第7話 亡骸

**深夜の横浜市**


タカとユージがホテルに戻る頃には、すでに夜も更けていた。レース場での追跡劇、野外フェスでの激闘、すべてが怒涛のように過ぎ去り、二人はようやく一息つける時間を得た。


「この映画みたいな一日、全く休む暇がなかったな…」タカが苦笑しながら言った。


「だが、これからが本番だ。」ユージは表情を引き締め、これまでの戦いを振り返りながら、心の中で次の一手を考えていた。


部屋に戻ると、テレビをつける間もなく、ラジオをつけた。すると、古い昭和歌謡が静かに流れ始めた。メロディーはどこか懐かしく、二人の疲れた心を少しだけ癒してくれた。


「木の実ナナか…」ユージが小さく呟く。「この曲、久しぶりに聴いたな。」


「確かにな。」タカも同意しながら、テーブルに座り込んだ。


そこで、二人はささやかながらも、温かいすき焼きを食べることにした。フェスでの疲れを忘れ、次の作戦に向けて少しでも体力を回復させるためだ。


「すき焼きはやっぱり、これが一番だ。」タカは鍋の中から熱々の肉を取り、口に運んだ。


「うまいな…だが、これが最後の晩餐になるかもしれないぞ。」ユージは冗談めかして言ったが、その言葉には真剣さが含まれていた。


「冗談じゃない。俺たちはまだ生きているし、奴らを捕まえるまで終わらせない。」タカの目には強い決意が宿っていた。


その時、ラジオの音楽が突然途切れ、緊急ニュースが流れ始めた。


---


**ラジオのニュース:**


「先ほど、横浜市内で発見された女性の遺体が、著名な歌手で女優の木の実ナナさんであることが確認されました。彼女の亡骸は、市内の廃ビルで発見され、警察は事件と見て捜査を開始しています…」


---


タカとユージはその言葉に凍りついた。木の実ナナの亡骸が発見されたとは…。


「まさか…」ユージが思わず立ち上がった。


「すぐに現場に行くぞ!」タカもすぐに行動に移ろうとするが、その時、部屋の電話が鳴った。タカが素早く受話器を取ると、相手は警視庁のタスクフォースの一員だった。


「お前たち、すぐに動け。木の実ナナの件で大事な情報がある。彼女の死は、例の裏カジノと関係があるかもしれない。」冷静な声がそう告げた。


「わかった。今すぐ向かう。」タカは電話を切り、ユージに向き直った。


「どうやら、木の実ナナの死が、俺たちが追っている事件と繋がっているらしい。」


「そうか…やはり偶然じゃなかったか。」ユージは覚悟を決め、タカと共に現場へと向かった。


---


**横浜市: 石川町駅周辺**


二人が石川町駅に到着すると、すでに現場には警察が集まっており、周囲は厳戒態勢が敷かれていた。木の実ナナの亡骸が発見された廃ビルは、薄暗い路地裏にひっそりと佇んでいた。


タカとユージはビルの中に足を踏み入れる。薄暗く湿った空気が漂い、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。


「ここか…」タカが低く呟きながら、亡骸がある部屋へと向かう。


そこには、木の実ナナの亡骸が無残な姿で横たわっていた。彼女の身体には複数の傷があり、何かに襲われた痕跡が見て取れた。


「これが、奴らの仕業か…」ユージは拳を強く握りしめた。


「間違いない。これはただの殺人じゃない。背後に大きな陰謀がある。」タカも冷静な分析をしながら、部屋の中を慎重に調べ始めた。


そして、部屋の隅で一枚のカードを発見した。それは、ギースの手下たちが使用する暗号のカードだった。


「ここに、奴らの手がかりがある。」タカがカードを拾い上げた。


「このカードがあれば、次の動きが見えてくる。だが、今すぐ奴らを追うのは危険だ。」ユージは慎重に判断を下した。


「分かってる。だが、このままじゃ済まされない。」タカは怒りを抑えつつ、カードをポケットに入れた。


「奴らを追うための準備をしよう。今夜はここまでだが、明日からは更に大きな戦いが待っている。」ユージは落ち着きを取り戻し、次の作戦を練るためにタカと共にその場を後にした。


---


次章へ続く…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る