第18-1話
インモラルは目をこすった。
それでも変わることはなかった。
レイスは6階になっても消えることはなく、そのままアランパーティーの周りに漂っていた。
(消えるべき存在があるとしたら?)
インモラルは自分自身に尋ねた。
答えは簡単だ。アランパーティーは絶壁から降りることはできない。
つまり、ダンジョンの難易度が上昇したまま進むことになるのだ。
幸いなことはレイスがかけてくれるバフ効果だった。
レイスがいなくならなかったことでバフも消えなかった。
(この微妙な絶壁が続くなら確かに…)
インモラルはダンジョンの外で6階へと進入したアランパーティーの姿を映像で見守りながら舌なめずりをした。
(アランは確実に強くなる。)
他の生徒たちも同じだった。
この状況は良い方向に見ることができた。
想定できなかったことが起きたが、生徒だけが強くなればなんの不満もなかった。
問題は命だ。
現在生徒たちは6階にいる。
(うちの生徒たちは強い。そう育てたのは私だから。)
少し大変だが、6階程度であれば難易度が上がっても命には支障がない。
インモラルはそう予想した。
白黒決まるまで時間はかからなかった。
アランパーティーは6階を駆け抜け始めた。
アランパーティーを待っている赤みがかった通路は、5階よりさらに不気味だった。
それに臭いもきつい。
5階は死体の臭いを隠すために薬剤を使ったとすれば、6階は堂々と死体の臭いが漂っていた。
これ以上隠す必要がないとでもいうかのように。
アランパーティーはそのような臭いにもひるまなかった。
パーティーは頼もしいアランを筆頭にぐんぐんと進んで行った。
アランの指揮は卓越していた。
レイスで集団化したモンスターを事前に察知した後、パーティーの前衛と後衛がレイスのバフを受けられるようレイスを呼び戻し、位置を調整した。
(すっきりとしている)
それだけでパーティーは整った戦術で戦闘に臨むことができた。
呪われたグールが7体。8体。
あるいは10体以上現れる時もあった。
アランパーティーは一度も大きな被害を受けずに敵を倒していった。
時々分かれ道が出てきたが、この時もレイスをうまく利用した。
おかげで正しい道を進むことができた。
ダンジョンの難易度が上がったにもかかわらずパーティーは巡航だった。
「知能の高いモンスターを捕獲して突き進むあの姿、6階も実に順調ですね!記録する甲斐があります!」
記録官がそばで騒々しく騒ぎ立てた。
「順調だ」という言葉にはインモラルも同意した。
ただ、6階の端にはボスモンスターが待っていた。
6階からはペースをうまく調節しなければならない。
(アランなら十分にうまくやってくれるだろう。)
インモラルはそう思ってさっと足を動かした。
インモラルが血鉱山の入口から抜け出そうとすると記録官が尋ねた。
「校長先生?!学会で注目の記録が出るかもしれないのに、どこに行かれるんですか?」
「ちょっと市場まで。6階が終われば食事も作らなければならないし、ポーションも普及しなけれbならないので買い物をしてきます。」
「6階はすでに突破すると見ているんですね?」
「私の生徒たちはそんな弱くありませんから。 」
「くぅ、いってらっしゃいませ。何かあったら私が連絡します。」
「助かります。ありがとう。」
インモラルはポケットから転移石を取り出し、それはぴかっと青く光った。
そうして血鉱山の入口には記録官だけが残った。
インモラルはアダマント都市に転移した。先に立ち寄ったのはにぎやかな午後の市場だった。
そこで食材を買って、次にポーション屋へと向かった。
インモラルはさっと物を買った。すでに購入することに決めていたため時間がかからなかった。
そして、一番重要なところに行くためには動線を減らさなければならなかった。
(記録官にはああ言ったが、正直…)
インモラルがアダマントまで来た本当の目的は別にあった。それはスクロールだった。
正確には、能力値を詳細に知ることができる「探索用スクロール」だった。
ゲームではよく存在する品物だ。
レベルの低い相手にスクロールを使うと、相手の能力値を閲覧することができる。
これを手に入れようとする理由は一つ。
アランの能力値が疑われたからだ。
(6階でなぜレースが消えなかったのか。)
正確には分からないが、明らかにアランの影響が大きかった。
誰が見ても一人にだけ状況が有利に流れていた。
まるでその本人に隠された能力が誕生したようだった。
(きっと私の考えが正しいはず。)
既に知っていたクエストが勝手に拡張されるところで、キャラクターが拡張されないというのは絵がおかしかった。
つまり、アランの能力値に従来とは異なる変化が生じたのだろう。
それも非常に特殊な。
それがインモラルの推測だった。ス
クロールを使ってみれば簡単に判断できることだ。
(この路地だ。)
インモラルはアダマント市場を横切って路地に入った。
そこからさらに深い奥に入ると、薬草屋が出てきた。
(ここのオーナーは薬草屋なのに探索用スクロールを売っている。それも一番安く。)
インモラルは軽い表情で店に入った。
しばらくしてからだった。
インモラルの表情は少しゆがんだ。
「これが探索用スクロールの値段だ。」
「5ゴールドだなんて。相場は4ゴールドのはずですが。」
「まあ、もともとそれよりもっと安い3ゴールドで売るつもりだったんですが、店の経営が難しくてね。薬草があまり売れないから…これだけでも高く売らなければならないんだよ。」
思いもよらない失敗だった。販売者の気まぐれで商品価格が変動することはよくあることだ。
よりによってそれが今日のようだった。
では他の所で買おうか。
インモラルはすぐに首を横に振った。
1ゴールドは体感で10万円。
最初から品物を3ゴールドで買おうと計画していた。
平均価4ゴールドで購入すれば、計画より10万円の損害であるわけだ。
現在アンビションアカデミーの資産は70ゴールド。
(崩れゆくアカデミーを育てる経営家の立場では、1ゴールドももったいないと。)
インモラルは悩んだ。
(いつものようにアランにスタットとスキルを紙に書き出すように言うか?)
NPCもユーザー同様自分のスタットウィンドウを自分で閲覧できる。
ただ、これを私的に聞けば重要なスキルはたいてい秘密にして隠す。
NPCでも当然の行動だった。
(スクロールの価格を下げる方法はないだろうか。一銭でも節約したいんだが。)
インモラルはためらっていると偶然薬剤棚の下に大量に盛られた薬草を見た。
「オーナーさん、あれは何ですか?」
「この真っ青な薬草のこと?安定剤の一種だよ。」
「それなら清心草だと思うのですが…あの薬草ってもっとたくさんありますか?」
「ほお。一般の人が清心草の名前を知っているなんて。でもあれは倉庫に積まれているよ。何しろ売れないからね。」
インモラルは価格を尋ねた。
返事がすぐ返ってきた。
「50クーパーだよ。」
500円という意味だ。使い捨てだからそれも当然だ。
「倉庫にあるものまで挽いてください。200個くらいでいいです。ただ、大量に購入した分、1個あたり40クーパーで。」
オーナーは悩む間もなくうなずいた。
「そんなに?分かった!ただ多量に使用すると副作用が発生するから絶対に使いすぎないように。」
インモラルは何も答えなかった。
オーナーはそれが少し変に感じたが、倉庫から物を持ってきた。
会計中だった。
オーナーはちらりとインモラルの表情を見た。
淡々とした表情だが、何だか余裕があった。
「まさかあなた。」
オーナーがそう言った時、インモラルはすでに支払いを終えた後、物を持って店の外を出た後だった。
インモラルは路地を出て独り言を言った。
「だいたい42万円に固まったな。残ったお金であの子たちにおいしいものを買っていこう。」
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