1-2 『森の怪異』


「う、うまい……! うまいうまい!」


 男性がものすごい勢いでリンゴを口にしている。

 リメンバは男がリンゴを3つ食べ終わるまで、興味なさそうな顔で景色を見渡していた。


「ありがとう助かったよ! お腹も減って水もなくて……」

「構わん」


 高いテンションの男に、リメンバはそっけなく返す。


「いや、お金はあったんだけどね。実はポーカーで大勝ちしてさ! 念願の婚約指輪を買ったんだ! そしたら馬車に乗る用の交通費がちょうどなくなっちゃって……町から歩いて帰ろうとしてたんだけどさ、思ったより遠いのなんのって。でも彼女のための指輪は手放せないし……あ、僕彼女がいるんだけどね、それで……」

「……そんな話に興味はない。助けた見返りに一つ答えてもらおう」

「え、なにかな」


 リメンバは草原を見渡しながら、


「この辺りで……何か変わった話はないか?」

「変わった話?」

「ああ、なんでもいい。ここらで有名な話でも私は知らないかもしれないからな」

「……なるほど、旅人さんなんだね。あ、それとも吟遊詩人かな? 面白おかしな話を肴に旅を続けてるってわけだ」


 特に返事をしないリメンバをよそに男は勝手にうんうんと頷いた。


「そうだなあ……あ、じゃあ……"森の怪異"についてなんてどうかな?」

「怪異……か。聞こう」

「わくわく」


 どこからともなく聞こえた可愛らしい声に男は戸惑った。


「? 今の声は君?」

「気にするな」


 男は不思議そうな顔だったが話を始めた。


「もう少し行ったところに大きな森があるんだ。ずっと手付かずの場所だったんだけど、最近ようやく調査が進んでね……それも近隣の村同士で協力したおかげ。ここらはあんまり資源がないからさ、奪い合いになっちゃったりして村同士はそんなに仲が良くなかったんだけど……いやあ、人は協力し合うべきだよね!」

「……森があって、それで?」


 リメンバは退屈そうに続きを促す。


「それでね、僕も調査隊の一員として調査したんだけど……その奥地でとてつもなく醜い化け物がいたんだ!!」

「化け物、か」

「そうそう! あんな見た目の生き物がこの世にいるなんて……なにせ肌の色は紫、目玉がいくつもあって――うぷっ、気持ち悪くなってきた……と、とにかくすごーーーく気持ちが悪いんだよ!」


 男は今にも吐きそうな演技をする。

 男の職業は役者なのだろう、とリメンバはどうでもよさそうに思った。


「君も行けば分かるけどおススメしないね、一生のトラウマになるよ……いやもうホント、あんな気持ち悪いのが住んでる森なんて全部焼き払うべきだよ! あれがもし外に出て来てうちの村に来たりなんかしたら……ううっ、考えただけで恐ろしい……! あんなの生きてちゃいけないよ! 殺すべきだ!」

「……なるほどな、それが"森の怪異"か」


 リメンバは話の終わりを促した。これ以上話させても実りはないだろう。


「よーし、早く村に帰って彼女に指輪をあげなくちゃ! ああ、喜んでくれるかな! じゃあねー! リンゴおいしかったよー!」

「ばいばーい」


 リメンバは無言で、メモリアは無邪気に男を見送った。

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