第15-1話

 血鉱山の入り口近く。


 ダンジョン入口の周辺はほこりでかび臭い。


 風が吹くとほこりの塊が真っ黒に立ち上った。


 普通の人なら目を開けることさえ難しい環境だった。


 入口にいる二人はそれでも乱れることがなかった。


 2人とも目の前に浮かんでいる四角い画面に集中していた。


 ジーン。


 各自が魔法で作った画面には同じ映像が出てきた。


 アランパーティーがダンジョンの中を駆け抜ける姿だった。


 インモラルは当然だという表情で眺めた。


 記録官は違った。彼女は本当に驚いた顔だった。


(A組のアデルパーティーはそうだとしても、新入生だけで構成されたB組のパーティーがこれくらいだなんて…)


 記録官は首をかしげた。


 B組は若々しい新入生パーティーであるためダンジョン進行速度が遅れたり、一時的に止まる場合が多くてもそれが普通だった。


(何よ、これ。)


 B組は止まるどころかダンジョンをどんどん突き進んでいた。


 A組より少し遅れているのも驚いた。


 A組にはなんと東大陸最強剣士の一人がいたからだ。


 本来であれば格差がさらに広がるはずだった。


(それに傷一つないなんて。私は何を見せられているの?)


 新入生たちはダンジョン経験がない生の初心者に違いない。


 そのため、下っ端の記録官である自分が派遣されたのである。


(これは上位圏のアカデミーでもたまに見られる光景だって…。)


 記録官が見たときは目立つ学生は一人だった。


 それも正直、大した才能ではなかった。


 上位圏のアカデミーにはあのように目や鼻の良い人材はありふれていた。


 記録官は頭を働かせていたところ、気づいた。


(やっぱり核心はあの戦術か?)


 アンビションアカデミーの生徒たちは、同じ職業群を前衛と後衛に分離して前進する教科書的な戦術を使っていた。


 すばらしい部分はこれだった。


(前衛の前にまた別の前衛を立てているの?それも魔法使いたった一人を?)


 パーティーの先頭には一人飛び出た魔法使いがいた。


(あの子が特別強いわけでもないのに。)


 ただ、耳がいいのか目がいいのか、数分後の状況を的確に指摘する行動をとっていた。


 その例として、前衛に一人でいる魔法使いが突然後ろにいる剣士5人を呼ぶ。


 すると、約束していたかのように遠くから敵モンスターの投射スキルが飛んできた。


 ワームの毒液であったりゴブリンの矢であったり。


 時にはゴブリンの粗雑な火炎瓶もあった。


 剣士5人はすでに盾を掲げていた。


 敵の攻撃はすべて守備の壁に阻まれた。


 その時点で、パーティーの後衛にいる魔法使いはすでに魔法の呪文を唱えていた。


 シュンッ。


 すると前衛たちの頭上を後衛たちが作った火の玉が通り過ぎた。


 戦術の結果は卓越していた。


 後衛の攻撃は90%を超える的中率を誇っていた。


(あきらかに一般のパーティーにたくさんいるような後衛魔法使いなのに。)


 あえて違いがあるとしたら、何だろう。みんなで合わせるという闘志のようなものが違った。


 正確に言えば構えだった。


 記録官はアランパーティーを目で追いかけ続けた。


 独特な戦術方法は一つではなかった。


 広々とした通路を埋めるほど大きな鉱山トロールと出くわした時だった。


 後方にいた魔法使いが剣士と位置を変えて前衛として出てきた。


(何をするつもり?)


 14人の魔法使いは息を殺して待った。


 トロールがパーティーに向かって大きなバットを振り下ろすときだった。


 14人の魔法使いは同時に魔法防御膜をドミノのように広げた。


 トロールは壁の半分も破ることができず、反動で後ずさりした。


 もし前衛組の戦士が阻んでいたら、きっとトロールに崩されていただろう。


 トロールがもたもたしている間だった。その隙を狙って剣士たちが飛び出した。


 剣士たちはトロールの足の筋を切り落とし、みぞおちと背中を数え切れないほど切りつけた。


 ドンッ。


 血鉱山のモンスターたちが、誰彼なしにそうやって倒れていった。


 実に不思議な戦術だった。


 効率と強力さは言うまでもなかった。


 生徒たちが傷一つつけずに2階を突破したのがその証拠だった。


 いつの間にか生徒たちは自然に3階を駆け回っていた。


 記録官は尋ねた。


「あの戦術は校長が教えたんですか?」


「はい。ですがあんなにうまく活用するのはあの生徒の能力です。」


 インモラルが指指した画面の隅には男子生徒がいた。


「そういえば一番前にいる魔法使いは華奢な男の子じゃありませんでしたか?」


 記録官の目がさっきよりも大きくなった。


「校長、あの男子生徒の名前は何ですか?」


「アランと申します。」


「アラン···。素敵ですね。」


 インモラルは、適当に笑って画面に集中した。


「もうすぐ最初のボスがいるところにたどり着きそうですね。ここまでは大したことないですね。」


 違った。あのように突破していること自体が大したことだった。


 記録官はそんなことを考えながら、自分が今見ている状況を詳しく記録紙に書き下ろした。


 地下9階まで見続けなければ分からないが、これは確かに学会でも関心を持つに値することだった。


「もしかすると…。」


 アンビションアカデミーの新入生が上位圏アカデミーと同じ速度でダンジョンを踏破するかもしれない。


 記録官の目はプロ精神で光っていた。


 アランパーティーは地下3階の端に迫っていた。


 鉱山内部は深いところに入るほど、より強いモンスターが生息していた。


 それでも1階から傷一つなく3階まで到達した。


 アランパーティーは毎回慎重で、時には大胆だった。


 そんなことができた理由は、パーティーの主軸になるアランが集中力を着実に維持していたためだった。


 最初のボスが待っている地下3階。


 道一つしかない地下に行き止まりが出てきた。


 道の端には粗悪な門が設置されていた。


「5分休んでから入ります。」


 アランが言うとみんなが頷いた。


 みんな体力消耗はひどくなかったため、長い休憩は必要なかった。


 アランはその間、パーティーで一番博識なラベンダーを呼んだ。


「ラベンダーさん。今パーティーの平均レベルはどうなっていますか?」


「魔法専攻の平均は29で、剣術専攻の平均は26。みんなここまで来てレベルがかなり上がったわ。」


「では僕たちがボスを突破する確率は何%だと思いますか?」


 ラベンダーは悩んだ末答えた。


「ボスのレベルが40なら70%···。45なら60%···。50なら50%ね。」


「思ったより高いですね。」


「あまり安心しないで。どんなボスであるかが重要よ。相性が悪いと、勝率はその分下がるわ。」


 アランは分かったというような顔をした。


「校長先生もパーセントが絶対的な指標ではないと話していました。安心してはいられません。」


 いつの間にかアランは立ち上がった。


「それでは出発します。」


 休憩が終わり、ボスの部屋のドアが開いた。


 キィッ。


 中は真っ暗で湿っていた。


 パーティーを率いて入ってきたアランはすぐに合図した。


 これに合わせて前列と後列が整えられた。


(奇襲にも準備はできている!)


 アランはそんな表情で杖を握りしめた。


 すると室内がぱっと明るくなった。


 大きさは大型モンスターが走り回っても十分なほど大きかった。


 その端には椅子があり、ボスモンスターが座っていた。

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