第12話 パシられ武官と貢物
「恐らくは昨晩、何者かによって
「
二人きりの部屋の中で、水影が男の声で訊ねる。
「はい。女中の筆頭で、色々と面倒を見て頂きました」
「そうか。それはそなたも辛いのう」
麒麟がそっと目を伏せる。苦悶の表情を浮かべる麒麟に、水影も頭を抱えた。
「
「いえ、
「麒麟……」
水影が鼻息を漏らす。
「今までの被害者と同様と考えるならば、風も何かしら、
「吉祥文様……。どうでしょう? 首飾りや指輪みたいなものは、身に付けてはいなかったので」
麒麟が必死に思い出すも、そもそも、吉祥文様自体がどういったものなのか分からない。
「吉祥文様とは、たとえば、どういうものがありますか?」
「そうだのう。たとえば縁起物である扇や波型、動植物などが描かれておる」
「縁起物、動植物……。あ、そういえば……」
麒麟が昨日見た、風の腕の刺青を思い出した。
「そうだ、竹の刺青……」
「竹?
「じゃあ、竹も吉祥文様なんですか?」
「ああ。やはり被害者の共通点は、吉祥文様か」
考察の構えで、水影が確証を得る。
「ならば、いつまでもちんたらしておる訳にはいかぬな。よし、
あっという間に策を練った水影は、とある男に文を送った。
「——で、ご依頼の品は、こちらで
禁中と後宮の狭間で、どこか不機嫌な
「いきなり文が届き、
「ふふ。麗しき女官からのおねだりです。男の誉れにございましょう?」
「御自分で言われて、恥ずかしゅうございませぬか、水影殿」
「はて? 水影とは?」
どこまでも見目麗しい藍式部として、安孫を
「もう良い……。で、事が真相は、掴めそうにございまするか?」
「あと一歩にございますれば、貴殿らは、我らが合図を待たれよ」
いきなり水影に戻り、「ん、んん」と安孫の調子が狂うも、「……承知」と答えた。
「それで、こちらがお代にございまするが」
「ああ、素晴らしき贈り物の数々、有難く頂戴致しますわ。流石は、日の本一の武人と名高き、春日安孫サマにございますわね!」
女人の声色で、藍式部が高らかに言う。その背後には、藍式部の取り巻きである女官らが、色男——春日安孫の面通しに、きゃっきゃと胸をときめかせていた。
「まあ! 流石安孫様ですわ! 藍式部様に贈り物とは、美男美女同士、お似合いですわね!」
女官らは、安孫と藍式部の恋模様に憧憬の眼差しを向けている。それに気づき、「う、ううむ。お代は結構にございますれば……。藍式部殿への贈り物にございまする」と安孫が自腹を切り、パシられたことに折れた。
「きゃあ! やっぱりお二人は恋仲同士なのね!」
女中であるりん——麒麟が、ときめく女官らの傍で、遠い目を浮かべる。
「まあ、これで藍式部サマとりんの恋仲説が払拭されるのであれば、いいか。それにしても九尾様、あんなにも高い買い物に自腹を切らされるとは、お可哀想に……」
麻袋の中には、他にも水影が依頼した物の数々が入っていた。
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