第11話 目覚めと覚悟

「うっ……」


 俺は自分の部屋で目を覚ました。


 あの後どうなったんだ?確か"空間転移"を使う前に倒れたんだよな……

 サーラが運んでくれたのか?


 それにしても調子に乗り過ぎていたな……

 少し強くなったからってこの世界を甘く見過ぎていた。

 俺より強い人なんて山ほどいるっていうのに……

 今は出来ないから仕方ないとか思って最善を尽くしていなかった……


 プライドで『空間』魔法は使わない?

 ふざけてるな……今思えば余りにも愚かな考えだ……

 この世界で自由に恋をして、敵には容赦しないって決めていた癖に、何言ってやがる!

 今のままだと自由どころか自分の命すら守れないだろうが!


 ゲーム知識が全てじゃない……イレギュラーな事なんてこの先も沢山起こるだろう……

 だって俺自身がイレギュラーなんだから……

 今回もサーラを救って本来のストーリーからずれたはずだ……

 原作ストーリーに影響を与えるとしても俺はもう止まらない……

 自由に生きる為に手加減はしない。


 誰にも負けない力を手に入れよう……

 必要なら俺が魔王を倒す事も視野に入れよう。

 それくらい圧倒的な力が必要だ……


 後8ヶ月で学園に入学して原作ストーリーが始まる。

 それまでに絶対……


 (こんこん)


 ドアがノックされた。


 俺は返事をしていないがドアが開いた。

 入って来たのはセドリックだった。

 俺を見てびっくりしている。

 恐らくまだ起きているとは思っていなかったのだろう。


「キ、キース様、すみません、起きているとは思いませんでしたもので……」


 本来なら立場的にセドリックは俺に頭を下げる必要なんて無いんだけどな……

 執事としてしっかり守ってるんだな――律儀な奴だ。


「大丈夫だ、気にするな。それで俺はどうやって帰って来たんだ?」

「はい、それはサーラ様が一生懸命に背負って帰って来ました」

「そうか」


 サーラもボロボロで余裕なんて無かったはずなのにな……


「キース様、私はキース様が目覚めた事を報告しなければならないので一旦失礼させていただきます」

「あぁ」

「では」


 ――はぁ、どう言い訳するか……

 サーラに関してはもう騙せないだろう。

 あんなに本気で戦ったんだ、たまたまなんて言っても信じる訳がない。

 父親はどうだろうか。


 ライ・ドワンスの死体は残っていたはずだ……

 俺が倒れてから何日経ったか聞き忘れたが、回収されて鑑定にかけられるのは時間の問題だろう……

 死体はしっかりと燃やしておくべきだったな……

 まぁ、あの状況だとそんな余裕無かったけどな。

 俺がレベル100の相手に勝つなんて普通だったらあり得ない事だ。

 

 (ドンッ)


 俺がそんな事を考えていた時、ドアが勢いよく開いた。


「キース兄さまーーー」


 疲れた顔をしたサーラが凄い勢いで抱き着いて来た。

 泣いてるのか?

 俺はとりあえずサーラの頭を優しく撫でた。


「大丈夫だったか?サーラ」

「……っうん」

「そっか、なら良かった」

「あっ……ありがとうっ……ございました……」

「妹なんだから助けるのは当然だよ……」

「ご、ごめんなさい……キース……にい……さま」


 サーラは寝れていなかったのか、安心したように眠った。

 それと変わるかの様にセドリックが戻って来た。


「キース様」

「どうした、セドリック」

「起きたばかりで申し訳ありませんが、ダルト様がお呼びです。動けなそうなら無理して来なくても良いとも仰っていました」


 一応父親だし気遣ってくれたのかな?


「大丈夫、いくよ。そう言えば俺はどの位眠っていたんだ?」

「今日で5日目です。それとサーラ様は4日間ほとんど眠らないでキース様に付いておりましたので一応ご報告させていただきます」


 それでこんなにげっそりとしていたのか……

 ありがとな……

 俺はそう思いながらサーラの頭を撫で続けていた。


「そうか……」

「はい、ダルト様が止めても聞かなかったので、それほどキース様が心配だったのでしょう」

「なら、サーラはここで寝かせて置いてお父様の所に行くよ」

「分かりました」



 (コンコン)


「入っていいぞ」

「失礼します。お父様」


 父親は俺を真剣な顔で見て来た後――


「まずはサーラを助けてくれて本当にありがとう」


 そう言って父親は頭を下げた。

 正直意外だった。


「いえ、自分で出来る事をしただけなので」

「そうか……」


 父親は少し嬉しそうにそう言った。


「正直聞きたい事は沢山ある。キースはある日突然変わったな」

「えぇ、今のままでは駄目だと気付いたので変わろうと思い行動し始めました」

「そうか……なら何故今回サーラの居場所が分かったんだ?」


 父親は少し怪訝なそうな表情でそう言った。


「お父様はきっと俺が森でモンスターを狩っていた事を耳にしていますよね?」

「あぁ」

「その時俺はお父様が情報を得たと言っていた特徴の人が出入りしていたアジトっぽい所を見ていたんです」

「それなら何故先に言わなかったのだ?」

「言った所で本当に信じましたか?」

「それは……」

「それに信じて貰っても、部隊を編成するのに最低1日はかかります。その間サーラを放置しておく事は俺には出来ませんでした」


 さっきここに来る前に咄嗟に考えた言い訳だが大丈夫か?


「ふぅー、とりあえずは分かった」


 まだ完全に納得はしていなそうだが、とりあえずは大丈夫そうだな……


「そうですか……」

「キースよ、本当に変わったのだな……」


 父親は嬉しそうで悲しそうな微妙な表情でそう言った。


「はい!今までの愚かな行動を背負って、これからはちゃんと生きて行こうと思っています」

「そうか……これからは期待しているぞ」


 そう言う父親の顔は優しい顔だった。


「はい!分かりました」


 そう言って俺は父親の書斎から離れた。


 俺は廊下で歩きながら考えていた。


 父親はやはり俺の想像通り、キースの事が興味無い訳では無く、荒れに荒れたキースが手に負えなかったので相手にするだけ無駄だと思ったのだろう。

 その証拠に今日はいつもと違う顔で俺の事を見ていた。

 それこそ父が子を見る様な顔だった。


 俺は自分の行動が少しずつ自分の評価を変えているんだなって少し嬉しくなった。

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