実況！４割打者の新井さん１１

こうなると我々のペースですわね。

ノッチがボールを拾ってホームに投げる頃には、パープルスファンのぎょえ～！という悲鳴が響いた。

思田君もすぐにマウンドを駆け下りていきましたし、ノッチも負担なくすぐタッチ出来る場所にスローイングした。

「アチェンホ、積極的に突っ込んでいきましたが、ここは素早くボールを返されてしまいました」

「確かにワンバウンドして弾いたんですけど、どちらかといえば上に弾いたんですよね。ボールの最初の勢いしては、あまりボールが遠くに転がっていませんでしたから。

３塁ランナーからすると、遠近の判断が難しい場所だったからこそ、アチェンホは積極的に走ったのだと思いましたけど、ちょっとね。もう少し冷静さを持ちたかったところでしたよね」

「２アウトでランナー２、３塁と変わりまして、カウント２ー１でバッター嘉藤。打って………ショート正面のゴロだ！並木が捌いて３アウトチェンジ！！パープルス、この回満塁のチャンスなど作りましたが得点ならず！」

「オッケー！踏ん張った、踏ん張った！」

「頑張ってるよ！バッテリー！」

「援護してあげましょー！」

運良く無失点で切り抜けた形。ワイルドピッチになりかけたが、バッテリーの集中は切れておらず、アチェンホを刺したあのプレーが大きかった。

次の攻撃は、そのプレーがあったノッチから。

しばらく当たりがなく、緑川君にスタメンを譲る日が多かったですから、目に見える結果が欲しかった。

それでも最初の２球が上ずってボール先行となるや、彼は見に徹した。

まるで強ポジでじっとしてスナイパーライフルを構えた時のように。周りの雑音や自らの雑念をシャットアウトして、獲物を仕留めるチャンスを伺う。

Ｒ１ボタン１つでチームタコヤキを勝利に導く瞬間を追い求めるのだ。

「低め！バットが止まった！ボールです！９番、先頭バッターの北野にフォアボールを与えてしまいました！」

大ピンチを凌いだ直後。

打率１割８分の９番バッターがフォアボールで出てくれる。

これ以上の反撃チャンスはありませんわよね。

特にこれまでの打席をやられているわけですから、うちのキャプテンも気合いが入る。

とはいえ、１番やっちゃいけないのはゲッツーですから。その可能性が低い且つ、ゾーンが広がっている場所ということで、初球を叩くと打球は１、２塁間に飛んだ。

タナシーの左。巨体が飛び付くというよりも、なんとか前に落として……という気持ちだったみたいだが。

脇の下というか肘の下というか。体に近すぎるところで反応しきれなかったのか、ミットの先を掠めたボールはライト前に弾んでいったのだった。

「１、２塁！１番の並木が繋ぎましてチャンスを迎えたビクトリーズ。新井が打席に入ります。ここまでヒットはありません。しかし依然高い打率４割２分。得点圏打率も４割あります」

「バッテリーとしては今の並木のようなバッティングはされたくないですよね。ですから勝負球はインコース。出来れば膝元のボールで内野ゴロを打たせたいところですよね」

「さあ、ピッチャーの藤森。なんとかまずはアウトカウントが欲しい。セットポジションから第１球、投げました！……インコース、膝元！打って１、２塁間を……破りました！！

ライト前！２塁ランナー、北野は……３塁を回ったところで止まりました！！新井も初球攻撃で続いた！！」

よっしゃあぁっ！！

乾坤一擲の右打ち炸裂！！

満塁でお祭りだ。もう好きにやっちゃっていいですわよ。

カキィ！！

「インコース引っ張った！！レフト線……フェアー！！フェンスに直接当たりました！！２者が生還！新井は３塁ストップ！打った祭も２塁にいきました！ビクトリーズ逆転２ー１！３番祭のタイムリーツーベースです！」

カンッ！！

芳川君も強引なバッティング。低めのボール球を無理ぐり打ち。今回はそれが正解。左中間に高々と上がった打球は犠牲フライとなり、さらに１点を追加した。