第32話 再会した!
「マジで会うのか?大丈夫?」
「会うよ。おれは完全に覚悟完了した」
「ふふ。何それ。キンチョーしてんじゃん」
そう言っておれの頬っぺたをつんつんつついてくる。おれはムッとして彼女を見た。
「あんまりバカにするとカンチョーするぞ」
実際、舞愛ちゃんはどこがとは言わないが弱そうだしな。
「なに小学生みたいなこと言ってんの」
「バカにするから」
「悪い悪い。でも、心配なんだよ」
舞愛ちゃんがおれを心配していることは分かっている。だが、おれ自身も一歩踏み出すことが必要なのだ。
「おれなりに、過去を清算しようと思ってね」
「カッコつけちゃってー」
舞愛ちゃんはニヤニヤ笑う。
そんな話をしていると、分かれ道の交差点についた。
「ふぅ」
「そんなため息ついて、ホントに1人で大丈夫か?」
「舞愛ちゃんが1人で帰って人をぶん殴んないかの心配をしてたんだよ」
「強がっちゃって」
舞愛ちゃんはおれの冗談を聞き流して笑った。
「がんばれよ」
「おう、余裕よ」
そういっておれと舞愛ちゃんは別れた。
これからおれは、
とはいっても、足取りは重い。しかもこういう時に限って時間と言うものは一瞬で過ぎるもので、ゆっくり歩いていたつもりだったのに、あっという間に待ち合わせ場所の公園についてしまった。
「公園って......」
夕方であるので、公園は小学生と思しき子供たちが遊んでいた。
そんな中で制服の男子学生が1人、浮いている。
気まずくなりながらも待っていると、長髪の男が歩いてきた。
「遼太郎......」
おれは呟いた。その声はかすれている。
「
それは相手も同じようだった。
「久しぶりだな」
「あぁ」
会う前の緊張はどこへやら。おれは1発くらい殴られることを覚悟していたが、全くそんなことはなかった。会ってしまえば懐かしき友だ。
「座って話そう」
おれは公園の端のベンチを指さした。
「目の調子はどう?」
「そんなに悪くない。たまにモノが2重に見えるけどな」
「......悪かった」
「いや、試合だからな。しょうがない。お前は?腰」
「だいぶいいよ」
「そっか。俺も悪かった」
「試合だからな」
おれがそう言うと、遼太郎は笑った。
「はは、堂々巡りになるな」
「ふっ、そうだな」
日が落ちかけ、空は紫色に染まっている。蝉が鳴いているが、ツクツクボウシだ。もう夏も終わりそうだ。
「ところで......」
遼太郎が切り出す。
「今日は、お前に旧友として警告をしに来た」
「警告?」
「あぁ。簡単に言えば、ヤンキー連中が光稀を狙っている」
「おれの?なんで」
「さぁな。わからん。夕が浜のデカいグループ、レッドウォーターがお前の首と、星が浜までシマを広げることを狙っている」
レッドウォーター。
この前、補習帰りに会った
おれは古島からもらった、彼のメッセージアプリのIDが書かれたメモを取り出した。
「なんだそれ」
「あぁ。連闘会って知ってるか?」
「あぁ。
遼太郎は常識だろ、とばかりに言う。
「く、詳しいな」
「試合したことあるからな。それで?」
「そこの代表のメッセージアプリIDらしい。レッドウォーターを止めるために協力してくれと言ってきた」
「協力するのか?」
「いや、おれも、舞愛ちゃん......おれの彼女も、暴力は使わないことに決めたから」
「彼女?」
遼太郎はニヤリと笑った。が、ひと呼吸置いて、驚愕の表情を浮かべた。
「やるじゃん......って舞愛ちゃんって、もしかして
「そうだけど......」
「お前マジか!?星が浜最強のヤンキーだろ!?すげぇとこ行くな......」
遼太郎は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして驚いていた。
というか月が浜の遼太郎が知ってるって、舞愛ちゃんってかなりの有名人なんだな......
「かわいい子だよ」
おれは、彼女はもうヤンキーをやめるけどな、と心の中で付け加えた。
「まぁ、お前がいいならいいけどよ」
遼太郎はそう言って笑った。
「まぁ、ともかく、お前が暴力を使わないと宣言したところで、あいつらには関係ないだろう。十分気を付けるんだぞ」
そう言い残し、遼太郎は右手を挙げて去っていった。
†††
私は光稀と別れたあとも、そわそわしていた。
彼は1人で、昔の友人、それも自らの大けがの原因で、相手にも大けがを負わせた試合を戦った人物に会いに行ったのである。たぶん彼は緊張でガチガチだろう。
ついて行こうかと言ったところ、断られた。彼は1人でトラウマに向き合うことを決めたのだ。彼の決意を聞き、私は光稀がやっぱり好きだと思ったが、少し疎外感も感じていた。何より彼が心配だった。
「築城舞愛さんですか?」
唐突に呼ばれた自分の名前に振り返ると、屈強な男が立っていた。にこやかな笑顔を顔に張り付けており、ケンカを売りに来たわけではなさそうだ。
「なんか用か?」
ただ、怪しかったので、私はぶっきらぼうに答えた。
「おっと、これはすみません。私、星が浜格闘同好会の古島と申します」
「あぁ。連闘会の」
連闘会はほかの不良グループと違い、私にケンカを売ってくることはなかった。だから、この古島という男の顔は知らなかった。
「はい。突然のことで申し訳ないのですが、我々に力を貸していただきたいのです」
私は眉をひそめる。
「ケンカならやんねえぞ?」
「いえ、ケンカではありません。星が浜を守るためです」
「はぁ?」
「そんな顔になるのも無理はありません」
古島は笑った。
「じゃあ分かるように説明してくれよ」
私は口を尖らす。
「実は、夕が浜の不良グループ、レッドウォーターが星が浜侵攻を企んでいるのです」
「それが?」
「力を貸してほしいのです」
「断る。じゃあな」
私は右手を挙げて帰ろうとする。
光稀との約束もあるし、私はもうヤンキーをやめるのだ。暴力は使わないと決めた。
「築城さんのご友人の篠田聖哉さんを拉致したのはレッドウォーターです」
「なんだと......?」
思いがけない言葉に振り向く。
「彼らが
血が高ぶるのを感じる。眠っていた闘志が目を覚ます。
クソったれな不良グループによって友達が傷つくのは防がなければならない。
「協力してくれますか?」
古島はそう言って、手を差し出してくる。
「やってやるよ」
私はその手を握った。握ってしまった。
光稀との約束を反故にすることになる。この握手を知ったら、彼は怒るだろうか?怒るだろうな。
だが、誰かが傷ついてからでは遅い。レッドウォーターだかなんだか知らないが、ボコボコにして、二度とカタギに手を出そうなんて思わないようにしてやる。
つづく
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