4-3 『日々を記すもの』
家の中――
古めかしいくすんだ匂いが木造の家の匂いと重なる。
あらゆる物にほこりが積もり、一見すると誰も住んでいないかのよう。
壁に掛けられた大きな古時計は針がずれてしまっていて、まるで時間が止まってしまったかのような家だった。
「あの老婆とは話が通じずとも物には
「……リメンバ、これとかどう?」
「ん」
メモリアがふわりと近づいたのは――パンだった。
ライ麦で作られた噛み応えのありそうな黒パンだ。
「……パン?」
「うん」
「……ここ数日で
「…………」
メモリアはふわりと別の物の近く飛んだ。
リメンバは目で追う――しかし、その先にあったのがジャガイモだったのでリメンバは話を聞く事なく、扉を開けて別の部屋に入った。
♢
ここは書斎のようだった。
小さな窓に掛けられたカーテンの隙間からうっすらと光が射す。
棚に敷き詰められた本から発せられる独特の匂いが充満していた。
「……ほう。書斎か」
リメンバはこの匂いが嫌いな方ではなかった。
リメンバは鼻で呼吸をしながら物品を
「……どう? いいの、ある?」
「そうだな……」
呟いて本がいくつか積まれた机の前へと向かう――リメンバはある一つに見当をつけた。
机の上に開かれた一冊の本を手にする。のどの部分に置かれていた羽根ペンを机に避けて。
「素晴らしい物があった」
「……日記?」
「ああ。これほどまでに人の想いが込められた物はない」
リメンバは日記を手に取ると――故郷を懐かしむかのように穏やかな表情をした。
「フ……」
「リメンバ?」
リメンバは特に答えず、ページを開いた。
そこにはつらつらと文字が書かれていた。
「ふむ……ふむ……ほう、あの老婆はかつて何度も結婚を申し込まれたらしいぞ」
「そうなの? モテモテ?」
「……この日記が世間に相手にされず、頭がおかしくなった末の自己暗示のための妄想でもない限りはな」
リメンバは言いながらぱらぱらとページを
「……それで、おばあさんはどうなったの?」
「……求婚を断っていたら急に嫌がらせが増えたようだ。それで街から離れたここに住む事にしたらしいな」
「……かわいそう」
メモリアは悲しそうに言う。輝きが少し落ちたように見えた。
「……でも、どうして断ったんだろう? 好きじゃなかったのかな?」
「……どうだろうな。一人身が好きだったのか、あるいは……」
リメンバはページを捲ってゆく。
しかし、後半のページの文字は意味をなさず、最後のページの文字は文字としての形を成していなかった。
「読めんな」
「……この頃には、もう……」
「ああ。だが私には関係ない」
リメンバは右の剣鞘から赤剣をすらりと取り出し、日記に赤剣を突き刺す。
「
日記が赤い光に包まれる――
二人の頭の中に映像と想いが流れ込む。
想起し、追憶する――日記に書かれた想いを、記憶を、出来事を。
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