第15-2話
ダンジョンのボスモンスターは基本的に種類が非常に多様だ。
ダンジョンを作るダンジョン核が進入してきた様々なパーティーに備えて、ボスモンスターを異なるよう生成しておくためだ。
今回、アランパーティーを迎えたボスモンスターはゴブリンの亜種だった。
珍しいことに、いえば下級であり強さも中間に属する程度だった。
ボスモンスターの名前は「ゴブリンクイーン」
ボスモンスターにしては深い森の中でたまに発見されるほどそう珍しくない個体だった。
アランは室内の端にいるゴブリンクイーンを見つめた。
なんだか緑色であるはずのゴブリンの肌の色が赤い。血鉱山の影響か。
アランがそんなことを考えている時だった。博識なラベンダーが言った。
「ルビーゴブリンクイーンね。レベルは40代前後よ。」
「なるほど。どんなことに注意しようか?!」
「そうねえ···。あいつは性欲が強いモンスターなの。」
これまで落ち着いていたアランは、初めてぎくりとした。
「つまり?」
「あいつはクイーンという名前だけあって、雄のみを狙っているわ。それに亜種だから繁殖欲も強いと思う。もし狙ってくるとしたらその標的はたった一人ね。」
それはアランが標的だという話だった。
アランはえさになることを恐れなかった。平凡なモンスターであればの話だ。
アランは背筋がぞっとした。
ルビーゴブリンの視線は気持ちが悪かった。
(ばれたら性的にやられる!)
アランはダンジョンに入ってから初めて気が遠くなった。
ルビーゴブリンは椅子から立ち上がった。
のっしのっし
3メートルの赤いゴブリンがアランのパーティーに近づいてきた。
その間アランはインモラルに教えられた戦術を選んでいた。
「ケケケッ!美味しいオス!おまけに顔もカワイイ!今日からアナタは私のオトコ!一緒に鉱山が爆発するほど赤ちゃんゴブリンを産むのよ!」
ゴブリンクイーンは唇を舐めた。
「うっ…あっちへ行け!」
「うへへ、怒る姿もカワイイのね! 最初から全力でいくわ!」
するとゴブリンクイーンは形が変わった。
3メートルもあった体がぐんぐん伸びて5メートルになった。
体の筋肉も膨張し、拳や足蹴りだけで人を潰せそうだった。
ゴブリンクイーンが言った。
「人間、オトコはワタシのもの! 他のオンナは殺す!」
アランはその生気に圧倒されてひるんでしまった。
反応が遅くなったアランは結局、何の戦術も選択できずにいた。
深刻な危機だったその時、突然アランの後ろからこんな声が聞こえた。
「こ、このクソ女!あんなやつがアランを見下すの?」
「道徳のないモンスターごときが?誰が先に目をつけていたと思ってるの?!」
「赤ちゃんゴブリンですって?その前に私の子供から産んでもらうんだから!」
(何を言ってるんだか。)
画面でこの状況をリアルタイムで見ているインモラルは、同じ男として呆れた。
どしん、どしん、どしん。
ゴブリンは構わずアランに向かって突進してきた。
ゴブリンクイーンは固有スキルを通じて筋力が強化された状態だった。
クイーンの突進は30代レベルの剣士たちが簡単に受けとめることができる攻撃力ではなかった。
平均レベルが26のアランパーティの剣士であればさらに防ぐのが難しい。
ところが結果は違った。
アランの前に出てきた剣士5人は、ゴブリンクイーンの突進を阻止した。
それも剣ではなく体で防いだ。
見るからに暴悪な敵の突進をタフな突進で相殺したのだ。
アランパーティーの剣士たちは体力が40%も落ちたが、闘志が燃えていた。
ゴブリンクイーンは突進できなくなると眉間にしわを寄せた。そして後続打が続いた。
ゴブリンクイーンは拳を振り上げると垂直に突き刺した。
その姿は重いバットを振り下ろすのと同じだった。
それなのに剣士たちは倒れなかった。
剣士たちの頭上には魔法防御膜が数十個も広がっていた。
いつの間にか後衛にいた魔法使いが全員出てきて戦闘に加担したのだ。
以後、攻撃権はアランパーティーに移った。
アランパーティーは容赦なく攻撃を開始した。
「えっ、え?」
ダンジョンの外で様子を見ている記録官が嘆声を上げた。
いくらまだ3階だといってもボスモンスターは強い。
ところが、今日初めてダンジョンに入ってきた新入生たちにひどく叩きのめされるのではないだろうか。
「あれはただの弱者が強者を相手にする時の戦術ではない!」
数でとりとめなく殴るのなら驚くこともなかった。
しかし、アランパーティーは違った。
きちんと流れと順序があったのだ。
3階まで来て身につけておいた戦術を指揮官の指示なしでも使いこなしているのだ。
本来ならアランが指示を出す役割をする。
守勢に追い込まれると指揮が省略され、経験が自然に体の外に出ている状況だった。
(危機的状況は引き金に過ぎない。大勢で一人を攻めるという根源は戦術の力に他ならない!)
記録官はさっき校長に聞いたばかりだたので知っていた。
あの戦術を教えた張本人が今隣にいる校長であることを。
「高価な呪文書でもなく伝説の武器でもなく、高レベルの教授がいるわけでもない。あるのはたかが···。」
記録官は感嘆しながら続けた。
「守勢に立ち向かう姿勢、効率的な戦術!両方ともお金ではなく教授の力量を必要とするもの!」
記録官は尊敬の眼差しで隣にいるインモラルを眺めた。
そのときインモラルは別のことを考えていた。
(うわぁ、あいつら目がいっちゃってるな。)
インモラルの目には、ただ怒りの殴打現場にしか見えなかった。
いつの間にかレッドゴブリンクイーンの生命力は30%も残っていない。
レッドゴブリンクイーンは生命力が3分に1に落ちると、特別な技術を使う。
減った体力を50%も回復し、筋力が増大して身長が5メートルにまで大きくなる技術だった。
しかし、ゴブリンクイーンは状況を変えられる唯一のその技術を使うことができなかった。
ダンジョンの片隅で攻撃されるがままだった。
「こ···こうなるのが分かっていれば、後で使うんだったのに…!」
ゴブリンクイーンの物悲しい叫び声が響き渡った。
ドンッ。
地面にほこりが舞い上がった。
ついにレッドゴブリンクイーンは息を切らして床に倒れたのだ。
<通知>血鉱山に入り、初めてボスモンスターを倒しました。よって、かなりの経験値が分配されます。
-レベルが上がりました。
-レベルが上がりました。
アランパーティーのみんなが2レベルずつ上がった。
これで魔法専攻の学生たちは平均レベル31。
剣術専攻の学生たちは平均レベル28になった。
軽快な知らせが聞こえてからだった。
生徒たち全員が勝利の喜びと報償の喜びを満喫した。
何人かの女子生徒は獣のような雄叫びを上げた。
そんな中たった一人、違う感情を感じる生徒がいた。
アランは戸惑っていた。ほんの少しだが、雄叫びを上げる女子生徒たちが少し怖く見えた。
アランは周囲に集まった女子生徒たちにぎこちない笑みを浮かべた。
結果的にアランは傷一つなく、指先一つ動かさなかった。
この逸話は記録官を通じて誤伝され、後世にこのように伝えられる。
「アランのいないアランパーティーの戦闘」だったと···。
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