第2話

 椅子で目を開けた。


 本を読みながらそのまま居眠りをしたような感じだ。今まで夢を見ていたのか。


 だとすれば、ここは家であるはずだ。


 ケイは周りを見回した。ここは家ではない。ゲームでよく出てくる校長室だった。


 大きさはそれほど広くはなかった。 2DLKぐらいだろうか。


 座っていた席の前には長机があり、その正面から少し離れた距離に一つのドアがあった。


 室内には古い書籍の匂いが漂っていた。


 正面のドア、その両側に隙間なく並べられている本棚が目につく。あれだけあれば本のにおいがするに値する。


(あの子の話は本当だったのか。)


 夢にしてはあまりにも現実的だった。


(じゃあここが17点のアカデミーということになるのか)


 どれだけ強いアカデミーの校長になったのだろうか。


 自分の姿を見てみたかったが、近くに鏡がなかった。この場合はだいたいステータスと叫ぶのが国のルールだった。


 腹に力を入れて叫ぼうとした。


 その瞬間、ガタンッと音がしてドアが開いた。


 ケイは正面を見た。ドアの前には学者服を着た背の高い男が立っていた。


 見た目がカエルのようだった。


 鼻っ柱が狭く、両目がぽんと突き出ている。


 男は怒った表情で言った。


「インモラル校長! 私はもう我慢できません!」


 その話を聞いて口がひどく渇くのを感じた。男が怒ったからではない。


「今俺に何て言った?」


「インモラル校長! 私はもう我慢できないと言った!」


 頭が熱かった。


 ため口くらいでは腹は立たない。


 むしろ最初から相手が怒るのは理解できた。


 インモラルといえば、東部大陸の質の低いアカデミー校長だった。


 彼のことを言っているのであれば…


 インモラルは冷たい息を吐いた。落ち着かない中、前にいる男が叫んだ。


「アカデミー協会から送られてきた手紙だ!目があつなら直接読んでみろ!」


 インモラルは手紙を受け取った。


 大体どんな内容かは予想がついていた。


 -事件が事件であるだけに、挨拶はおいておきます。インモラル校長、アカデミー協会から残念なニュースをお伝えすることとなりました。前回学生たちをダンジョンに無理やり投入したことにより、多くの死傷者が出ました。


 全生徒の半分が重傷を負い、残りの半分は軽傷を負ったということは当アカデミーのインモラル校長の方がよくご存知だと思います。


「……」


 -したがって、今回のアカデミーの順位は大幅に下げます。


 これから起こる結果を謙虚に受け入れることを願い、また次の監査まで支援金を中断します。


 貴下のアカデミーの等級は現在最下位の16等級です。


 ケイは無意識に手紙の最後の部分を口に出していた。


「16等級」


 このゲームの最高のアカデミー等級は1等級だ。


 インモラルが所属したアンビションアカデミーは毎回最下位16~14等級を行ったり来たりしていた。


 衝撃が大きかった。17点が出たことで、当然それに見合うクラスのアカデミーが出ると思っていた。


 この世界の特典とか。憑依特典とか。特別なことをちょっと期待してみた。


 たった1点を超えたからといって、また地の底から点を入れるなんて。こんな計算方法はもともとゲームにはなかったシステムだった。


 インモラルは額に手をあてた。


(性格が出てしまいそうだ。)


 怒りがこみあげてきた。


 同時に頭の中でアラームが鳴った。


 -特典スキルが発動されました。


[グラデーションフィリング]

 感情が高まっていくほど全体スタット、スキル威力が一緒に上がります。

 *時間に比例して最大30%まで上昇。


 修飾語を見ると、これが特典のようだった。よりによってこんなものを特典として与えるなんて、性格に問題があるとからかっているようだった。


 インモラルの表情がますます険しくなっている時だった。


 ドアの前にいる背の高い男が言った。


「インモラル校長!あなたのせいでここで勤めていた私まで名望が落ちた!この恥を決闘で償わせてやる!」


「…決闘?」


「そうだ!あなたが負けたら、校長の座を置いてここから立ち去れ! このアカデミーは私が運営する!」


 この時を待っていたかのように口をたたく男の話し方に忍耐心が尽きた。


 やつが望むのは結局、校長という肩書きだったのだ。


 名分ができた今がチャンスということだろう。


 現実で経験したことが頭の中でパノラマのように過ぎ去った。


 社会はいつも非情なところだった。


 インモラルは目を閉じたまま答えた。


「分かった。そうでなくても腹が立つから、俺も我慢しない。代わりにお前が負けたら、それに対する罰を受けろ。いいな?」


「ああ分かったよ!アカデミーの外に出てこい!」


「出るまでもない。ここで始めろ」


「ここを燃やすつもりか?校長室を引き渡すのがかなり嫌なようだな。」


「校長室だろうが何だろうが準備するんだ、早く。さっさと殺してしまいたいんだこっちは。」


 - プロローグクエスト

[ペケとの戦い]

 まもなく戦闘が始まります。負けた場合は校長から退かなければなりません。勝った場合は、ペケに何でも一つ命令することができます。


「妙にカエルに似てるとは思ってたけど、 この男ペケだったかな?」


 ペケは東大陸でも賢い名辞だった。


 良い家門の子息として生まれ、若さに比べて戦闘でも相当な実力を備えている。

 アカデミーの秘書になるのに十分な人材であり、何よりも相手の隙を探すのに一見識のあるキャラクターだった。


 ストーリー通りに進む場合、20レベルもさらに高いインモラル校長が敗北する確率は50%だった。


 これはペケが校長として始まるルートがほぼ半分という意味であり、ペケの実力が優れているという証拠だ。


(そうでなければ、インモラル校長がそれだけ弱いということだ。)


 インモラルがそんなことを考えている時だった。


 反対側にいるペケは腕を伸ばした。


 ペケの手のひらから真っ赤な火炎球が作られた。


 インモラルは半球型の魔法防御膜を作ると、簡単に攻撃を防いだ。


「火炎魔法に自信があったはずだが、こんなもんか?」


 インモラルが挑発すると、ペケは熱が上がった。


 すぐに多数の火炎球がものすごい勢いでインモラルに向かってきた。


 熱い爆発音が何度も続く。インモラルの魔法防御膜はそれでも健在だった。


 ペケは粘り強く攻撃を続けた。


 状況は数分間続いた。


 火炎球が100回以上撃ち込まれた。ペケの魔力は半分も減ったが、インモラルの防御膜はひびすら入っていない状態だった。


 ペケは大声で叫んだ。


「あなたはこのくらいの火炎魔法を操れるのか?そうでないなら外に出てみるんだ!広域魔法でさえあなたは私について来れない!」


「醜いな」


 インモラルは防御膜を解いた。


 そうして手のひらに火炎球を作ると、ペケめがけて撃った。


 インモラルが作った火炎球は、ペケの火炎球より大きくなった。


「グラデーションフィーリング」の効果だった。


 ペケは緊張した表情で素早く三角形の魔法防御膜を作った。


 ペケは防御に成功したのにも関わらず表情が暗かった。


(やっと状況が理解できたみたいだな)


 インモラルは心の中であざ笑った。


 それでも奴はすぐに諦めはしなかった。


 これから隙をねらおうとするのは明らかだった。


 インモラルは考えを整理し、火炎球を一部で不安定に撃ち始めた。


 時間が経つにつれ、ペケは火炎球を食い止めることに慣れてきた。


 ペケが100個の火炎球を防いだその時だった。


 ペケはインモラルの集中力が落ちたことを確信した。


 ペケは大声で叫んだ。


「集中力が落ちたのを見る限り、魔力を使い切ったんだな!あんなに大きい火炎球を使ったせいだろ! 火炎魔法の極意を見せてやる!」


「隠しスキルを待っていた。さあ見せてもらおうか。」


「貴様が受ける罰だ!この地獄をあらわにした火熱炎蛇で燃え死ね!」


 蛇の形をした火炎がインモラルに向かってくる。


 地獄火熱炎師は、火炎系列の魔法の中でも高位にいる。


 中途半端な火炎魔法で対応すれば、これを飲み込みさらに威力を増す。


 相手が弱い防御幕を広げた場合は、それさえも破壊し致命傷を与える非常にややこしい魔法だった。


「平凡な明知であればの話だ」


 インモラルは自分の目の前に迫った火炎の蛇を睨んだ。


 インモラルが蛇に飲み込まれる寸前だった。


 青い鷹がインモラルの前にふっと現れた。


 すぐに鱗が引き裂かれ、無慈悲な音がした。


 蛇は頭から尻尾までずたずたに裂けてしまった。


 氷で形成された青い鷹。


 これは火熱炎師のカウンタースキルだった。


 インモラルのキャラクターの塾の運営はひどいものだった。しかし、スキル習得数と駆使幅が広かった。


 特異スキルの獲得率が高いことも勘案すれば、大陸全体で潜在力だけは10本の指に入る。


 気がつけば、火熱炎師ぐらいはばかげたものだ。


 青い鷹はインモラルの肩に舞い降りた。


 ペケはそれを見て座り込んだ。


 誰が見ても実力の差がはっきりと分かる決闘だった。


「全魔力を使った最後の一撃を…この程度で素早く対処するだと?」


 ペケが絶叫した。


 インモラルはそれを見て鼻で笑った。


「ペケ、お前が使ったスキルはこの校長室にある本を盗み見て体得したものだ。 貴様が使える上級スキルはすべて私の本棚にあるものだ。最初からこれが見たくて、ここのアカデミーに志願したんだよ。」


 ペケの顔色が灰色に染まった。


「まさか…いつから知っていたんだ?」


 ゲームの精査によると、本来インモラルはこの事実を知らずにいた。


 50%にもなる確率で負けた理由もそこにあった。


 慌ててしまいまともに対処できなかったのだ。


 しかし、インモラルはすでにペケが知っている人ではなかった。


 インモラルはもうケイだ。


 勝利したインモラルが冷たく言い放った。


「ここの本棚にあるスキルを選んだこと自体お前の負けだ。俺がカウンタースキルさえ知らないと思うなんて。さあ、これから俺に対する罪の償いをするんだ。」


 インモラルの頭の中で一瞬通知が鳴った。


 - プロローグクエスト完了

[ペケとの戦いで勝利]

 ペケの勢いを完全に破って勝利されました。これにより、校長職は維持されます。プロローグクエストが終了したため、シナリオクエストが始まります。「1年後滅亡開始」までに与えられたシナリオクエストを完遂してください。

 プロローグクエストの報酬として、ペケに一つ何でも命令することができます。

 *報償: 校長職を維持。ペケに1回命令権。


 インモラルは手振りで肩にいた青い鷹を振り払った。


 そして、戦い後落ち着いた思考でこのような決定を下した。


 ここで校長になったのは変わらないんだ。結局。


(…インモラルとしてこのゲームをクリアするしかない。そうだ、やってやろうじゃないか。)


 特典スキルがあるということは、様々な不確定な要素が追加されたという意味でもあった。


 これを勘案すれば、最初から望みのない挑戦ではなかった。


 ゲームはプレイ次第だ。


 ゲームを楽しんでみたユーザーであれば確かにそう思って、ここで諦めはしないようだった。


 インモラルは覚悟を決めて口を開いた。

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