1-7 『願い』


「私は……私はずっと……!」


 彼女は身体を震えさせて、声を紡ぎ出す。


「辛かった……! ずっと、ずっとずっと……! 皆に気味悪いって……気持ち悪いって……! 私だって好きでこう生まれてきたんじゃないのに……! 気持ち悪いって石投げられて、槍で刺すのだって気持ち悪いって言われて!! 見るのだって嫌だって! だったら見ないでよ……私だって見られたいわけじゃないのに……!」


 リメンバとメモリアは黙って聞いていた。


「お母さんは私をずっと愛してくれてた……だから私もみんなを愛そうとした……!  でもみんな……私を理解しようとしてくれなかった……! 分かってくれない、赦してくれない……私がこんな見た目だから!? そうだよ、そうでしょ!? 知ってるよそんなこと!! でもお母さんは愛してくれた……!! なんで皆は同じじゃないの……? みんながお母さんみたいだったら良かったのに……!!

 分かってる、分かってるよ皆が私の見た目が嫌なんだって、私もそうなのかなって、私が悪いのかなって、私がいると皆を気持ち悪くさせちゃうからって誰もいないところに行って……傷つけられたくないし……そうやって言い聞かせてきた。皆に嫌がられるより一人の方がずっとずっとマシだったから!! だってそうするしかなかった! 分かり合うなんて出来るわけない、出来なかったから! だから私も諦めて逃げてた! でも、でも本当は……本当は、私……は……」


 彼女は口をぱくぱくさせて声を失った。言葉がついてこないのだ。

 リメンバは彼女の前に立った。


「お前の根源は"憎しみ"のようだな。では、お前の憎しみはどこに向いている?」

「どこ……って……?」

「その身で生まれて来てしまった自分自身へか。

 その姿のお前を産んだ親か。

 お前を受け入れない周りの人々か。

 それらの運命を与え、今なお救わぬ天に向けてか」


 彼女はわなわなと身体を震えさせて、他の選択肢がある事に怒りさえ感じた。


「そんなの決まってる……! 私は……私と向き合ってくれなかったみんなが憎い……! 私を傷付けてきたみんなが憎い! 私を追い出したみんなが憎い……私を受け入れなかったみんなが憎い……! みんなみんなみんなみんなみんな!!! ゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないっ……!!! 赦せないっ……! 私と向き合ってくれなかった奴らを……!」


 その時――彼女の胸元が赤く輝いた。

 先ほどよりももっとずっと赤く、赤く、輝きは最高潮に高まる――

 輝きが止むと、そこには赤い宝石が浮かんでいた。


「"心査"は合格だ」

「……なに、これ……は」


 宙に浮いた宝石に彼女は視線を釘づけにされる。


「お前は認められた。力を得る機会を授かった」

「力……?」

「だが、それには代償が伴う」


 リメンバは赤い宝石を握りしめ、彼女の目の前に差し出した。


「命を灯すほど揺るぎない想いがあるか、命を賭しても叶えたい願いがあるか。心からの叫びに――我らは味方する」

「……願い……」

「その命を投げ打ってでも成し遂げたい想いがあるか」

「……あなた達は……一体……?」


 彼女は脱力したまま問う。

 目の前の少女は視線を逸らさずに答える。


「私は心問官リメンバ。心の叫びを聞き届ける者」


 メモリアは黙ったまま浮かんでいた。


「しん、もんかん……」

「さあ、お前は何を望む」


 リメンバの差し出した赤い宝石を彼女は手に取った。

 そして両手で強く、強く握りしめた。


「私は――」


 彼女の答えにリメンバは満足そうに笑った。


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