実況！４割打者の新井さん１１

確定演出というやつですわね。

１回ウラ、ニコニコで守備に就いていると、バッターは２番の友寺君。

カンッ！

「フラフラッと上がった打球はレフト線は、新井が守っている！守備範囲建か？しかし、風に流された打球、追っていって追っていって足から滑り込んでグラブを伸ばす！……落ちました、フェア、フェアです！打球は後ろを転々としている！」

なんでねん。今の今まで風なんて吹いてなかったですやん。

俺は少々足をもたつかせながら悲しい背中でボールを追っていった。

「打ちました、いい当たりですが！センターの守備範囲でした！タイムリーを打ちました、センターの加納が掴んでいます。並木も倒れまして、２アウトで打席に新井が入ります。先ほどは変化球を打ち返してレフトへのシングルヒットを放っています」

「いきなりヒットが出ると、それを踏まえた配球を先読んでバッティングする傾向がありますからね。簡単にストライクを取りにはいきにくいですよね」

イメージはアウトコースの速いボールを右方向へというものですから、そこから曲がっていくボールが来た瞬間には、多少バットが出かかりましたよね。

勝ったら神戸牛というモチベーションでやっていますから、調子はいい。ボールと判断した瞬間に、バットがピタッと止まる。

２球目。今度は一転して速いボールだったが、僅かに高いとしっかり判断できたのであった。

「これも際どいコースでしたが、新井は手を出してはくれませんでした」

「バットは反応してスイング仕掛けてはいるんですけどね。しっかりと打ちにいく姿勢を取りながら、今のように見られてしまうとバッテリーとして苦しくなりますよね」

２アウトですから、本能的なものもあり、アウトコースを要求したのでしょう。それが真ん中低めに入ってきてしまうボールになった。

スイングの中にボールが飛び込んで来る。ビシャッとボールを芯で捉える木製バットならではの感覚を得た。

「引っ張って鋭い当たりになった！レフト友寺がジャンプ！………その上を越えました！！ワンバウンドでフェンスに当たります！打った新井は２塁へ。友寺からボールが返されます！

………タッチしますが、滑り込んでセーフ！！新井のレフトオーバーツーベース！２アウトから得点圏にランナーを置きました！」

「キャッチャーの構えは外でしたが、シュート回転してほぼ真ん中でしたね」

リー、リー、リー！！いつでも３塁を狙ってまっせ！という風にチョロチョロと動いていると、祭ちゃんがコンパクトなナイスバッティングで、速いボールをセンター前へしぶとく落とし、俺は２塁からの生還に成功したのだった。

「さあ、３回ウラ。先頭は２番の友寺から。西日本リーグ打率ランキング１位。３割８分２厘という数字を引っ提げて交流戦に入ってきた友寺です。ここは先頭バッターとしての役割を果たしたい」

「今年の友寺は、ボールの待ち方が非常にいいですよね。足を上げてボールを待つ時にピタッと止まった状態で自分の間合いを作れていますのでね。ビクトリーズバッテリーとしては緩いボールを交えて振らせたいところではあるんですが……」

「左対左の勝負。ビクトリーズマウンド上は左腕思田。初球、その緩いボールを使ってきました。外の際どいところ、外れてワンボールです」

初球に目一杯緩いボールを見せてからの直球だったが、それを友寺君は簡単にミートした。レフト方向に運びながらも強い打球。

低い打球がグーンと伸びていき、背走して最後はジャンプした俺のグラブを弾いた。

「捕れない、捕れない！打球が落ちました！友寺は２塁へ向かっていく！！ボールは新井からようやくショートの並木に返ってきました、ツーベース！友寺が２本目のヒット！新井に食らいついてく今日２安打目、シーズン７１本目のヒットになりました！！」

グラブに当てたのに。ボールを掴み切れず。すぐ側のスタンドにいるビクトリーズファンからの視線が痛くてしょうがなかった。

「ボール！！際どいところ良く見ました、並木！１アウトから１番の並木がフォアボールで出ます！」

「よく粘って勝ち取ったフォアボールですよね。ようやく新井の前にランナーを置くことが出来ました」

よしよしよし。いいわよ、並木君。さすがキャプテン。たくさんボールを投げさせて、向こうのピッチャーは球数が１００球に届きそうなところですからね。

２ー２の同点で６回表、１アウト１塁。

終盤に向けて有利に進める為に欲しい勝ち越し点を得る為に、仕掛けるなら絶好の局面ですわよね。

１塁ランナーにナミッキー、バッタートッキーですから。

夜な夜な素振り部のメンバーとして、今日２タイムリーの祭ちゃんにいい形で繋ぎたい。

今シーズン、ここまで１０個の盗塁を決めているナミッキーが警戒される中、２ー１というカウントになり、ベンチからのサインはエンドランだった。

ピッチャーが足を上げた瞬間に、ナミッキーがスタート。俺はもちろん１、２塁間に向かってゴロを転がそうというつもりだったのだが、投球は変化球。

体が泳ぎ気味になってしまいながらも、何とかバットのヘッドが早く返ってしまうのを我慢するような打ち方になった。

それがバットの１番いいところに、ボールが乗っかったのだ。