第7話 サーラ・グリッド

「ふぅーー帰って来たーー!!」


 俺は「泉の洞窟」に寄ってから家に帰ってきた。

 この世界では「泉の洞窟」は綺麗な泉の周りに花畑がありとても綺麗なので有名なデートスポットだったりもする。

 皆からしたらデートスポットでも俺からしたらレベリングスポットなんだよな。


 月末は明後日だし、今日はもう寝ちゃお。



「ふわぁーーーー」


 今日は久しぶりに特にする事が無いな。


 そう言えばレベルが少し上がって『火』と『無』で使える魔法が少し増えていた。

 『火』ではファイアウォールが増えていて『無』では魔法強化が使える様になっていた。

 まぁ、それぞれの属性でどんな魔法があるかは完璧に分かってるから全然驚かないし、別にって感じだな。


 でも魔法強化は今後重宝すると思うからしっかりと体に慣らして行かないとな。


「んー本当に今日は何しようかな――」


 俺は何をする訳でも無くうろうろしていた。


「――ねぇ、キース兄さま……」


 普段は無視するはずのサーラが後ろから話しかけて来た。


「ん?どうしたんだ?サーラから話しかけて来るなんて……」

「キース兄さま――なんか変わった?」


 相変わらず表情を変えずにそう訪ねて来た。


「ん?何がだ?」

「最近のキース兄さまって雰囲気が変わったって思うんだけど」

「んー、そうだな…強いて言うのであれば――ちょっとマシな生き方したいなって思って心を入れ替えたんだよ」


 俺がそう言うとサーラは怪訝な顔を向けて来た。


「ふーん、じゃあ過去にキース兄さまがしでかした悪評についてはどう思ってるの?」

「そうだな…事が事だから少しずつでも汚名返上していくしかないかな」

「汚名返上って何?」


 あぁ、この世界に四字熟語は無いのか。


「そうだな、少しずつ悪評を無くす為に行動して行こうって事だよ」

「ふーん、なるほどね」


 サーラはそう言って去って行った。

 去り際のサーラは何処か嬉しそうに見えた。


「何だったんだ?一体」


 特に転生がばれた訳では無さそうだったけど――まぁ、今より好感度が下がる事も無いだろうし気にしなくていっか。


 



★サーラ・グリッド(side)


 私の名前はサーラ・グリッド、自分で言うのもアレだけど、皆から可愛いと言われます。

 背は小さいけど胸は大きい。


 縁談の話も沢山貰っています……全部断っていますけど。


 そんな私には3人の兄が居ます。


 一番上の兄は戦闘関連はそこそこ強いのですが、なんせ頭が悪いです。


 私の事を一番上の兄ことケイト兄さまはいつもいやらしい目で見てきます。

 流石に手を出してくる事はありませんが、毎日食事で顔を合わせるので正直億劫です。


 二番目の兄はケイト兄さまと違って頭が良いけど戦闘が得意じゃない。

 普段は普通なんですど私と目が合って居ない時だけいやらしい目で見て来てます。

 バレないと思ってるのでしょうか…全然バレバレですけどね……


 そんな事もありこの2人の兄さまは余り好きじゃありません。


 ――まぁ、この2人の事はどうでもいいんです。


 問題は三番目の兄さまでキース兄さまです。

 私がこの家にやって来たばかりの頃は、両親を失って心にポッカリ穴が開いているかのような感覚でした。

 そんな私の心の穴を埋めてくれたのがキース兄さまでした。

 ケイト兄さまとカール兄さまは私が侯爵家って事で全く話そうともしてくれませんでしたが、キース兄さまだけは、元気が無い私に毎日話しかけてくれました。

 私は次第にキース兄さまが大好きになっていました。


 ――それが変わったのが、キース兄さまの母、マリア様が亡くなってからです。

 キース兄さまは幼い頃から秀でた才能がありました。

 しかしマリア様が亡くなってからは性格が一気に変わってしまいました。


 努力を止めて、勉強もせず、使用人に暴言や暴力を振るう様になりました。

 それは年々酷くなり、家の外やパーティーでも傲慢で怠惰に過ごす様になりました。

 そして次第に私にも暴言を吐くようになりました。

 私はこの頃にはもうキース兄さまと話す事を止めていました。


 外では公爵家の立場を利用して人々を見下して、家に帰って来たらケイト兄さまとカール兄さまに馬鹿にされても何も言わない。

 私が大好きだったキース兄さまは完全に居なくなっていました。


 それにキース兄さまの悪評のせいで友達も減ったし、何より昔と違うキース兄さまを見る事がとても辛かった。


 ――そんな中ある日突然、キース兄さまの雰囲気が変わっていました。

 それは月1の食事会の少し前の事でした。

 私が歩いていたらいつも通りケイト兄さまにいじめられているキース兄さまの姿がありました。

 

 わたしはいつも通り無視して去ろうとしていました。

 しかしその日はキース兄さまの様子が少し違いました。

 いつもは殴られたりしたら光の無い目をしていたのに、その日はむしろやる気のある目をしていました。


 わたしはびっくりしてその場で佇んで、キース兄さまと目が合いました。

 改めて見ても前とは違う目をしていました。


 わたしはキース兄さまと会う事は少なく、月1の食事会以外では廊下ですれ違う時位しか会いません。

 その為その日は2週間ぶりにキース兄さまと会いました。

 この2週間で何があったのか……


 それから使用人とかに聞いて回ったのですがどうやら数日前から暴言や、暴力を全く振るわなくなったそうです。

 私は何かを企んでいるのかと思いました。


 ――決定的だったのは食事会の時でした。

 ケイト兄さまにキース兄さまが対抗して完全に言い負かしていました。

 その姿をみてお父さまも何処か嬉しそうにしているのを感じました。

 やっぱりお父さまもキース兄さまの変化に気付いているんだと私は思いました。


 ――その後、数日キース兄さまは家に帰って来ませんでした。

 そして帰って来たかと思えば凄く嬉しそうにしていました。


 私は心のどこかで期待していました…優しくてカッコ良かったキース兄さまが帰って来たのではないかと。

 私は居ても立っても居られなくてキース兄さまに話しかけてみました。


「キース兄さま――なんか変わった?」


 そう素直に来てみました。

 キース兄さまは少し不思議そうにしていましたが、私は続けて雰囲気が違うと言いました。


 そうしたら――「んー、そうだな…強いて言うのであれば――ちょっとマシな生き方したいなって思って心を入れ替えたんだよ」と帰って来ました。


 私は続けて――「ふーん、じゃあ過去にキース兄さまがしでかした悪評についてはどう思ってるの?」と聞きました。


 そして――「そうだな…事が事だから少しずつでも汚名返上していくしかないかな」と言われました。


 汚名返上が何か分かりませんでしたが、どうやら悪評を無くす為に頑張るとの事でした。

 私はそれを聞いて嬉しくなってその場から去る事にしました。

 だって私にはその言葉が嘘じゃないとハッキリ分かったので、感情を抑える自信が無かったからです。


 もう少しだけキース兄さまの様子を見てみようと思います。

 もしかしたら昔みたいに仲良くなれる未来があるかも知れません。

 

「信じていいですか?キース兄さま」

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