第11-1話
最初の授業が無事に終わり、その後も平坦だった。
カリキュラム通り魔法理論の授業が行われ、実技が後に続いた。
授業の評価も悪くなかった。
インモラルは個人の能力を把握するのに優れていた。
生徒によって迷う部分や苦手とする部分が違っていたが、それぞれにあった方法で指導を行った。
インモラルの説明を聞いた生徒は、簡単に自分の問題点を補完していった。
生徒全員が授業に満足していた。
(魔法の時間は問題ないんだがな…)
インモラルは校長室で一人苦しんでいた。
今日から剣術の教育が始まる。ルイビトン女教主を剣術教授に任用したが、いざ当日になると心配になった。
「そろそろ来る時間だが。」
インモラルがため息をつく時だった。
ジェニーは不用意なノックで校長室に入った。
「正門に来たよ、この前のあの女。」
「おまえ、ルイビトンの前ではそんなことを言うんじゃないぞ。」
「自分もくだらないといった感じで見ているのは同じでしょ。」
ジェニーを相手にすると疲れが倍になる。
イムモラルはジェニーを校長室に置き去りにして、すぐにルイビトンを迎えに行った。
正門には私服姿のルイビトンが待っていた。
その隣にはタイトな修道女服を着た女性の付き人一人がルイビトンを補佐した。
(二人しかいないじゃないか。あの付き人はルイビトンの右腕だろうか?)
右腕に見える付き人はなんとなく見覚えがあった。
「失礼ですね。ルイビトン教主様をお待たせするなんて。」
分厚い唇から出た冷たい言い方。すらりとした眉毛が不機嫌そうにぴくぴくする。付き人はインモラルを強烈な目つきで睨んだ。
「これは申し訳ございません。」
インモラルは生半可に謝った。そして記憶の中を探った。
付き人はルイビトンと同じく長い黒髪だが、もう少し野生的な感じが強かった。
熱い日差しと夕立が日常の都市、その中の腐敗した美女警察のようでもあった。
(魅力的な唇に、ヤマネコのようなあの印象。たしかどこかで…)
そこまで考えると、ルイビトンが口を開いた。
「この子は私の最側近であるアデルです。」
二文字が頭の中に突き刺さると思い出した。
付き人は東大陸最強の剣士の一人。月光抜刀のアデルだった。
インモラルは理解するだけで頭がいっぱいだった。
ゲーム自体はシチュエーションの数が膨大だった。プレイヤーごとにその過程が全て異なるくらいだったからだ。
しかしこんなことは初めてだった。
強者はたいてい一人で動くものだった。
一人が完全に頭を下げることは実に珍しい。
とにかく今は状況は悪くなかった。
最高の剣士2人がアンビションアカデミーに来てくれたのだから。
インモラルはあごを下げて挨拶した。
「お会いできて光栄でございます。アデル様。」
返ってくる返事はなかった。
アデルは人を無視することが気高しいことだと勘違いしているようだった。
ルイビトンを見て学んだのだろうか。
(まあ、私を無視しても生徒たちにさえうまく教えてくれれば問題ない。)
生徒たちがしっかりと成長して強くなり、ダンジョンを突破できればいい。そうすれば追加のスタットも入り、アカデミーの地位も上がる。
インモラルは小さな侮辱にも反撃せず、道案内を始めた。
「ついてきてください。」
インモラルはいちはやくルイビトンとアデルをアカデミーに案内した。
アカデミー内部の剣術教育場に到着するやいなや大騒ぎだった。
生徒たちが大声を張り上げた。ルイビトン教主だけでなく、東大陸の最強剣士の一人が来たのだから当然の反応だった。
ただ一人だけ機嫌が悪そうに見えた。
女性教主を見るジェニーの目が尋常ではなかった。ルイビトンがアランを狙っていることを知っているのだろうか。
大切なものを守るためには強くなければならない。
ジェニーだけでなく、他の学生たちも同じだ。
この機会にみんな強くなってほしいという願いだった。
「皆さん、一生懸命勉強してくださいね。」
インモラルはルイビトンとアデルを生徒たちに紹介した後、剣術教育場から出た。
今は時間との戦いだった。
短期間でどれだけ生徒たちをレベルアップさせることができるだろうか。
インモラルは生徒たちに教えるための授業内容を整えるために校長室へと戻った。
日付の概念が消えかけるも同然だ。
あらゆる神経を教えることにつぎ込んでしまっていたため、これは当然の結果だった。
「気づけば3週間も経っていた。」
インモラルは校長室に座り、日付を確認した。
クエスト完了期限まで1ヵ月余り残っている。
この辺で生徒たちの成長を確認してみる必要があった。
インモラルはジェニーを呼んだ。校長室に入ってきたジェニーに、すぐ学部生のレベルを調べさせた。
ジェニーは数時間もしないうちに校長室に戻ると、書類を渡しながら不愉快そうな表情で言った。
「ルイビトン、あの女をどうにかするべきじゃない?」
「お前と口論している暇はない。行きなさい。」
ジェニーは少し悔しそうに校長室を出た。
インモラルはため息をつき、書類を確認した。
ジェニーが持ってきた内容を読めば読むほど頭が複雑になった。
「何だこれは?」
見間違えたのかと思い、書類を再度確認した。
あきれてジェニーを呼び戻した。
「お前が持ってきた書類、これは間違いないか?」
「私を信じられないってこと?それともクラスの生徒たちを信じられないの?」
「それはこれが本当だということか?」
「もちろんよ。腹が立ってるみたいだし…またあとで来るわ。」
ジェニーはインモラルを横目に見て、すぐに姿を消した。
校長室にぽつんと残されたインモラルは書類をくしゃくしゃに丸めて置いた。
(魔法専攻の生徒は17~19レベル。理論と実技だけで十分にレベルを上げている。だが…)
インモラルは我慢できず、独り言を言った。
「だが何故!!剣術専攻の生徒たちは13なんだ?」
不意打ちを食らった気分だった。
インモラルは席を立ち、剣術教育場へと駆け込んだ。
幸いなことに、今日は剣術専攻の教育日だった。直接状況を見ることができた。
自分の目で何が起こっているか確認する必要があった。
見ていると、剣を握った生徒は一人もいなかった。
皆が基礎的な体力運動を繰り返しやっているところだった。
腕立て伏せとか、腹筋とか、懸垂とか。
(これは教育ではない。ただの自習だ。)
真の基礎訓練には体系が必須であるが、目に見える光景はその逆だ。
みんなただ体が動くままに運動をしていた。
(まさか3週間もの間、 ずっとこうしていたわけじゃないよな?)
インモラルは言葉では言い表せないほどの冷や汗をかいた。
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