心問官リメンバの旅路
依想こころ
『100分の1の犠牲』
2-1 『湧き水』
「喉が渇いたな」
多くの枯れ木による茶色と、少ない緑で構成された湿地帯。
なんとなく気持ちの晴れない景色の中を長い白髪の少女が歩いていた。
その近くには手のひらに収まる程度の光る球がふわふわと浮いている。
「……私も。喉が渇いた」
「……身体のない姉さんがどうやって喉が渇くんだ?」
「……」
白髪の少女――リメンバがそう言うと、
浮遊する光珠――メモリアはふわふわと浮きながら言い訳を考える。
「……言ってみたかっただけ」
「正直で結構」
そんな会話を時々、ぽつぽつとしながら歩き続ける。
そうしていると、リメンバが急に足を止めた。
「……どうしたの?」
「……この音は……」
リメンバは耳を澄ませると、目当ての方向へ向かう。
ザクザクと枯れ木を踏んだ先――そこでは岩の隙間から水が湧いていた。天然の岩の器に水が溜まっている。
「
リメンバはそう言うと湧水に近付く。
だが、岩には苔が付き、水は少し濁っていた。
「……お腹壊しちゃうかもよ?」
「フン、私がこの程度で壊すものか」
リメンバは両手で水を掬い上げた――が、
手の中で泥や木屑、小さなウネウネとした生物がぴるぴると蠢いていた。
「……」
「……飲むの?」
ウネウネした謎の生物とリメンバの目が合う。
リメンバはだばあ、と水を捨てた。
「……この程度で体調を崩す事はない。……が、まあ」
リメンバは湧水の流れる先へ視線をやった。
岩から流れ落ちた水は小さな池に、そして川へと繋がっている。
「どうせ飲むなら美味い水の方がいい」
♢
湧水から出る水を追って、川を辿って行く二人。
汚れた川の水はだんだんと濾過されてゆき、キレイになってゆく。
それを見てメモリアは『おー』と目を輝かせた――ようにふるまった。
「……飲まないの?」
「川辺には人が集まる。そこでならなお質の良い水が飲めるだろう」
さらに歩く。川の流れる先へ。
そこにはリメンバの言った通り――村があった。
それなりに技術は進んでいるようで、木造だけではなく石造りの建物がいくつもある。
中でも中心に建てられた建物は特別大きく、中から賑やかな声が鳴りやまないでいた。
「……楽しそうだね」
「どうやら酒場のようだな。昼から飲んでいるとは盛況な事だ」
リメンバは看板の絵を見ておそらくそうだろうと思った。
二人は村のど真ん中にデカい居酒屋がある事を珍しいなと思った。
「……お酒、飲むの?」
「飲まん。こういう場所の酒は口に合わない」
「ふうん、そっか」
「まあ、酒には用はないが……水には用がある。入るぞ」
リメンバが踏み出そうとすると――またも中から大声が響く。笑い声のようだった。
メモリアは不安そうにふよふよと飛んだ。
「……ちょっと心配」
「何がだ」
「……こういうところって"じょーれんさん"がいっぱいいて"いちげんさん"はお断り……なんでしょ?」
「……」
リメンバはどこからツッコむかを一瞬悩んだ後、喉も渇いていたのでツッコむ事を諦めた。
「なんでもいい。もし水を出さないのなら――血を出させてやる」
リメンバは言うが早いか、酒場の扉を開けていた。
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