よし、伏線回収完了ですわね。

弾んだボールがレフトの選手の左側へ。


2塁ランナーの鳥福君が一気に3塁回る。ボールを拾ったショートからバックホームされるが、頭から勢いよく滑り込み生還。


芳川君は今の1打で今日5打点の働き。代走を出され、痺れる彼の左手に向かって、チームメイト達は容赦なく激しいハイタッチを交わした。


いてー!いてー!と叫びながらも、芳川君は満面といかないまでの笑み。難敵添田からタイムリー2本は立派である。



ソエソエはここで無念の交代。代わったサウスポーから赤ちゃんがセカンドゴロゲッツーに倒れてチェンジとなったものの、芳川君の渋い2点タイムリーテキサスは、ビクトリーズを勝利へのレールにしっかりと乗せた。


最終回に、青竹君に今日2本目となる、2ランホームランをブライアンが浴びてしまったが、後続を打ち取り、ドラゴンスとのカード頭を勝利で飾った。



お立ち台は3勝目を挙げた碧山君と今日は何だかんだで全打点を叩き出した芳川君。



ルーキー浅羽君にも、プロ初ヒットが飛び出し、お祭りちゃんを休養させながらの快勝はなかなか手応えのあるものだった。



ちなみに今日のお晩飯は、鯖の竜田揚げ。醤油ダレを染み込ませてカラッと揚げた1品はみのりんも自我自賛の出来映えだった。









そんなわけで隣の空き地に家が建った。



右向かいには、ピッチャー体型の長男がいるおうち。左向かいにはキャッチャー体型の男の子がいるおうちら、


今度は左隣である。



冬の始まりくらいから建設業者が出入りしていて、春キャンプが始まる頃くらいには、地面の工事が終わり、立派な材木がたくさん運び込まれていた。



そしてシーズンが始まる頃くらいにはギュイン!ギュイン!というような音も聞こえなくなり、4月の終わり頃には、どっしりしたグレーと黒色のでっかいおうちが完成したのだ。



ドラゴンスとの3連戦が終わった翌日の移動日。早めに買い物を済ませて仕事をしに来たマイちゃまを迎え入れた後、きゃらめるを散歩しようと外に出ると、そのおうちを建てたご家族に出くわしたのだ。



「どうもはじめまして、モブと申します」



くるぶしが見える青色のズボンに質の良さそうなおしゃれシワの入った白シャツを着たお父様がにこやかに挨拶をしてきた。



「モブさんですか?」



「ええ、最のモに布で最布です」



「そうでしたか、こちらは東の雲と書いてアライです」



「それはうちの会社の名前じゃないですか!」



「いいですねー!」



東の雲でしののめと読みますけども、東雲不動産という会社名のロゴが入った車が施工中のおうちの側に停まっているのを2階の窓から見ましてねえ。





日中にみのりんに股がれている時、この波は耐えたい!と、体を逸らせて我慢していた時に、エアコンの風で揺れたカーテンの隙間から見えたんですよ。その東雲不動産のライトバンが。


最初は大工さん達の仲間かと思ったけど、ちょっと接し方がアレだったんでもしやと思ったら、世帯主。クライアント様だったと。


このお父様が仕事の合間に様子を見に来たり、差し入れを持って来たりしていたみたいで。


ということはアレじゃない?



やっぱりこの場所に家を持って正解だったわけだね。不動産関係の方がこうして身銭を切って選んでいるわけですから。


さらに俺は気付く。そのお父様の足にしがみつくようにしている女の子のリストが強いということを。


「こんにちは。野球選手のおじさんですよ」


「こん……にちは……。モブ、ミカコです」


女の子はそう挨拶すると、お父様の後ろに隠れるようにして恥ずかしがった。


こう右バッターとして、右方向に力強い打球が飛ばせるような、そんな予感がしてならないのだ。



「娘は来週から文月付属の小等部に入る予定でして」


「あら、そうですか。うちの双子もまさに今、その学校に通ってましてですねえ」


などと不思議な縁もあり、その日から一緒に遊んでくれるご近所さんとなってくれたわけである。


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