第3-2話
静寂が起こった。
ペケは物思いになって何も言えずにいた。
インモラルは腕の痛いふりをした。
「何してる、早く署名しろ」
「まさか私にやってもらうことがあると言っていたのは……。」
気づくのが遅かった。もちろん、分かったとしても回避することはできない。
クエストの報酬として受け取ったペケへの1回の命令権。
システムはゲームにおいて神に等しい。
ゲームのルールはキャラクターが向き合わなければならない運命だった。
神に作られた存在が運命に逆らうことができるはずがない。
-ペケが逃げようとしています。
クエスト報酬であるコマンド権を使用しますか?
インモラルは目の前に現れた、はい、いいえ、のボタンのうち一つを選んだ。
すぐにペケは涙をのんでペンを受け取った。
内規の責任者欄にペケの署名がされた後だった。
インモラルはペンを奪った。
ペンを奪われたペケは呆然とした表情をしていた。
「君、さっき仕事を辞めると言ったな。ならさっさと消えたまへ。もう用はない。」
「せめてこの顔にある呪いは解いてください…。」
ペケは意外に素直だった。
自分の位を実感したような声だった。
インモラルは指でパチンと音を立てた。
すぐにペケの顔が元に戻った。
呪いが解けても相変わらずカエルのような印象だった。
ペケは逃げるようにドアに向かって歩きながら言った。
「あなたは神も救えないほど悪質です。あなたのような人が成功するはずがありません。いつかあなたが滅びれば、私が一番最初に笑ってやります。」
「アカデミーを盗もうとした君が?私をあざ笑うのか?今度出くわしたら今度は本を盗み見た責任を問う。忘れるな。」
ペケは反論できなかった。
やがて彼はだらんと肩を落として校長室を出た。
2時間が過ぎた。
インモラルは校長室でうたた寝をして廊下に出た。
門の外には学生たちが待っていた。
40人もの学生が道をふさいで自主退学届を出してきた。
インモラルは大声で脅しをかけた。
「他のアカデミーに移ることにすでに意気揚々としているようだが。他のアカデミーの校長に君たちを拒否するよう連絡するのは簡単なことだ。」
火のような号令に生徒たちは一列に並んだ。
インモラルは自主退学届を受け取りながら一人一人に話した。
「今回のダンジョン討伐に失敗したのは胸が痛む。そのせいで実習成績が40%を超えた人がいないというのも実に残念だ。しかし、他のアカデミーの校長には言わない。それで編入も容易になるだろう。」
生徒たちは安堵の表情を浮かべた。
だが実はこれが落とし穴だと知った時にはもう遅い。
編入した状態で自分の低調な成績を露にすることは恥ずかしいことだ。
すべてが計画通りだった。
「校長先生。先ほどペケ教授が授業料の返還は不可能だと仰っていましたが、本当ですか?」
廊下があっという間にひりついた。ペケのやつ。もしかしたらと思ったが、やはり仕掛けてきたようだった。頭を使うレベルが予想通りだった。
廊下の雰囲気は冷たかったが、インモラルは慌てなかった。
ペケの臆病な復讐は、自分の墓を掘ったようなものだった。
「ああ、ペケが前もって言ってくれたみたいだね。そうだ、内規集にもそのように書かれている。」
「どうしてそんなに淡々と仰るんです?内規集を作ったのは校長先生ではありませんか。」
インモラルは質問した学生に近づきこう言った。
「それはもう30年も前のことだ。ペケが来てからは彼に内規集の修正と補完を一任していた。」
「え?ということは?」
インモラルは残念そうな表情で顔を振った。
「ペケは君に仕事を辞めると言っていなかったか?」
「…確かに言っていました。」
「私に仕事を押し付けて逃げるのだ。ペケがそんな性格だとは思わなかったが。今回の問題になっているダンジョンも実はペケが選んだんだ。私もやられたということだよ。」
ガスライティングは社会生活の基本だ。
臆病な復讐など、磨かれた社会経験の前では無意味だ。
「そんな…。」
廊下に立っている生徒全員の表情が暗かった。
インモラルは状況を収拾し始めた。
「とにかく、内規というものは一夜にして変えられるものでもないからもどかしい気持ちは私も同じなんだ。」
「それでも…」
「では自主退学か編入をやめるのか?」
「いいえ。」
生徒たちは断固としていた。皆が首を横に振った。このアカデミーへの情はもうないのだろう。竹を割ったような奴らだった。
「では仕方がないな。少なくともこのアカデミーを崩すわけにはいかないから。君たちには実に申し訳ないと思っている。」
生徒たちは粛然とした。
「分かりました。そろそろ失礼します。代わりに、他のアカデミーの校長にうまく話をしてください。」
「もちろんだよ。」
生徒たちは一人二人と次第に遠ざかっていった。
40人もの人員が自主退学書や編入申請書を提出するのはあっという間だった。
もうこのアカデミーに残っている学生はいない。
しかし、資本金はそのままだった。払い戻さなければならない金額は0ウォンだった。
(守れなかったらダイレクトにエンディングだった。)
破産は免れ、資本金も守った。
生徒たちには申し訳なかったが、完璧な勝利だった。
インモラルはがらんとした廊下で悲しそうな笑みを浮かべた。
(結局、現実であれゲームであれ、 強いやつだけが生き残ることができるんだ。)
口の中に溜まった苦い唾を飲み込んだ後だった。
頭の中でアラームが鳴った。
- シナリオクエスト1
[アカデミーを開講する]
アカデミーの開講日まであと9日です。現在、アカデミーの生徒数は 0名です。32 名以上募集できなければ、アカデミーは閉鎖されます。
アカデミーが正常に開講すると、校長の特異スキルを得ることができます。
*現在の人数: 0/40定員
*報酬:学生の能力に比例してアカデミー校長の能力値が一定上昇する特異スキル。
インモラルはあごを撫でた。
ゆっくりアカデミーを見て回る時間さえなかった。
9日なんて残りわずかだ。現実であれば一般的な大学は3ヶ月前に学生を募集する。
いくらゲームでもわずか9日というのは難易度が高い。
ただでさえ、本校のイメージは損なわれている状態だった。
現状からして、短時間で新入生を誘致するのは難しい。
それもアカデミーの収容人数が小さくて幸いだった。
(そうだ。30人であれば極悪までではない。)
インモラルは無理やり表情をやわらげた。
どんな新入生をどうやって手に入れるのか。
今回のクエストを解決する問題はシンプルだった。
ゲームに初めて接した当時は、むやみに強い受講生だけを探していた。
それは間違ったアプローチだった。
このゲームはできるだけ事業主のように振る舞わなければならなかった。
(とにかくアカデミーも一つの事業だから。)
経験を踏まえると今最初にすべきことは市場調査だった。
アカデミーの背景となる国家。その政治性向がどうなのか分かれば、市場がどこに向かおうとしているのかが分かる。
実際に塾を運営してみた点が大きな助けとなった。
これからは国家権威者の性向と政策だけを見ても、学生をどのように獲得するか、大体分かるようになる。
インモラルはわずか数分で次のことを決めた。
(これから首都に発つ。うちのアカデミーが所属している国家の中心に行ってみなくては。)
インモラルは校長室に戻った。
受け取った自主退学書を机に放り投げ、引き出しからワープ石を取り出した。
校長室に青い光がぱっと広がった。
インモラルの姿が室内から消えるのはあっという間だった。
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