第22話 満仲の証明

 翌朝——。

 最後は、霊亀れいき——不動院ふどういん満仲みつなか

「——という訳で、三人が本物であることからして、そなたが偽者であると確定した。何か申し開きがあるならば、十を数えておる内に申すが良い。十、九——」

「あんまりにございまするううう!」

 あまりの理不尽に、満仲が御簾みすの前で突っ伏して泣く。

「……ならば満仲、そなたは如何どうやって自らが本物であると証明するのか?」

 朱鷺ときに訊ねられ、満仲が鼻を啜りながら顔を上げた。うるうるの瞳で、あざとく首をかしげる。

「わたくしめの可愛かわゆさでって——」

「却下。そなたが偽者で確定ぞ」

 さっと立ち上がった朱鷺に、満仲が焦りを見せる。

「お、お待ちあれ、主上! 今すぐ証明してみせまするっ……」

 あたふたと懐から札を取り出すも、これでもない、あれでもないと、次から次に札を捨てていく。

「あ、ありましたぞ、主上! れにて証明してみせまする!」

 そう言って、一枚の札を手に取り、陰陽の構えでポンっと白煙を上げた。煙が晴れ、その場に絶世の美女——羽衣装束を着た、うら若き天女が座っていた。

「なっ、満仲、この女人はっ……!」

「左様。この天女こそ、主上が恋して止まぬ、羽衣伝説の天女にございまする」

「おおっ! 流石は満仲。我が理想の天女に化けるとは、それでこそ我が瑞獣ぞ」

「なに。主上の好みの女人は、の不動院満仲であらば、知っておって当然にございますれば! ……此れにて、我が本物たる証明となりますかな?」

 天女に化けていても、真面目な顔つきで言葉を発する満仲に、朱鷺は、その瞳の中に真を見た。

「ああ。その瞳、俺の知るそなたの真よ。ゆえに、そなたは真の不動院満仲ぞ」

 術式を解いた満仲が、満足気に笑う。朱鷺の好みの女人にドンピシャに化け、満仲は、自らが本物であると証明してみせた。


 こうして、四人の瑞獣がそれぞれ本物であると証明してみせたことから、朱鷺が「うーん」と頭を抱えた。紫宸殿ししんでんの中で右往左往する朱鷺が、「全員本物ではないか!」と憤る。その背後に控えていた安孫が、恐る恐る訊ねた。

「主上、まさか分からぬと?」

「分からぬ! 分かるはずがない!」

 いっそう潔く、朱鷺が言い放った。

「な、ならば如何いかがなされます? 回答期限まで、残り三日にございますれば、分からぬ以上、降参する他ありませぬが? 黄呂おうろ殿を瑞獣に加えられまするか?」

「それはっ……。負けを認めるは、我が性分に合わぬっ……」

しからば、偽者を見つけ出す他ありますまい」

「それが分からぬゆえ、困っておるのであろう」

 朱鷺が深く鼻息を漏らした。

水影みなかげもそなたも麒麟きりん満仲みつなかも、賢明で勇猛で聡明で愛らしい、いつもと変わらぬ我が瑞獣ぞ。されど、の中に一人、偽者が混ざっておる。それを見つけ出さねば、本物は一生帰って来ぬ。其の者は、の世との世の狭間で、自らが生きておるか死んでおるかも分からず、永遠に夢心地のまま、彷徨い続けることとなる……」

 黄呂の言葉を、この場で朱鷺が復唱した。

「彼の世と此の世の狭間、のう……」

「左様な場所が、真にあるのでありましょうや?」

「さてな。されど、本物は今、其処そこる。救い出さねば、永遠の時を彷徨い続けることになるでな」

 紫宸殿から庭に出た朱鷺の後を、安孫が続く。

東雲しののめ黄呂とは、一体何者でありましょうや?」

「ふむ。東雲……。彼奴きゃつの言葉には、些か引っかかるものがある」

 朱鷺が黄呂の言葉を思い返した。

『——またしても、主上は、私を見ては下さらぬのかっ……』

「……またしても、と彼奴は言うた。またしても……。俺は彼奴と、何処どこかでうておるということか?」

「されど、二大陰陽大家が一つ、東雲家は、かつて不動院家と陰陽頭の地位を争い、敗北したことで衰退した御家。満仲も存ぜぬとあらば、主上が幼い時分に御会いされておいでかと」

「幼い時分のう。あまり、良い思い出がないが……。陰陽師がことは、陰陽師に訊く他あるまい。安孫、今すぐ満仲を連れて参れ。彼奴もまた、何かを隠しておるように思えてならぬ」

「御意」

 満仲を呼びに行く安孫の背中を、朱鷺がじっと見つめた。

「……満仲、のう」


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