たまにはやらないとヤバい立場ですわね。
「終盤の逆転が今年はいくつもあるパープルスとしては、このままの点差で凌いでいけば、逆転のイメージは十分にあることでしょう。2アウト1、2塁としまして、バッターは桃白が入っています。今日はまだヒットがありません」
「変化球をね、低め、低めに集めて引っ掛けさせたいところですよね。速いボールが高めに抜けるのはまだいいんですけど、変化球が浮いてしまうのはちょっと危険ですよ」
「ピッチャーは4番手の野田です。左対左の勝負。1ー1からの3球目です。投げました!高め、変化球が抜けてしまった!!打球はライト後方だ!下がっていきますが、見送っている!!入りましたー!桃白に3ランホームランが飛び出しました、第4号です」
体はちょっと打ちたい気持ちが出ちゃっていて、結構開き気味だったんですけど、ややインコースよりのカーブの抜け球でしたから、そういうバットの出し方でちょうどよかったみたい。
高い弾道の打球はぐんぐん伸びてそのままライトスタンドへ。リードを5点に広げるでかい1発に3塁ベンチは盛り上がった。
リードが広がったことで、セットアッパー陣はちょいと待機。勢いのある2年目の矢崎が2イニングを投げ、最後は5年目の式田という、思田君を含めたドラ1リレーでパープルス打線を封じたのだった。
翌日も、なんだか桃ちゃんデーだった。この日は5番に入ったマテルと7番の桃ちゃんの2人で勝手に点を取ってくれますから、上位4人が4タコというサボり具合でも、とにかくその2人が働いた。
2回はマテルがあとちょっとでホームランだった2ベースから桃ちゃんも鋭くライト線を破るツーベース。
4回はフォアボールを選んだマテルが盗塁を決めると、桃ちゃんがしぶとく左中間に落とし、さらにノッチの打球が相手のエラーを誘い3点目。
6回はマテルに今シーズン2本目となるホームランが飛び出すと、桃ちゃんも2試合連続となる5号ツーランで追撃した。
5点をもらった中山諒がフォアボールを6個出す荒れっぷりであったが、得意のシュートボールが要所要所で決まった。
相手打線に4併殺を打たせる結果となり、なんだかんだで6回を1失点にまとめてしまったのだった。
翌日の3戦目。
パープルス中川、ビクトリーズ道島というルーキー同士の投げ合いは序盤2イニングは互いに譲らずのノーヒットピッチング。
3回表、柴ちゃんから始まるビクトリーズの攻撃。
「パープルス中川は、新井、祭から連続三振を奪うピッチングもありました。打順は7番の柴崎から」
「出すとうるさいバッターですからね。しっかり低めの変化球も使いながら丁寧に投げていきたいですよ」
カンッ!
「高めストレートを打って?……流してレフト方向、打球は意外に伸びている!ポールの右か左か………入ったか!?ポールの右でしたー!ホームランです!柴崎の先制ホームランになりました!!」
あら、いいですわね。
1塁を回るところまでは全力疾走していた柴ちゃん。2塁に向かおうとしたところで、雰囲気的にホームランであることに気付いて安堵の表情。
軽やかにゆっくりと足を動かしてダイヤモンドを1周してきた。
ベンチに帰って来ても、大喜びするというよりも、いつにない手応えを噛み締めるような顔をしている。
騒がしい若手連中の盛り上げにも、ちょっとはにかみ気味であった。
自然に出たホームランってそういうものなんですわよね。回の先頭でしたし、初対戦のピッチャーですから。
しっかり球筋を見極めて、長くボールを見て、逆方向に。というイメージの中でのスイングでしたから。
ベルトくらいの高さのストレートにコンパクトにバットが出て、しっかりそのバットにボールが乗っかって、打球に角度がついた。
その結果が逆方向、ポールギリギリに飛び込むホームランとなったのだ。
ちょっと最近当たりが止まりかけていましたから、少し安心した様子で俺の隣に座っている。
「良かったな、柴ちゃん。今日は君の日にしたれ」
「ははっ、任して下さい」
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