1-3 『森の亡霊』


 街道を少し進んで――


「いやー! ホント助かったよー!」


 女性が明るい表情でリメンバにお礼を言っていた。

 近くには荷車が置いてある。


「車輪が溝に引っかかるなんてツイてない……これで村に帰れるよ、本当にありがとね!」

「構わん」


 高いテンションの女性に、リメンバはそっけなく返す。


「実はね、近々村でお祭りがあるんだ。その準備のために急いで走り回って来たからさ、こんなところで足止め喰らってるわけにはいかなかったのよ。年に一度の大きなお祭りだからねー、稼ぎ時だしがんばらなきゃ! あー、めっちゃ友達と飲みたい! 彼にも会いたいー! あ、私彼氏がいるんだけどねー、それで……」

「……」


 リメンバは退屈そうに腕を組んでいた。


「……みんなよく喋るね」

「……ああ、まったくだ」


 メモリアとリメンバはこっそり会話した。


「うん? 何か言った?」

「言っていない。……救ってやった礼に一つ訊かせろ、ここらで何か変わった話はないか?」

「変わった話?」

「ああ。なんでもいい」


 女性は宙に視線をやりながら考えこんだ。


「うーん、そうだなぁ……あ、じゃあ"森の亡霊"の話なんてどうかな」

「亡霊?」


 リメンバは怪異じゃない事に興味を抱いた。


「そ。この近くに大きな森があるんだけどね……その森のどこかに醜い亡霊が出るってウワサなの! その正体は……生前、醜悪な見た目だった人間の霊なんだって! 嫉妬で美人を狙って呪い殺すらしいわ……!」

「ほう」

「アタシは美人だからなー、森に近付いたら出られなくなっちゃうかも! きゃー!」

「……」


 リメンバは疲れた顔をした。


「あ、でも最近村同士で協力して何とかしようって話が出てるから何とかなるかも。討伐隊っていうの? 今までは村同士でケンカばっかりしてたから協力とかありえなかったけど最近は仲が良いんだ。おかげでお祭りも盛り上がるし良い事づくめ!

 やっぱりお互いを尊重し合うべきよね。理解できないものでも知ろうとする努力があれば、きっと最後には分かち合えるもの。私も彼氏とケンカしても最後には絶対仲直りできるもん」

「そうだな」


 リメンバは適当に返事をした。


「そうでしょー? 話が分かるわねー。あ、もう行かなきゃ! そんじゃ、助けてくれてありがとねー!」


 二人は無言で女性を見送った。

 中身は聞こえないが最後まで何か喋っていた。


「……すごく喋る人だったね」

「……"女三人よれば姦しい"とどこかで聞いたが……一人で充分すぎる……」


 リメンバはどっと疲れた顔をした。

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