つまりはわたくしは速い部類というわけですわね。

1、2塁間へ痛烈な当たり。しかしそこはセカンド平の守備範囲。インフィールドラインの向こう側にグラブを伸ばして打球を掴むと、体を逆側に流しながら1塁へ正確な送球。



緑川君も根性のヘッドスライディングを見せたが、間一髪でアウトにされてしまった。



くそう!と、地面を叩きながら立ち上がり、ベンチへ戻っていく緑川君に、スタンドから温かい拍手が送られた。



惜しくもアウトになりましたが、最高の進塁打。1アウト3塁となり、1番のナミッキー。犠牲フライにされたくないと、バッテリーは低めを振らそうとする。


その誘い球をきっちり見極めるなど、アウトローいっぱいにストレートが1球決まっただけで、キャプテンは結局フォアボールを選んだ。



1、3塁。



欲しい欲しい追加点。いまだショー君は1本のヒットも許していない状況ですから、ここで1点取れたらこの試合は………。


と、なんか焦ってしまった。ナミッキーの打席で真ん中から外に曲がる変化球で内野ゴロを打たそうとする配球だったのに、それをずっと見ていましたのに。


まんまとそれに引っ掛かる38歳。



ストライクからボールになるスライダー。若干引っ張りにかかったスイングでショート正面のゴロを打ってしまった。




「打って、ショート正面だ!!ゲッツーコース!ショート森浪から……平、ファーストのケニー!ヘッドスライディング!……セーフだ!セーフになりまして、その間に山田がホームイン!!ビクトリーズに2点目が入りました!!」



「新井が一生懸命走りましたね。当たり前ですけど」



「そうですね。この回先頭の山田、アウトにはなりましたが、次の緑川。そして新井。3人がヘッドスライディングを見せるチームとしての気迫で貴重な2点目です。


完全にダブルプレーコースかと思いましたが……今、トラックマンのデータが出ます。速報値ですので参考までになりますが。


今の新井の1塁到達タイムは4秒33。その前の緑川が3秒92でした。一般的に、右バッターは4秒25、左バッターは3秒85を切ると速いと言われています」



「今の技術というのはすごいですね。目の前のモニターに全部出ますから」



「そうなんですよね。ビクトリーズスタジアムの実況席は、ホームベース後方のバックネット席のさらに上のところにあるんですが。


私達の目の前には、バックスクリーンからの映像やリプレイなどが適宜流れるメインの大きなモニターが3つありまして。その横に可動式のサブ液晶があり、さらにトラックマンデータが表示されるモニターもあります」




「さらに今ですと、ピッチャーが投げた1球毎の回転数だったり、スピードはもちろんですし、フリーアングル3Dでストライクゾーンのどこを投球が通過したかも分かります。


またバッターがボールを打てば、打球速度と角度、飛距離が表示されますし、今のように各塁への到達タイムやそのランキング。野手の送球速度なども10秒以内に出ますので。


それを確認しながは、我々お伝えする側は情報や知識としてそれらに触れながら実況解説出来る。そういう時代になって来ました」



「私がプロ野球選手としてプレーしたのは、昭和の後期から平成の中頃まででしたので、その時と比べると本当にすごい技術が使われているなあと実感しましたよ。なかなか当時は自分の打球速度はどのくらいかなんて分かりませんからね」



「まさにテクノロジープロ野球。これからも、気になるデータなどがありましたから、その都度ご紹介していきたいと思います。さあ、マウンドに集まっていたジャガースの内野陣がそれぞれ守備位置に散っていきまして、試合が再開されます。


2アウトランナー1塁となりまして、バッターは3番の祭。……外のボール打ちました!!右中間方向だ!……この方向の祭の打球は伸びるぞ!センターバック、センターバック!!……越えました!フェンスに直接当たる!!さあ、タイムリーになるのか!?」




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