第9話 耳元の囁き、心の暴走1

 どちらからともなく恋人つなぎで手を握り合いながら、私たちはホテルへと向かっていた。頭の中はアルコールと期待で混沌としています。碧羽くんに導かれるまま、いつの間にか私はラブホテルの部屋に足を踏み入れていた。


 ドアが閉まると同時に、碧羽くんは私を後ろから抱きしめてきたのです。その瞬間、驚きと共に、心臓が大きく跳ねるのを感じた。ほんのりと感じるアルコールの香り。その下に、男性特有の体臭がわずかに感じられ、心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。


 抱きしめられているということは、碧羽くんの腕が首元に回されているということ。思ったより筋肉質の腕に、私は息を呑んだ。エンジニアだし、重いものを運んでいる場面を見たことがないので、もっと細いと思ってた。


 いきなりではあったけど、まるで宝物を抱きしめるかのような優しさを感じる抱擁に、私はそっと碧羽くんの腕に触れた。


「志穂さん、好き」


 最初、何を言われたのか理解することができず、一瞬硬直してしまった。少し時間がたって、慧くんに言われた言葉を理解することができたとき、私の頬は瞬く間に真っ赤になった。


「あ、う……あ……う……」


 あまりの衝撃に、言葉が出ない。でも、背中越しに感じる慧くんの心臓の鼓動は私に負けず劣らず早い


(慧くんも緊張しているのかな)


 そう思ったとき、ようやく慧くんの呼吸が少し乱れていることに気づいた。


 慧くんは、言葉の出ない私をソファに座らせてくれた。顔は真っ赤になったままなので、恥ずかしすぎて慧くんの顔を見ることができない。


「お風呂の用意してくる、ますね」


 変な敬語を残し、慧くんは浴室と思われるほうへ向かっていった。


 しばらくして戻ってきた慧くんは、私の隣に座ると、抱き寄せながら尋ねてきた。


「一緒にお風呂、入ろう?」


 声にからかうような響きを感じた私は、慧くんを驚かせたくなり、小さく頷いた。


「いいよ。でも、私が先に入るから、慧くんは後から来てくれる?」


「そうだよね、別々だ……え、いいの!?」


 ちらっと慧くんの顔を見ると、今まで見たことないほど驚いている。このままもっと驚かせたくなった。


「うん。今から慧くんの前で服を脱ぐからさ……見ててくれる?」


 慧くんは目を白黒させながらも、小さく頷いた。まさか頷かれるとは思わなかったものの、一度口に出した以上、やるしかない。アルコールが私のタガを壊しているのかもしれない。


 私は立ち上がると、少し緊張しながらも、慧くんの前で服を脱ぎ始める。


「えっと、このブラウスから脱ぐね。淡いピンク色がお気に入りなんだ。肌触りがよくて、汗をかいてもさらっとしているんだよね。でね、私実はおっぱいが小さいのがコンプレックスなの。このブラウスは胸元にギャザーが寄せられてるデザインだから、胸元を自然に強調してくれるのがいいんだ」


 説明をしながら、ゆっくりとボタンを外していく。ボタンをすべて外し、ブラウスを肩から滑らせると、シルクの生地がそっと肌を撫でていく。そして、床に落ちるやわらかな音がやけに大きく聞こえる。


 だが、ブラウスを脱いでもまだ下着は見えない。肌色のシルクキャミソールを着ているからだ。キャミソールのストラップが肩に優しくかかり、下着を隠している。このキャミソールは体にフィットしていることと、もう1つ気に入っているポイントがある。


「次はスカートね。ちょっとタイトなんだ。でも、膝上10cmくらいで、歩くたびに脚の線が綺麗に出るから手放せないのよね。それに薄手の生地だから夏でも蒸れにくいのよ。あと、後ろのスリットがちょっと長めなのもポイントね。セクシーな感じするでしょ?」


 恥ずかしさのあまり始めた服の説明だったが、ちょっと楽しくなってきた。慧くんが熱い視線を注いでくれることも心地いい。


 私はゆっくりとスカートのファスナーに手をかける。ジッパーを下ろす際の小さな金属音が聞こえ、緊張感が高まっていく。スカートを脱いだあとを想像すると、恥ずかしくてしゃがみたくなる。でも、慧くんに見てほしいという気持ちもある。スカートをお尻から下へとゆっくり滑らせていく。あまり自信のない脚が徐々にあらわになっていく。慧くんはどう思っているのかを知りたくて表情を伺うも、怖いくらい真剣な眼差しを向けてくるので、いまいち読みきれない。スカートから手を離すと、重力に従って足元に落ちる。


「っ……」


 その瞬間、慧くんの喉がゴクリと動いた。私は安心するとともに、私の全部を見てほしいと思った。

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