第4話・人魚王子と海賊ブック……博愛主義で敵を抱いて敵に抱かれろ

 ガラガラ・ドンが浜で拾った男妖精は『ティンカー・ヘル』と名乗った。

「ボク、海賊ブック船長の肩に、いつもちょこんと座っていたんですけれど。妖精王から確かめて欲しいコトがあると、ミニ渡りガラスから連絡を受けて……船長の肩から離れたら強風で流されて海にポチャンと」


 モモ太郎がティンカー・ヘルに質問する。

「妖精だったら、振りかけたら空を飛べる、魔法の粉みたいなの持っていないか? それがあれば『ウラ・シマ』のボッタクリなカメタクシー運賃払わなくて済むんだが」

「空を飛ぶ魔法の粉は切らしていて、代わりに振りかければクシャミが止まらなくなる粉なら、羽から出せますよ……コショウで名前の粉なんですけれど」


「そういうのはいいから……で、妖精王オベロンからの伝令ってなんなんだ?」

「円卓の騎士の王子『白馬に乗ったアー・サー』って知っていますか?」

「マー・リンのところにいる、無口で影が薄いヤツだな」

「実は白馬に乗ったアー・サーが持っている聖剣エクスカリバーが、本当に妖刀ムラマサにすり替わっているのか確かめてこいと」


「おいおい、いくらなんでも。そりゃあ気づくだろう、西洋剣と日本刀だぞ」

「いえ、白馬に乗ったアー・サーなら。いつもボーっとしていますから気づいていない可能性があります。何者かの画策ですり替わっていたとしたら……恐ろしいコトに」


 妖刀ムラマサは、一度抜いたら多くの者の血を求めて、手にした者を操って大量虐殺を実行する。


 ガラガラ・ドンが言った。

「何者かが、ある目的で聖剣と妖刀をすり替えたと……いったいなんの為に?」 

「わかりません、それも含めて探るのが密命です……助けていただいてありがとうございます、それじゃあボクは行きますから」


 そう言って、空中に飛び上がったティンカー・ヘルの体は、潮風を受けて横に流されていった。

 数分後──温羅の着物の襟に、入れられた妖精ティンカー・ヘルの姿があった。

 ティンカー・ヘルが温羅の着物の中に、顔を沈めて言った。

「重ね重ね、ご迷惑をお掛けします」


 砂浜に立って腕組みをして、海を眺めているモモ太郎が言った。

「まぁ、オレたちと一緒にいれば。そのうちアー・サーにも会えるだろうから……さて、海を渡って男人魚アーマン王子の島へ行くとするか……あまり、ボッタクリな料金の海ガメタクシーには、乗りたくないんだが」

 モモ太郎が、そう呟いて海を眺めていると、島のように巨大なウミガメが浜に向って近づいてきた。


 巨大ウミガメは、浅瀬で止まりカメの背中には腰ミノをつけた、アロハシャツの短パン男が座っていた。

 ビーチサンダルを履いた『ウラ・シマ』が立ち上がって、モモ太郎を見下ろして言った。

「よ、モモ久しぶりだな」

「ウラ・シマ、そのカメまた成長して、でかくなったんじゃないか?」

「しかたがないよ、コイツの餌代稼ぐために運賃値上げを続けているようなものだから……運ぶのは三人か」

 ウラ・シマの言葉を聞いてガラガラ・ドンが言った。

「ボクは小さくなるので、運ぶのはモモさんと、温羅さんの二人です」


 そう言うと、小ガラガラ・ドンが縮んで人形サイズになって、温羅の懐中に飛び込む。

 ガラガラ・ドンの足が乳首を、ボルダリングの人工の石のように足場にされた温羅は顔を少し赤らめると「あふっ」と、短い喘ぎ声を漏らした。


  ◇◇◇◇◇◇


 モモ太郎と温羅が巨大ウミガメの甲羅横に取り付けられた、金属のハシゴを登りカメの背中にある座席に座ると巨大ウミガメは、人魚王子の島へと向って泳ぎはじめた。


 海上を波しぶきをあげて進む巨大カメの背中で、モモ太郎はウラ・シマにも異世界の敵が侵攻してきたら愛するように説得してみた。

「まぁ、モモがそう言うなら〝敵も愛するが〟オレはモモの目から見て〝相手から抱かれる方受動的〟なのか〝相手を抱く方能動的〟なのか? どっちなんだ?」

「ウラ・シマは、どちらも可能な〝リバース〟だな」


  ◇◇◇◇◇◇


 そうこうしている間に、巨大ウミガメは人魚王子の島へ到着した。

 島の沖では空中に浮かぶ翼が生えた海賊船と、海上に裸の上半身を出して三叉槍トライデントを持った、海中の下半身が魚体の『人魚王子』と。

 海賊船の船縁から海上の王子を見ている『海賊ブック』の姿があった。


 ?型の片腕で背中を掻きながら、アイパッチで片目を隠した美形のブック船長が人魚王子に向って言った。

「オレの……オレだけの男になれ、軟弱な陸の王子のコトなんか忘れちまえ……あんなチョンマゲ野郎のどこがいいんだ」

 ブックの隣には、ワニの着ぐるみを着て、ワニの口から顔を覗かせている少年『ワニ男』が。

「チクッ、タクッ、チクッ、タクッ」と口時計のマネをして立っていた。

 海賊船のマストには、海鳥たちがとまっている。


 人魚王子がブックの問いに答える。

「陸の王子の悪口を言うな、彼のコトを何も知らないクセに」

 人魚王子の周囲に、海の生物たちが浮かび上がる。

「オレの男になれ」

「イヤだ」

「オレだけの男になれ」

「断る」

 そんな二人のやり取りが続く中、カメの背中に立ったモモ太郎が横から口を挟む。

「取り込み中のところ悪いが、ちょっと俺の話しを聞いてくれないか」


 モモ太郎は、もうすぐ異世界からの侵攻が開始されるから、人魚王子と海賊ブックにも協力して、敵を愛してくれと……頼み込んだ。

 モモ太郎の話しを聞いた海賊ブックが即答する。

「オレが愛するのは、メインで人魚王子ただ一人だ、サブで敵を愛せるか」

 人魚王子も即答する。

「オレのこの体は人間の上半身も魚の下半身も全部含めて、陸の王子さまのモノだ……まぁ、王子さまがオレに敵も同様に愛するように言ったら……敵に抱かれてもいい」


 海賊ブックが続けて言った。

「オレも人魚王子が敵に抱かれるのなら、敵を抱いてやってもいい…

…メインの恋人は、あくまでも人魚王子だが」

 腕組みをして、少し考えていたモモ太郎が言った。

「わかった、とにかくその陸の王子が承諾してくれれば、敵を愛してくれるのだな」

「裸で敵と、添い寝をしてやってもいい」


  ◇◇◇◇◇◇


 元の浜辺にもどってきたモモ太郎が呟いた。

「人魚王子の言っている陸の王子が誰なのか、探すのがむずかしいな……童話国で王子と言えば、シンディ・レラの王子、眠りの森の王子、スノー・プリンスの王子……魔法にかかったカエル王子もいるか……でも、どの王子も人魚王子の相手とは思えないな」

 モモ太郎が行き詰まっていると、人間サイズにもどったガラガラ・ドンが小声で言った。

「あのぅ、少し気になるコトがあるんですけれど海賊ブックがチラッと『あんなチョンマゲ野郎のどこがいいんだ』と言ったのを聞いたんですけれど……もしかして、人魚王子の相手の陸の王子って。王子じゃなくて。若君じゃないんですか」


「若君? 殿さまってコトか……和のティストを持った、童話国の殿さまや若君と言えば?」

 考えていたモモ太郎が、ハッとした顔をする。

「急いでカグヤの竹林にもどるぞ……竹林の裏の畑だ!」

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