第5-3話
空の真ん中に月が浮かぶ夜。
インモラルは暗い路地を横切って貧民街に最も近い教会に到着した。
小さな治療スペースに男の子を寝かせた。その後、すぐにセラピストを呼んだ。
「若いのになぜここまで放っておいたのだ?まったく…。」
司祭服を着た老婆のセラピストは、到着するやいなや舌打ちをした。
インモラルは丁寧に尋ねた。症状を治療できるかどうかを確認するのが優先だった。
「体調が悪いとおもったときにすぐ来ないとね。ここまで来たら時間も魔力もかなり消耗するんだ。少し大きな作業になってしまった。」
インモラルは表情をやわらげた。
とにかく治療できるという意味だったからだ。そして、それとなく病名について聞いた。
「病魔そのものは珍しいものではない。男性だけが経験する症状で、10代の終わりに必ず一度は荒れるしかないからね。」
インモラルは病名と説明を聞いて不思議に思った。
ゲーム内でこの病気に触れたことがあった。セラピストが舌打ちするほどの病気ではなかった。
セラピストが大きな作業だと言っていたため、詐欺を働いていると考えた。
しかし、すぐに詐欺ではないことが分かった。
セラピストは残念そうな顔をしていた。
「発病初期が大変だから、皆すぐ協会に来るんだ。初期だと金額そこまで高くないし、時間もかからない。それなのになぜ今来たのか…。」
インモラルは一緒に来た金髪の女性をちらりと見た。
彼女は全く知らなかったという表情でぶるぶる震えていた。
インモラルは状況を理解した。もともとお金がなければ体に異変があっても我慢するようになる。本当に貧しく生きたことのある人だけが知っていた。
小さく設けられた治療空間に、しばらく静寂が起こった。
インモラルは慎重に何日かかるかを尋ねた。
「丸一日かかるだろう。状況によっては珍しい麻酔ポーションも使うつもりだ。」
「分かりました。ではそれでお願いします。」
「分かったとは言ってもポーションの代金まで合わせると30ゴールドを超える。貧民
街出身なら一日中、6年間毎日働いてやっと稼げるお金だよ。」
老婆のセラピストが冷たい目をした。さっきからそわそわしている金髪の女性が気になるようだった。
あえて貧民街出身を例にしたのもそのためだ。
お金がなければ消えろということだろう。
世の中は言うまでもなく冷たいものだ。
老婆のセラピストが最後に尋ねた。
「できるかね?」
「私はアンビションアカデミーの校長であるイムモラルです。無礼を言うのも程々になさってください。正直に言うと、実力の確かな知り合いに任せたいところなのですが、急いでいるのであなたに任せるだけです。」
インモラルは重い声で話を続けた。
「治療が完全に終わったら、アカデミー宛に代金をつけておいてください。間違いがないように。」
老婆からはさっきのような生意気さが消えていた。
分かったという言葉と共に振り返り、補助治療士に指示をして治療準備を始めた。
インモラルは歩を進めた。
治療を見守るほどの余裕がなかった。
そろそろアカデミーに戻って休憩を取らなければ。
教会の外に出る直前だった。
男の子の姉である金髪の女性が入り口に割り込んできた。
「私はあなたに助けてくれと言った覚えはない。」
インモラルは目を見開いた。
そして続く声には怒りが溢れていた。
「これ以上私を刺激するな。もう一度犬のような態度で話せばその口を裂いてやる。大切な人一人すら守れないくせに調子に乗るなという意味だ。 私がその気になれば、これを口実にお前の弟を強制的に入学させることができた。そうしなかったのはなぜか分かるか?」
金髪の女性はそっと身震いした。
インモラルは続けた。
「貧乏という理由で未来が決まる人生は、犬のように悔しいからだ。」
バタン教会の門が閉まった。
インモラルは外に出た。夜明けの空気が月夜の下をかすかに回っていた。
「チクショウ。慈善事業なんて性に合わないのに。」
インモラルはしばらくの間、理性を手放して前を向いて歩いた。頭を冷やすには冷たすぎる夜だった。
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