第18-2話

インモラルは血鉱山の入り口に戻ってきた。


 午後5時。太陽が家に帰る準備を終えた時間だった。


(今ならボスモンスターと決定的な勝負をしているだろう。)


 インモラルは、アランパーティーがうまくやっているかどうかを確認したかった。


「校長!お戻りになったのですね!早く入りましょう!」


「入るだなんて。それはどういう意味だ?」


 入口で待っていた記録官は片方を指差した。


 そこにはダンジョン移動装置が設置されていた。


 6.5階に到達したらアデルに設置しろと言っておいたあれだった。


 アデルパーティーはすでに6階を突破し、6.5階で休んでいるようだった。


 これで移動はいつでもできる。


 ただ、今はアランパーティーとボスモンスターの戦闘を確認するのが先だった。


 しかし、その必要はなかった。


「それにしても自分の手でこんな記録を書くことになるなんて思ってもみませんでしたよ!学生パーティーが教授パーティーとほぼ同時にボスモンスターを討伐するなんて!」


「え?」


「あの男子生徒が使役するモンスターを利用して最短距離でボスモンスターの部屋を捜し出していましたよ?しかもボス戦では使役魔を使いこなしていたんです!」


 つまり、すでにボス戦が終わったということだ。


「嘘ではなくて?」


 アランパーティーの成長が想像を上回った。


 6階のボスモンスターを殺せないとは思わなかったが、むしろボスモンスターをそんな早く殺すとは。


 それもアデルパーティーと肩を並べるほどだなんて。


 正直言って、息が切れるほど素晴らしい結果だった。


 インモラルは驚いた様子を無理やり隠した。代わりに移動する準備を急いだ。


 インモラルはあっという間に準備を終えて6.5階に移動した。


 モンスターが出ない6.5階は小さな湖と森で形成された地域だった。


 インモラルはアランパーティーから訪れた。


 先に発見したアデルパーティーは当然のことながら負傷していなかった。


 心配なのはアランパーティーだった。


 湖の近くにキャンプ場を設置して休憩中だったアランパーティーは傷だらけだった。


 崖をよじ登ったという痕跡がアランパーティーの全員に如実に残っていた。


 インモラルは気がつくのが早い人間だった。


「ボスモンスターを圧倒的な実力で押しつぶしたわけではないね。 むしろ時間を稼ぐほどより大変になることを知って無理に進出したようだね。」


 インモラルは鋭い観察力でパーティーをさっと見回した。


 アランパーティーは過度な強行軍に身も心も疲れていた。


 インモラルはすぐに市場で買ってきた材料で夕食を作った。


 すぐにおいしそうな香りが湖に広がった。


 食事が始まり、アランパーティーが笑顔になるまではすぐだった。


 インモラルは食事の途中、生徒たち一人一人のところへ行ってポーションを使った。


 生徒本人が気づかなかった傷がないか、内傷があるのか細かくチェックまでした。


(アカデミーの資産が、 ケガをしたらダメだ。)


 インモラルはそんな考えで行動していたが、アデルが見るにはただの過剰な愛だった。


 そうして夕食が終わる頃だった。


 インモラルは生徒たちに言った。


「夕食を終えた生徒は全員、自分の現在のステータスを紙に書いて提出してください。」


 食事が終わった生徒は一人二人と自分のステータスを紙に書いた。


 インモラルはゆっくりとその紙をチェックした。


 その後、ステータスが目立つ生徒数人を呼ぶことにした。


 遅い夜の湖のほとり。


 水の音が聞こえるキャンプ場の隅で、インモラルはゆっくりと生徒を呼んだ。


 1対1の面談で一番先に呼んだのは体格の良いダリアだった。


「ダリア。」


「はい?」


「君が提出したステータスの内訳はしっかりと見た。盾打ちスキルが上級に開放されたと書いてあったね。」


「はい、すごいでしょう?」


 インモラルは子供に向けるかのような笑みを浮かべた。


「そうだね、そんな生徒にはおもてなしをしてあげないと。このお茶はその報償だよ。」


 インモラルは青みを帯びたお茶を差し出した。


 ダリアはお茶を受け取り、くんくんと香りを嗅いだ。


「えっ、これ本当に飲めるんですか?」


「もちろん。それにこのお茶を飲めば、自分に素直になれるんだよ。嘘をつく生徒にはぴったりのご褒美だ。」


 ダリアはぐずぐずしているうちにきまりの悪い笑みを浮かべた。


「先生、ご存知でしたらもっと早く言ってくださいよ!」


 ダリアは正直に告白した。


 盾打ちスキルが初級であり、今回熟練度が高くなってより使いこなせるようになったと。


 単に褒められたかったようだった。


 インモラルは清心草で作ったお茶をダリアから返してもらった。


 インモラルはダリアを大いに称賛した後、帰らせた。


 しばらくして、今度はラベンダーを呼んだ。


「校長先生、お呼びでしょうか?」


 ラベンダーは学問に興味があり、知識が豊富な学生だった。


「ラベンダー。君が書いたステータスの内訳を見たよ。内容がかなり普通だったね。」


「はい、私も他の生徒と変わりありません。」


 インモラルは微笑んだ。


 成熟した子供に接する時に出る笑みだった。


「そうか。もう少し頑張りなさいという意味でこのお茶をあげよう。君がもっといいアドバイスを受けられるようにしてくれるお茶だよ。」


 ラベンダーは眼鏡をさっと持ち上げた。


 渡したお茶が何の効果を持っているのか、予想しているようだった。


「安定効果のある普通のお茶のようですが。いいアドバイスがもらえるなんて、遠慮なくいただきます。」


 ごくごく。


 ラベンダーはお茶を残さずきれいに飲み干した。


 インモラルは空の湯飲みを見ながらゆっくりと尋ねた。


「ラベンダー、ここには私たち二人しかいない。実は紙に書いていない隠しスキルがあるよね?」


 ラベンダーはないと言おうとした。


 普通であれば確かにそう発するべきだった。


 しかし、飲んだお茶が真実だけを言わせてしまった。


「あ、はい、そうです。」


「ラベンダーのように知識探求が好きな学生は、たいていモンスターの情報を把握できるスキルを得たりするんだ。」


「おっしゃるとおりです。今回のダンジョン探査を通じてモンスターの情報を把握するスキルを手に入れました。」


「そうだったんだね。本当におめでとう。」


 インモラルは心からお祝いの言葉を続けた。


「そのスキルをもう少し育てる方法としては、モンスターの死体を調べることだ。後でダンジョンの外に出たら試してみなさい。」


「それは本当ですか?」


 ラベンダーは大喜びだった。


 特定のスキルは成長方法が難しい。


 ゴールドと直接足を運ばなければならない情報をラベンダーは無料で受け取ったわけだ。


 それは幸せな気持ちになるしかなかった。


「さあ、行きなさい。行ってアランを呼んできなさい。」


 ラベンダーが去って間もなくだった。


 キャンプ場の隅からアランが歩いてきて、インモラルとアランが向かい合って座った。


 湖のほのかな音が夜の空気が入り混じるときだった。


 インモラルは再び準備したお茶を指しながら言った。


「このお茶は清心草だ。決められた温度で沸かすことで完成する特別な薬だよ。飲めばあったストレスが完全に消えるが、しばらく嘘をつかなくなる。」


 アランは不思議そうにお茶を見た。


 その間、インモラルは紙一枚をそっと取り出した。


 アランが自分のステータスを自筆で書いた紙だった。


 インモラルが語った。


「まだアランが出した紙は読んでいない。ここには本当のことを書いたよね?」


 アランはしばらく首をかしげたが、すぐにインモラルの意図に気づいた。


 アランは真剣な顔をした。


「私はステータスで見えたありのままを記載しました。一ミリの虚偽も混じっておらず、何も隠していません。」


 アランはそう言ってからさっとお茶を取った。


 自分の言葉を証明しようとするかのように、お茶はアランの口の中へと入っていった。


 空いた湯呑をそっと降ろすアランは、インモラルの言葉を待った。


 インモラルはアランが待っている言葉を容赦なく吐いた。


「アラン、君が今言ったことは真実かい?」


「はい、そうです。」


 インモラルの表情は変わらなかった。


 しかし、心の中では満足そうな笑みを浮かべていた。


「では、どんな能力が発現したのか一度見てみようか?」


 インモラルはアランが書いた紙をさっと広げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る