2-2 『距離の近い人達』
「あら、いらっしゃーい!!」
開口一番、おばさんから大声で歓迎された。
カウンターの向こう側にいる事からおそらく店主だろうと思えた。
そして――それと同時に中にいる客が一斉にリメンバの方を振り返った。
「「「「「いらっしゃい! ようこそシュタイ村へ!!!!!」」」」」
メモリアは驚いて少し跳ねた。リメンバは面倒くさそうに片方の眉をしかめた。
続けて客の何人かに囲まれる。
「やー、珍しいねえ外のお客さんなんて! さあこっち座って座って!」
「どこから来たんだい? まさか女の子一人? 大変だねぇ……」
「喉渇いたろう? ほらこれは奢りだ、飲みな飲みな!」
「……」
運ばれるように席に着くリメンバはさらにもう片方の眉をしかめた。
メモリアはどこかの国で見た『おしくらまんじゅう』を思い出していた。
「……じょーれんさん、優しいね」
「フン、煩わしいだけだ」
メモリアはどこか楽しそうだったが、リメンバはつまらなそうにテーブルに頬杖を突いた。
「はいこれお通し―! ほら、運んでアンタ達!」
「任せろ! よしきた、お通しバケツリレー!」
「おいおいこぼすなよ? お前が大雑把なせいで昨日も仕事が長引いたんじゃないか」
「そーそー。もっと他人の迷惑考えてよね?」
「それ言うか!? それ言うならお前らだってなあ……」
小突き合いながらお通し(ウリの浅漬けのような物)が回って来る。
店主らしきおばさん以外に店員はおらず、客が手伝う事で回っているようだった。
「お酒飲むかい? お嬢ちゃん」
「ダメだよー! まだ小さいんだからお酒なんて飲んじゃ! 身体に毒、毒!」
「少しくらいいいだろー? ちっちゃいうちから慣れといたほうがいいって!」
「飲み比べするなら俺がやるぜ!」
「何言ってんだ、俺だ俺だ!」
「私よ!」
リメンバは特別小さいというわけではなかったが、ここに居るガタイのいい人達からすると少々小柄だった。
「…………」
最初は適当にあしらおうと思っていたリメンバだったが、あまりの距離の近さに段々と苛立って来ていた。
リメンバなら一瞬にしてこの人達を動かないようにする事も出来たが、そんな事は馬鹿らしいとリメンバは鼻で笑った。
「……飲めはするがな、気分じゃない。一人にしてくれないか」
そう口にする。
しかし――
「――ああ?」
途端に周囲の客達が漂わせる空気が変わった。
「いかんなあお嬢ちゃん。飲めないなら飲めないってハッキリ言うべきだ。嘘吐いてると友達出来なくなっちゃうぞ? まあいかにも胡散臭い格好してるけどよぉ」
「そうよ。それにね、意地張るのはいいけど……そういう突き放すような言い方するのは性格悪いわ。嫌いよ」
「仲良くしようとしてるんだからもっと歩み寄ってくれないと。はあ、性格が知れちゃうねえ」
「……」
明るい言い方だが、言葉の節々にトゲがあった。
悪くなった空気を仲裁するかのようにガタイの良い大男が前に出てくる。
「まあまあ、スレた感じを出したいお年頃なんだろ? ま、正直ムカつくけどさ。そーいうのも全部受け入れて心を開かせてやるのが俺達だ。ほら、仲良くしよーぜ、お嬢ちゃん」
大男がリメンバの肩に触れようとする――リメンバは払うように男の手を叩いた。
「――触るな」
「いっ……てぇ……!」
「一人にしてくれと言っているだろう。それともここは一人で居てはいけないのか? それなら出ていくが」
リメンバの距離を取ろうとする露骨な態度に、ぞわっと周りの雰囲気が変わった。
「ああ……? この野郎……」
「生意気ね」
急に態度が変わり、ケンカ腰になったジロジロと全員から睨まれる。
リメンバは周囲の連中を目だけを動かして見定めた。
「……フン」
リメンバは振り向いてカウンターへ向かうと、懐から金貨の袋を出して乱暴に叩きつけた。
「おい店主、酒を出せ」
そして振り返り、店にいる全員に向けて言い放つ。
「飲み比べをしたいと言っていたな? いいだろう、受けて立とう。全員酔い潰してやる」
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