第17-2話

 インモラルは地下5階を探査し始めたアランパーティーを目で追った。


 予想通りだった。


 アランを阻むモンスターたちのレベルは普通ではなかった。


 本来ならレベル36ぐらいのグールが出るはずだった。


 現在地下5階に現れたのは、それよりも高い呪われたグールだった。


 痩せこけているはずのグールがある種の呪いによって体が大きくなっていた。


 レベルは3階のボスモンスターと同じで、なんと40レベルだった。


 強さとレベルは比例する。


 最初に現れた5体の呪われたグールは、アランパーティーを見るとすぐに強力な肉弾攻撃を披露した。


 アランパーティーの前衛組である剣士たちは、一気に体力が40%もけずられた。


 アランパーティー全体が驚いたのか、戦術の隙ができた。


 文字通り絶壁に追い込まれた状態だった。


 記録官はこの光景に胸を痛めたが、インモラルは違った。


(さあ、モンスターはますます強くなる。責任を取ることができるのか。アラン?」


 しばらくしてインモラルは目を見開いた。


 少し目をこすったのはあっけにとられたからだった。


 アランパーティーと呪われたグールの戦闘、その中でレイスがスキルを使った。


 それもアランパーティーに。


 レイスが使ったスキルはバフスキルだった。


 武器に霊力を与えるスキルで、相手によってはダメージを3倍から最大6倍は上げてくれるバフだった。


 戦闘の様相はすぐさま覆された。


 前衛組の体力が50%も落ちたまま守勢に追い込まれたアランパーティーは、バフによって呪われたグールたちを激しく攻撃した。


 アンデッド特有の悲鳴が響いた。


 バフがない時のグールへの魔法攻撃は一度に6%のダメージしか与えられなかったが、今はたった一度の攻撃でグールの体力が30%も減り始めた。


 アランパーティーは次第に勢いに乗った。


 戦術が戻り、豪快な攻撃がグールに向かってふりかかった。


 あっという間だった。


 5体の呪われたグールがボロ雑巾になって床に倒れた。


 インモラルは驚くしかなかった。


(いや、あのバフは元々レイスを殺さないともらえないバフなはず)


 本当に分からないことだった。


 アランは幸運の女神に愛されている。


 インモラルにはそうとしか見えなかった。


 別にアランが強くてグールを殺せたわけではないから。


(いや、これは運では片付けられない。ゴブリンクイーンの時もそうだった。今も変だ。)


 アランは明らかに言いようのない能力を持っているようだった。


 まるで他人を引き付けるような感覚だった。


 他人を巻き込んで問題を打破するというか。


(私が知っているアランは、ただ外見がワンツールのキャラクターだったんだが。)


 いずれにせよ、この程度ならアランに注目するに値する。


 自分の手で崖を作っただけでは足りず、バフという安全装置まで作ったアランだ。


 当然、視線が行くしかなかった。


 インモラルはアランパーティーを注視し続けた。


 しばらくして出会った呪われたグールは今はただの経験値の塊だった。


 アランパーティーは恐ろしいほどにダンジョンを突破していった。


 初めて分かれ道が出たのに悩みすらしなかった。


 レイスが正解の道を指した。


 スピードがこれまで突破した他の層より優れていた。


(早い。)


 体が大きくても数が多くても、5階のモンスターは遭遇する度に切り刻まれるのに忙しかった。


 ダンジョンを突破するスピードと同じくらい変わったことがあった。


 それは存在感だった。


 レイスがパーティーに合流してからアランが再びパーティーを指揮し始めた。


 パーティーメンバーはパーティーの戦術を知っているが、レイスはそうではなかった。


 レイスはバフ以外はただの荷物だった。


 戦術で自分の役割のない兵は荷物のように渡り歩く。


 むしろ味方の視野を遮って困らせる時もあった。


 その問題をアランが解決した。


 アランは戦いが始まるとレイスに指示を出した。


「前に行って、モンスターを誘引しろ。」


「後ろに行け、後ろで魔法や矢の標的になるように演技するんだ。」


 レイスは文句を言わなかった。アランの言うことによく従った。


 レイスの役割のおかげでアランパーティーは戦闘を容易にすることができた。


 アランに従順なレイス。


 戦闘が勝利するたびにアランの存在感は増大し続けた。


 レイスはアランの言葉に従っただけだからだ。


(レイスを扱えなかったら、こんなスピードは絶対に出せなかった。)


 アランパーティーのみんながそう感じていた。


 口には出さなかったが、皆アランをすごいと思っていた。


 それは外で見守っていた記録官も同じだった。


 記録官が叫んだ。


「もう5階が終盤ですね!なにがなんでも早すぎませんか?!」


 誰かが聞けば記録官がアランパーティーを教えた担当教授だと思うだろう。


 それだけ視線を奪われて興奮したのだろう。


 インモラルはそんなことを考えると内心喜んだ。


 自分の望む絵が徐々に出てきていた。


 ただ5階はもうすぐ終わる。


 レイスは6階に入ると消える。


 それほどレイスは些細なクエストだった。


 そうすれば、アランの存在感もすぐに色あせるだろう。


(もう少し見せてほしいんだが。)


 インモラルが心の中でそう思っているとき、アランパーティーは5階をきれいに打ち払った。


 言い換えれば、6階へと進入した。


 インモラルは一瞬口が大きく開いた。


 そして、無意識にこのような言葉を吐き出した。


「あいつ、どうして消えないんだ?」

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