古巣ですからね。インコースビュンビュンよ。

「そうですね。開幕からここまでしっかりゲームを作っていますから。この辺りの連戦でビクトリーズの中継ぎ陣はだいぶ疲れが溜まっていますのでね。7回。欲を言えば8回まで勝星にいってくれたら相当大きいですよね」


「なるほど。今シーズンはここまで7勝0敗、防御率1、82。今日勝てれば再びハーラー単独トップに立つという勝星。交流戦優勝を賭けた両チームの激突。いよいよ試合開始です!」





「1回表。ジャガースの攻撃は、1番、セカンド、平」



いつものように変わりなく、飄々と淡々とマウンドに上がったように見えたショー君であったが、平君への初球。高めに外れたストレートが今年最速の131キロだったのを見ると、やはり自然と入ってしまう力というのがあるのでしょう。



2球目のストレートもアウトハイに抜ける形になり、レフトの義兄も思わず……。



大丈夫、大丈夫!いつも通り!



と、声を張り上げてしまった。



いかん、いかんと2回ロジンに手を伸ばし、両足を伸ばすようにしてから、帽子を取り、額の汗を拭った。



3球目。アウトローに真っ直ぐが決まりストライクを1つ。



4球目のインサイドに食い込ませたカットボールを平君が打ち返した。



詰まった打球はボテボテ。ショー君が打球に向かって走る。平君は俊足だ。ライン際に転がる打球を素手で掴み、強引にスローイング。


それがバッターランナーと重なるような格好になり、ファーストの芳川君は捕れなかった。



ボールはエキサイティングシート前を転々。平君は2塁に向かい、ボールに追い付いた祭ちゃんが送球。


これがワンバウンドになり、グラブだけで簡単にキャッチにいった並木君が後逸。


つまりは……。



「また悪送球になってしまったビクトリーズ、平は3塁へ行く!!ボールは新井が拾って、反転して投げました!ノーバウンド、いいボールが返ってきました!……アウトになりました!!」



イケメンとはこういうことなんですわよ。



暴投したり、後ろに逸らしたりした野郎共が揃って俺の方を見る。


俺は地面に手を向けて、まあまあ落ち着いてプレーしなさいと、大人のアドバイスを施して、守備位置へと戻っていくのだ。



「エラー2つでノーアウト3塁になるかというところでしたが、新井がしっかりとここはカバーしていました」


「昔からね、こういうところだけはきっちりやる選手でしたよ。常に何かが起こるかもしれないという思考を持っていますから、予想出来ないことが2つ起きた瞬間も冷静でしたよね」


「過去にゴールデングラブ賞を何度も獲得している勝星にしてみれば1塁への暴投、珍しいプレーになりました。2番は吉岡です。……外の変化球、打っていってショート正面。並木が捌いて2アウトです」



2番打者に続いて打撃好調の3番も低めの変化球を打たせてセカンドゴロ。結局は3人で立ち上がりを終えた形となったショー君。



緑川君とグラブでタッチを交わしながらも、いきなりやってしまったと、ベンチに戻ってから相当に悔しがっていた。



古巣との初対戦で色々と考えてしまうことがありますから、早めに援護してあげて楽に投げさせられる状況にしてあげたいですよね。



ジャガースの先発は藤山というチームの勝ち頭。右のサイドハンド。スライダーとシンカーを使って横幅を広く使ってくる。



1番はナミッキー。初球。そのスライダーが真ん中に来た。



カァンッ!!



まだまだ明るい空に気持ちいい音が響く。



センター前へクリーンヒットになった。



「2番レフト新井」



わたくしはこのところ、ちょっとばかしヒットには恵まれる都合15打席程連続で凡退しておりまして、打率も4割を切ってしまっている状態。



昨日までね、色々と考えることをしていたのだが、今はチームとしての明確な目標がありますから。


ジャガースに勝つ!そして交流戦で優勝する!



そういう目標。



しかも今日はね、年は違えどほとんど同じ土地で育ち、今や同じユニフォームを着て頑張る弟がいるわけですから、自分に出来ることをしっかりやろうという気持ちが楽にさせてくれた。



インコース寄りの速い球であったが、上手くミートすることに成功。広く空いたゾーンへ打球が転がったが、セカンドの平君がこれをダイビングセーブ。


膝を着きながらの送球で俺はアウトにされてしまった。



ランナーは2塁に進み、お祭りちゃんもインコースに食い込むボールを打ち返す。ピッチャーの足元を抜け、センター前!


という打球を今度はショートの森南がギリギリで止めた。それでも、持ち替える際にボールがポロリとこぼれ、内野安打となった。



1アウト1、3塁とチャンスを広げ、4番芳川。


これもインコースだった。



またまずまずのいい当たり。今度はサード小山。難しいバウンドを足で滑り込みながら捕球も、グラブを弾かれる。



拾い上げて1塁に送球したのみ。その間にナミッキーが生還し、ビクトリーズが1点を先行した。




その後は両投手が踏ん張り、4回表ジャガースの攻撃は1番から。



「勝星はここまで3イニングスで1人のランナーも許していません。奪三振はありませんが、無四死球、33球とテンポよく来ています。萩山さんいかがでしょうか、勝星のピッチングは」


「ここまでは理想的なペースで来ていますよね。序盤はちょっと力むところこそありましたけど、コントロールは抜群で変化球もキレていますし、緩急で戸惑わせている部分もありますからね」


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