帝と四人の瑞獣たち―偽世者(にせもの)―
ノエルアリ
第一幕「後宮女人失踪事件」
第1話 帝と瑞獣と即位一周年記念
注意:この物語は、「ヘイアン公達月交換視察~帝が王妃を妃に迎えるまで~」のスピンオフ作品です。
https://kakuyomu.jp/works/16817330669288037369/episodes/16818093076342846890
優れた知恵でもって帝を導く
帝の守護神であるも、主に徳なきと判断すれば、牙をむく九尾の狐——
仁ある王の前に現れるとされる
未来が吉兆を占えてこその
そんな個性豊かな四人を従えている、若き帝(幼名:
即位一周年の式典も無事に終わり、朱鷺は臣下らと共に、一息ついた。
「無事に式典を迎えましたること、我ら一同、謹んでお
水影が朱鷺の前で平伏し、それに安孫や麒麟、満仲が続いた。
「ぐっ!
水影に並々ならぬ対抗心を持つ満仲が、腹の底からの苛立ちを安孫にぶつける。
「まあ、
「そうですよ、霊亀様。そうカリカリされていては、主上から可愛く思ってもらえませんよ」
平伏した状態で安孫と麒麟に言われ、「分かっておるわい!」と、満仲が不満げに顔を上げる。
「
目の前で秀麗な朱鷺に笑われ、「ううっ」と満仲が涙をためる。
「しゅじょ~、瑞獣が中で、わたくしめが一等可愛いでありましょ~?」
「っふ。毎度毎度、満仲殿は、自らの御姿を鏡でご覧になられたことはないのですかな? ご案じ召されるな。貴殿は、美しい公達ですぞ」
涼しい顔で満仲を褒める水影に、
「気色悪いことを申すでない、三条のっ! 貴殿がわしを褒めるなど、何を企んでおるか!」
「んー? 別に何も企んではおりませぬが。されど、これだけは言わせて頂きまする。主上が一等可愛く思われておいでなのは、
「ななっ!
「おや? 主上がいつ左様なことを仰せになられたか?」
「ぐぐっ! 主上は我ら瑞獣がことを、“賢明で、勇猛で、聡明で、愛らしい”と称されたのじゃ! それが瑞獣になった順であるならば、賢明は鳳凰、勇猛は九尾の狐、聡明は麒麟、そうして愛らしいこそ、我が霊亀がことぞ! ゆえに、わしこそ一等愛らしい存在なのじゃ!」
「だからそれは、聡明と愛らしいは、麒麟がことと申したはずですぞ?」
「何故麒麟だけ二つも称されるのじゃ! 不公平じゃろう! 左様にございまするよね、主上!」
「ははは。満仲、そなたはちと黙れ」
「またそれー!」
毎度毎度のお約束に、安孫と麒麟が「はああ」と溜息を吐く。一通りのやり取りが済んだところで、朱鷺が杯を片手に、見事な満月を見上げた。
「ああ。月は真、美しいのう」
我が世の春に、朱鷺が月を見て、酔いしれる。
「あまり月を直接見るものにはございませぬぞ、主上」
背後に控える安孫が、朱鷺に忠告した。
「何だ、安孫。そなたも月を、不吉なものと捉えておるのか?」
「……それが、
「なぁに。大昔に起きた月との大戦がことなど、たかが創作に過ぎぬであろう? それこそ、神代の逸話を書き記した
「左様にございまする」
「なっ、水影殿! 貴殿が三条家は、代々記紀を研究されてきた御家柄。それを創作などと
「別に、私は記紀が研究など、どうでも良いのです。それよりも、大昔の月との大戦の方が、探求心をそそられまする。それが真でないにせよ、何故左様な創作が生まれたのか、その謎を紐解く方が、よっぽど情熱を注ぐことが出来まするでな」
「よう申した、水影! それでこそ、我が鳳凰ぞ。いつか共に、あの月へと昇ろうぞ。さすれば、その謎も解けよう」
朱鷺が思いを馳せて、満月を見上げる。二人の夢物語に、やれやれと安孫が吐息を漏らした。そんな安孫に、酔っぱらった満仲が絡む。
「我が
安孫の背中に抱き着いた満仲が、しれっと水影に羨ましかろうと、上から目線で示す。それにイラっとした水影が、「ほーう?」と、その顔に影を落とした。
「まんちゅう!
「うるさいのう、安孫のすけは~! のう麒麟。九尾は、口うるさい男じゃろう?」
「え? いやぁ、おれはそう思ったことは……」
「
「やられてるって、言い方がもう……」
「安孫のすけは、手加減と言うものを分かっておらぬでな。まったく、日の本一の武人は、これだから困るのじゃ」
「なっ……!
「ああ、確かに。宮中行事の所作を教えんとするも、麒麟に上手く伝わらず、勝手にキレて、勝手に式神を召喚させておるのをよう見るのう。すべては、満仲が指南下手というだけだろうに」
麒麟を不憫に思う朱鷺の指摘に、「ぶふ!」と水影が吹いた。
「なんじゃあ、三条の! 何が可笑しいか!」
「別に、
「おもっくそ笑うておるではないかああ!」
満仲が指南時同様、ぶちギレた。
「まあまあ、霊亀様。落ち着いてください。おれは霊亀様が指南してくださるおかげで、色々と学べているんですよ。式神の召喚方法とか、手懐け方とか」
「ぶふっ!」
水影と安孫が同時に吹いた。
「貴殿は何を麒麟に指南されておいでかっ……! 麒麟は、陰陽師になるのではありませぬぞ!」
「分かっておるわい! まったく、嫌味なやつじゃ! 何を今も笑うておる、安孫のすけ! 御前はわしの真友じゃろう! 三条のと仲良くするでないわ!」
ぎゃあぎゃあ喚く満仲に、「嫉妬はよくありませぬぞ、満仲殿」と、今度は水影が安孫の腕を掴み、その体に寄り添う。
「ぎゃあああ! 今すぐ安孫のすけから離れよ、三条の! わしの真友を取るでないわあああ!」
騒々しい声が宮中に響き渡る。そこに、ずんずんと近づいてくる、一人の公達。
「いつまで騒いでおる! ガキはさっさと床に入らぬか!」
「ぎゃふん!」
公達——春日道久は、満仲にだけ拳骨を落とし、スタスタと仕事に戻っていった。その一連の動作を黙って見ていた、他の面々。
「相も変わらず、貴殿の御父上の迫力は凄まじいですな、安孫殿」
「あの拳骨で黙らぬ者はおりませぬゆえ……」
「霊亀様、かわいそう……」
「
水影、安孫、麒麟、朱鷺が順番に言葉を発する中、満仲だけは沈黙した。そうして一人隅に座り、ずーんと落ち込む。
「なにゆえじゃ、なにゆえわしがいつも、
「れ、れいき様、ほら、今日は主上の即位一周年の記念日なのですから、皆で楽しく過ごしましょう!」
見かねて、麒麟が満仲を元気づける。
「わーん! 麒麟だけじゃ、わしの真友はー!」
麒麟の膝に抱き着いた満仲に、「え? 違いますけど」と、きっぱりと麒麟が否定した。
「……」
再び隅に戻った満仲を見て、「
「——とまぁ、一悶着ありはしたが、こうして皆と即位一周年の記念を迎えられたことを、喜ばしく思うておる。これからも頼むぞ、水影」
「御意にございます」
「安孫」
「御意」
「麒麟」
「麒麟は主上と共にありまする」
「満仲」
つーんとそっぽを向く満仲に、やれやれと、朱鷺がその性分を逆手に取る。
「俺の一等愛らしい霊亀よ、頼むぞ」
「ぎょいいいい!」
目を煌めかせ、満仲が返事をした。それでも朱鷺は、力強く頷いた。水影は疲労の吐息を漏らし、安孫は調子が戻った真友に安堵し、麒麟も何だかんだで微笑ましく思った。
その場がお開きとなり、朱鷺が自室へと戻っていく中で、
「主上は近頃、しかと眠れておられますかな?」
「何だ、満仲。急に
「少々、気になったもので……」
それまでひょうきんな役回りをしていた満仲に、朱鷺が本来の性根を見る。
「……真、我が瑞獣は、愛らしいのう」
そう小声で呟くも、「大事ない。俺は
〜〜〜ご意見ご感想など頂けましたら、大変励みになります!〜〜〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます