おい、天かす君。わたくしはまだ許してないですわよ。

交流戦3カード目は、福岡ハードバンクスであった。


福岡に向かってのビジターでの試合。俺にとっては度々乱闘騒ぎになる面白カードとして、お土産の博多ラーメンを忘れるな。というみのりんの言葉を忘れて楽しみにしていたのだが、そんなエキサイティングな試合にはならなかった。



3試合とも、うちのボロ負けだったからである。



初戦は小野里君がボコボコに打たれ、2戦目は中山諒君が5回まで好投も、6回に満塁、3ランと手痛い2発を浴びてしまい負け投手。



3戦目はチームとして4つのエラー。その全てがタイムリーに繋がってしまう体たらくもあり、完封負け。



勝ち越し、勝ち越しときたところで今年はあるかもと考えていた中で3連敗ですから結構痛かったですわね。




なんとか取り返したい交流戦4カード目は、再びビジターでの京都パープルス戦。日本代表の4番、棚橋君が通算400号ホームランに王手をかけている中での試合となった。




1回裏の攻撃。2アウト後、3番里若にツーベースを打たれ、4番棚橋君を迎えた。マウンド上は左腕思田君。



「さあ、棚橋がバッターボックスに入り、パープスファンのボルテージも上がっていきます。節目となる400号ホームランまであと1本です」




「決めるならこの球場ですよね。本拠地ファンの前で打てたら最高でしょう」


「今シーズンはここまで11本のホームラン。ドラゴンス青竹と並んで西日本リーグトップタイです。ピッチャーは得意である左腕の思田。……初球、チェンジアップだ!空振り!!思わずバッターボックスから飛び出します!豪快な空振りでした」



例年の棚橋君は打率が2割5分前後といったところだが、今年は今現在3割1分。3番、5番の頼りになるバッター達が脇にいる形になっていますから、4番棚橋へのマークが薄れているということでしょうか。



ストレートだったらごちそうさま!変化球だったらごめんなさいという振り切ったスイングに、本人は笑みを浮かべながらヘルメットを被り直す余裕がある。



そんなスイングを見せられては、なかなかゾーン内にはストレートを要求出来ないノッチ。チェンジアップの連投で追い込んだ後、高めに1球見せて最後はインサイドへ曲がっていくスライダーだった。



それが若干高めに入った。



カキィ!!



京都の夜空に、棚橋君の打球が打ち上がる。



深めの守備位置だった俺はさらに下がり、すぐに右手でフェンスを触り、上空を見上げる。



そのポジションでボールをキャッチした。



「棚橋の大飛球はここまででした!レフト、新井が掴んで3アウト!パープルス得点ありません」





掴んだ打球をノールックで背後のスタンドにポイッと投げた。


ベンチに戻ると、大記録となるホームランを打たれかけた思田が苦笑い。



「あぶねー、いったと思いました。新井さん、ナイスキャッチっす!」


「俺もフェンスに着いた瞬間は無理かなーって思ったけど、若干最後失速した感じがあったね。曲がり球だった分、少し詰まったのかも」


日光を浴びたフェンスの熱の感覚がまだ残る右手で、思田君のおケツを叩き、俺も横にあったひんやりケースからドリンクを1本頂いた。




「2回ウラ、パープルスの攻撃は、5番指名打者、アチェンホ」



出た!天ぷらの誘惑に負けて京都に移籍した裏切り者!!



「2回パープルスの先頭は、天ぷら大好きアチェンホです。この人も気付けば来日9年目。今年から外国人選手枠から外れるキャリアに差し掛かりました」


「この選手も長いですよね。しっかり日本の野球に適応して、パープルスには欠かせないベテラン選手になりました」


「8年で248本。この人も日本通算250号という節目を迎えようとしております。ビクトリーズは古巣ではありますが、パープルスでも6年目になりますから、すっかりこの紫色のユニフォームを着ているかのような存在感があります」



カッシイィッ!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る