第15話 めちゃくちゃだった!

 翌日、舞愛ちゃんと共に登校する。これって端からみたら付き合ってるように見えるんじゃないか......?

 

 しかし......眠い......連休中は夜更かししまくっていたせいで生活習慣が乱れていた。


 「ふわぁ〜......」


 間抜けなあくびが出る。


 「おい、シャキッとしろっ」


 「舞愛まいあちゃんが寝かせてくれないから......」


 おれは頬を染める。


 「昨日はご飯食って帰っただろうが!」


 舞愛ちゃんは両手を挙げて怒る。

 確かに。舞愛ちゃんがつくったニラレバを一緒に食べた後


 「口が気になるから......」


 とか照れながら言って部屋を出ていった。


 そんなバカなやり取りをしていると、いつの間にか教室がある2階についていた。

 おれたちは好奇の目で見られていた。

 なんだろうと思い、ちょっと聞き耳を立てる。


 「築城つきしろさんに彼氏が出来たって噂、マジだったんだ......」


 「あの男が彼氏?......誰?」


 噂話だ。おれと舞愛ちゃんを見ながらヒソヒソ話している。

 マジかよ。と思ったが当然かもしれない。

 こんな有名人と同時に休んで、その上一緒に登校してきたら噂が立たないほうがおかしいだろう。


 「おー、イッチ、マイアちゃん.....もしかしてー」


 教室に入るとレーカちゃんがニヤニヤ近寄ってきた。

 彼女はなにか小声で舞愛ちゃんに囁いた。


 「ち、違ぇぇぇ......!」


 舞愛ちゃんはレーカちゃんの肩をガシッと掴んで強く否定する。

 ナニを否定したのか知らないが、ここまで強く否定されると傷つくな......


 「い・ち・の・く・ん?」


 視界の端でポニテが逆だっていた。


 「はぁ」


 おれがいやいやポニテの方を向くと、やはりあやちゃんがブチギレていた。


 「誰が、舞っちと、エッチしていいって、言った?」


 すごい形相でいろいろ誤解している。

 大体、性行為に第三者の合意が必要ってことはないハズだ。

 いや、そもそも舞愛ちゃんとはシてないし、女子高生が大声でエッチとか言うな。

 クラスはざわついているし、舞愛ちゃんはめちゃくちゃ赤くなってるし、レーカちゃんは口をぽかんと開けているし、聖哉せいやは目を見開いて鼻息を荒くしている。


 「大体、なんで綾ちゃんと聖哉がここにいんだよ。クラス違うだろ」


 「関係ないでしょ!」


 「関係ないだろ!」


 関係ないことはないと思うが......

 クラスはよりざわついている。


 「え、もしかして四角関係......?」


 「あの男ってもしかして篠田しのだくんとも......」


 クラスのヒソヒソ声にはトンデモ説が紛れている。

 綾ちゃんの誤解を解く前に、まずはこの想像力豊かなクラスの連中を黙らせる必要がある。


 「おれは!誰とも!ヤっていない!童貞!童貞!ドーテーだっ......!!!!!」


 大声で叫ぶ。

 まさに不審者。そして叫んでいて悲しくなった。


 「やっぱりな。あの築城さんが彼氏なんかつくるはずはないか」


 「童貞って......言ってて悲しくならんのかな?」


 「でももしかしたらお尻は非処女かもっ」


 トンデモ説は消えないが、なんとかおれが舞愛ちゃんとまぐわった説は否定できた、と思う。

 そしておれは綾ちゃんを手まねきする。

 直前の形相はどこへやら。おれの大宣言にドン引きしていた綾ちゃんは素直に近くによってきた。まるで今からとって食われるような表情だ。


 「あのな。誤解してるとこ悪いけどカクカクシカジカで......」


 おれはカラオケの後に起こった出来事と、決意したことをかいつまんで話した。


 「えっ!?大丈夫なの!?」


 話を聞いた綾ちゃんは急に心配そうな顔をする。

 ......表情がコロコロ変わる子だなぁ。


 「大丈夫だ。舞愛ちゃんのことは任せてよ」


 おれは胸を張る。


 「ダメー」


 横からレーカちゃんがぬるんと出てきた。


 「え?」


 「市野くんだけに舞っちを任せるわけにはいかないわ。なにをしでかすか分かんないし」


 綾ちゃんもプンプンしている。


 「おれってそんな信用ないの......?」


 さすがにヘコむ。


 「そういうことじゃないと思うぜ」


 聖哉が肩を組んでくる。


 「どういうことだよ」


 「レーカちゃんたち、友達でしょー?」


 「だから、舞っちと市野くんだけじゃなくて」


 「俺たちも混ぜろってことだよ!」


 3人はそれぞれ胸を張り、平手でおれの背中をベチベチと叩いてきた。


 「てことはおれと一緒に殴られてくれるの?聖哉はいいけど、綾ちゃんとレーカちゃんは女の子だし......」


 「俺はいいのかよ!?」


 「いやー?殴られないよー?」


 「みんなで集まってればそうそう絡まれることもないでしょっていうこと!」


 綾ちゃんが自信満々で言うが、舞愛ちゃんはどう思うだろう。彼女は舎弟をつくったり、徒党を組むことを嫌がっていたが。いや、これはただの“友達グループ”になるからいいのか?

 などと考えながら舞愛ちゃんの方を向くと、ゆでダコになっていた。


 「ど、どうした!?」


 「い、市野って、そ、その......し、したことないんだ......」


 真っ赤になって聞くことがそれか!?傷をえぐられた気分になる。いっそのこと殴ってくれ......


 「てことは、その、誰とも付き合ったことないって、ことだよな......?」


 「あ、ああ......」


 「そ、そうか......ふふ......」


 舞愛ちゃんは照れながら笑っていた。

 あれ?

 舞愛ちゃんがスッとそばに近寄ってくる。


 「......私もだよ」


 「えっ!?えっ!?」


 耳もとで急に囁かれた。

 とたん、耳が熱くなる。

 なんだこのやり方は!?

 ヤンキーというより痴女じゃないか......!?

 もしかして脈が―――


 舞愛ちゃんを見ると、郵便ポストくらい赤くなっていた。

 そして目をぐるぐる回していた。

 自分でやったのに......

 

 「やっぱり舞愛ちゃんはかわいいな」


 おれが思わずそう言うと、次の瞬間、ものすごい衝撃が走った。吹き飛ばされ、床にへたり込む。

 

 「そ・う・い・う・と・こ!!!!!!!」


 拳を握った綾ちゃんが立っていた。

 この子はヤンキーでもなければ格闘技をやっているわけではない。それにも関わらずなんでこんなにいいパンチを持っているのだろう。

 おれは怒りに震える彼女を見上げてそんなことを思った。


 舞愛ちゃんは照れすぎて一人では立てず、レーカちゃんに支えられていた。



 つづく

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