そうこうしているうちに、夏休みが明けた。

 今日から高二の二学期が始まる。


 このネクタイがお洒落なブレザーの制服を着るのも、あと何回になるだろうか。

 朝、なにげなく鏡に映る自分を見て、そう思った。


 入院は、しないことにした。

 そんなのいけないと、病院で安静にしていなさいって、家族には全力で止められたけれど。


 私は私で、私の意思を全力で伝えた。

 最後まで、普通に暮らしたい、と。

 普通に友達と笑い合って、普通に授業を受けて、普通にお弁当を食べたい。


 家族には言ってないけど、最後の恋をしてみたい。

 そんな私の固い決意が通じたのか、最終的には認めてもらえた。


 よっし! 最後まで、頑張って生きるぞー!


 持ち前(だと自分では思っている)のポジティブさを発揮し、私はこぶしを上にかかげた。


 まずは、今日持ってきたラブレターを、先輩の靴箱に入れて、と。


 先輩の苗字は、橋坂だから……。ここだな。


 ──カタン。


 靴箱が閉まる音。

 勇気を出したおかげか、無事に誰にも見られることもなく、私の一大ミッションは完了した。


 ほんと、これだけでやり遂げたって感じ。

 靴箱の前で胸に手を当て、深呼吸していた時。


 ふと、目の前に一人の男子生徒が現れた。

 あれ……。

 この男子生徒は、知っている。同じクラスだ。


 なんで三年生の靴箱に?

 こともあろうかその男子生徒は、先輩の靴箱を、迷いなく開けた。


 な、なななななっ……!


 案の定、男子生徒は固まった。

 私が今しがた入れたばかりの、ラブレターを手に持って。


 私もとっさには動けなくて、ただ口をあんぐり開けているだけ。


 彼は私の横で、それを読む。

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