第9話 誘拐されたサーラ

 ――初めてダンジョンに潜ってから3ヶ月が過ぎた。


 兄2人は休みが終わり、王都の学園に通う為に出ていたので、家は割と平和になった。


 ダンジョンに攻略については14層まではクリア出来た。

 俺はこれまであえて『空間』属性の魔法を攻撃手段としないで、『火』『無』だけで戦っていた。

 なんでそんな事をしているのかと言うと、ただ単に『空間』属性が強すぎて面白くないからだ。

 早く強くなりたいが、ギリギリの戦闘も楽しみたい…この世界に転生して3か月過ごしたら死の恐怖が薄くなっていた。

 

 まぁ、だから俺は15層までは『空間』属性を封印しようと思っていた。

 15層の敵はウォーターオロチ、レベルは75でCランク上位のモンスターで『水』属性だ。

 正直『水』属性じゃ無かった倒せていると思う。


 今の俺のレベルは60だ。


 (鑑定)


 『名 前』:キース・グリッド(男)

 『年 齢』:14歳

 『種 族』:ヒューマン

 『身 分』:公爵家3男

 『レベル』:60

 『体 力』:1700

 『魔 力』:1600


 ウォーターオロチは体力が20パーセントを切ると発狂してくるのだ。

 その発狂を食らうとレベル60の俺には致命傷だ。


 さっきも言ったが『空間』魔法を攻撃でも防御でもいいから使えば簡単に倒せるはずだ。

 しかしそれはしたくない、じれったいかも知れないが15層までは『空間』魔法は使わないと決めたからだ。

 まぁ、これは俺のゲーマーとしての意地でもある。


 そんな訳で俺は絶賛、ウォーターオロチを『空間』魔法無しでどう攻略しようか考え中だ。


 そうそう、それともう一つ変わった事がある。


 ここ1か月、サーラが俺の事を追跡してくるようになった。

 家では良いのだが、ダンジョンに向かう時などは見られたく無いので物影に隠れて"空間転移"を使って撒いている。

 サーチのスキルでつけているのはバレバレなのだが、何故か毎日来るんだよな……

 

 特に喋る様になった訳でもないし、かと言って俺から話しかようとすると逃げて行くし……

 ゲームで居なかったのもあり、サーラが何を考えているのかが全くわからん……


 そう言えば今日は街に行って食べ歩きしていたのだが、サーラの気配が無かったな。 

 まぁ、流石に飽きたのかな?


 それにしても今日の屋敷は何だか騒がしいな。

 一体何があったんだ?


 俺は気になったので廊下で会ったメイドに尋ねてみる事にした。

 ちなみに俺は転生してから3か月ちょっとで、外の評判は相変わらずだが、屋敷内の使用人やメイドからは少しましになったのか、前ほど恐れられる事は無くなっていた。


「なぁ、そこのメイド…何でこんなに屋敷の中が騒がしいんだ?」

「あっ、キース様、どうやらサーラ様が攫われたと街の住民から報告があったのでそのせいだと思います」


 なに?サーラが攫われただと!!!!!

 ふざけるな!

 今すぐ確認しなければ!!!


 俺はそう思い父親の書斎まで急いで向かった。


「お父様、少しよろしいでしょうか」


 俺はノックをしてそう言った。


「あぁ」

「失礼します」


 父親の顔は凄く青白かった。


「お父様、サーラが攫われたというのは事実なのでしょうか?」

「あぁ、どうやらそのようだ」


 父親は全く覇気のない声でそう言った。

 俺は内心凄く焦っていたが、無理矢理落ち着かせた。


「それで、どの程度状況を確認出来ているのでしょうか」

「それが、全然情報がつかめていないんだ」

「サーラがどんな奴に攫われた位は分かるのではないでしょうか?」

「全身真っ黒でフードを被った集団としか報告がないんだ…後赤い星マークが背中に大きく入っていたと……」


 ん!!??全身真っ黒で背中に赤い星マーク…だと?

 どうしてだ?なぜこんなに早くあの集団…血濡れの黒衣が動いているんだ!!!

 ゲームでは学園に入学して少ししてからその存在が知られたはずだ……


 いや、今はそんな事を考えてる暇はない!!!


「その集団の情報はそれ以上ないのでしょうか」

「あぁ、残念ながらな……」

「そうですか…」

「あぁ」


 父親はサーラの事を一番可愛がっていただけあって、凄く酷い顔になってるな……


「それでは失礼します」

「あぁ」


 考えろ、思い出せ、何か情報は無いか……

 サーラが狙われた理由……

 今血濡れの黒衣が動いた理由……


 血濡れの黒衣は魔王崇拝集団だ。

 魔族と繋がって王国や帝国を支配しようとする組織……

 そんな組織がサーラを狙った……


 サーラ、サーラ、サーラ

 何でも良い、本当に些細な事でも良いんだ。

 サーラ、サーラ、サーラ


 ん?サーラ?


「あぁぁっっっ!!!」


 もしかしてアレか!!!ゲームで主人公が魔王を倒す前に戦った魔族にネオサーラ・デュランダルという可愛い魔族の敵がいたはずだ。

 角が生えて尻尾もあった…肌も今と違って褐色だったけど顔立ちや目の色がそっくりだ!!!

 ゲームでは特に過去を知る機会は無かったが、確か魔王のお気に入りだったはずだ。


 それに主人公が倒した時に「解放してくれてありがとうございます」って泣いて死んでいった。

 その真相が分からずプレイヤーの中で考察がされていた覚えがある!!

 確定では無いがそんなふざけた裏設定はいらねーよ!!!


 血濡れの黒衣のアジトはソナ森にあったはずだ!!

 今現在もそのアジトはあるのか?

 ゲーム知識だから2年くらい先の話だが今はそこにかけるしかない。


「クソ!!!!!」


 俺だけで助けれるのか?

 俺より強いやつがいたら?

 相手の人数は?

 

 駄目だ余計な事は考えるな…今はとにかく助けに行かないと。

 父親に相談した所で信じてくれるはずがない。

 助けを呼びたくてもそんな余裕はない。


 ゲームのサーラは完全に魔族だった、あれは恐らく魔王の血を飲まされたのだろう。

 魔王の血を人間が飲むと普通は倒れるはずだ。

 しかし稀に魔王の血に適応する人が居る。

 血濡れの黒衣はその適応者を魔王に献上していたはずだ。


 だから今すぐにでも動かないと!!!

 俺がやらないと!!!


「空間転移――」



「――確かこの辺のはずだ」


 ん?気配が!!!


「あっちか!!!」


 ここだ!!血濡れの黒衣の数ある基地の中の1つ!!

 見張りが2人か……


 (鑑定)


 レベル25とレベル30だと?

 弱すぎないか???

 いや、ただの見張りだから当然か……


 "空間転移"で距離を一気に詰めて速攻で倒そう。

 出し惜しみをしている時間は無い!


「空間転移――」


「時空拳――」

「ぐわぁぁーーー」

「なっ、なんだ!!お前は」

「時空拳――」

「ぬわぁーー」


 初めて"時空拳"を使ったけどえげつない威力だな。

 拳を中心に空間を歪めるから2人ともぐちゃぐちゃになってるよ……

 気持ち悪いから燃やしておこうか。


「ファイアボール――」


 よし!先に進もう。

 無事でいてくれ…サーラ……

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