならオレが、紹介状を書いてやろう。それを城の門番に見せれば、簡単に城内に入れてくれるはずだ」


 畑の草むらでは、キリギリスのコスプレをした男性が、切り株に腰かけてバイオリンを奏で。 

 アリのコスプレをした青年たちがセッセッと、布袋に入った荷物を担いで宅配をしていた。

 アリとキリギリスを眺めながら、花咲のアニキが握り飯を食べているポチに言った。

「今夜も抱いて、愛してやるからなポチ」

「くぅぅぅん」

 ミドルな年齢のアニキに抱いてもらえる嬉しさに、ポチは尻尾を振った。


  ◇◇◇◇◇◇


 和の城で、チョンマゲを結った陸の殿さまと会って。

 人魚王子が敵に抱かれるコトを承諾してくれるように、頼んだモモ太郎に話しを聞き終わった殿さまが言った。

「あいわかった緊急の事態じゃ、余の口から愛する人魚王子に他の者に抱かれても良いと承諾を伝えよう」

「助かる、これで一途な海賊ブックも、敵を抱いて愛してくれるようになる……一人でも多くの童話国の者が、敵を抱いて、敵に抱かれて互いを愛し合えば争いは消える」


 陸の殿さまがモモ太郎に言った。

「時にモモどのに相談があるのだが……これが何かわかるかな?」

 そう言って、紫色の巻かれた布の中から、取り出したモノを見て。ティンカー・ヘルが思わず驚きの声を発する。

「『聖剣エクスカリバー』⁉」


「いつの間にか、家宝の『妖刀ムラマサ』とすり替わっていた……元に持ち主に剣を返して、妖刀ムラマサを取り返してはくれないか」

 家来が持ってきて、目の前のたたみの上に置いた『聖剣エクスカリバー』をモモ太郎は、複雑な面持ちで眺めた。


  ◇◇◇◇◇◇


 背中に聖剣エクスカリバーを背負って、街道を歩くモモ太郎の姿を並び歩いている温羅は、うっとりとした表情で見ていた。

「聖剣を背負ったモモさんも、また一段と凛々りりしくていいですよ」

「オレ的には、西洋剣を背負ったモモ太郎ってのは、どうもしっくりこないのだが」

「次はどこに向うんですか?」


「『黄金の裸の王子』がいる町に行く、あいつは科学者だから異世界からの侵略者がどんな方法で、どこに出現するのか知っているはずだ……変わり者だが、ずいぶん前に一度だけ、童話国の裏側には異世界国の存在があるらしいと……言っていたのを聞いた覚えがある」


 林の並木道を歩きながら、温羅がモモ太郎に訊ねる。

「女装癖がある男のの男姫たちの説得はどうします?」

「男の娘姫たちは、同じ女装の『ドロ・シー』と『ア・リス』に任せてある……同じ性癖同士の方が説得も上手く進むだろう」

「だと、いいんですが」


  ◇◇◇◇◇◇


 モモ太郎一行は、黄金の王子の像が飾られている町の公園にやって来た。

 町のシンボルにもなっている、公園中央にある『黄金の王子の像』の周囲には、町の人たちが集まって……その時が来るのを待っていた。


 やがて、動物の彫刻や動物の頭部が彫られた楽器を持った楽隊ユニット『青年ブレーメン』が楽器を奏でると。

 王子の像から金片が剥がれ落ち、中からパンツ一丁姿の『黄金の裸の王子』が出てきた。

 拍手が沸き起こる中、像の周囲を笑顔で歩き回る、黄金の裸の王子はモモ太郎の姿を発見すると。

 親しげに話しかけてきた。

「やぁ、モモ……特別サービスで、パンツも脱ごうか?」

「服を着ろ! 変態王子! なんか、二種類のキャラが混ざっているな」


  ◇◇◇◇◇◇


 黄金の裸の王子の研究室──パンツ一丁の体に白衣コートを羽織っただけの科学者王子は、フラスコで沸かしたコーヒーをカップに注ぎながら聞いてきた。

「モモたちも、飲むか怪しい実験で使った器具で煎れたコーヒー」

「いや、結構……おまえ、まだあんなパフォーマンスで研究資金稼いでいるのか?」

「雇ったブレーメンの楽団に演奏代を払ったら、いくらも残らないがな……観光にもあのパフォーマンスは貢献している、元々はオレは公園にあった黄金の立像だからな、マー・リンの魔法で命を得た……パンツ脱いで全裸になろうか?」


「脱ぐな! このどこでも露出狂、聞きたいコトがある……異世界国は、どんな方法でこの童話国に攻め込んで来るんだ?」

 コーヒーを飲みながら、黄金の裸の王子が言った。

「〝巨大な卵〟だ」

「卵?」

「童話国の随所に、巨大な卵が空間に半分だけ出現する……その卵が割れて中から魔王軍が現れる」

「二つの世界が繋がるってコトか……各地に出現は厄介だな」


 モモ太郎が薬剤棚に置いてある、ビンに入った液体を手にして眺めていると、黄金の裸の王子が言った。

「その薬はア・リスに頼まれて調合した巨大化の薬だ、隣に置いてあるのが普通のサイズにもどる薬だ……菓子のビンに入っているキャンデーは、失敗作の〝男を強制発情させるキャンデー〟だ、食べるなよ……いいか、絶対にだぞ! 絶対に食べたらダメだからな!」

「相変わらず変な薬ばっかり、作っているな変態露出科学者」

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