第14話 ヤンキー女と朝チュンした!?
目が覚めると、ベッドに寝ていた。
体を起こすと、そこらじゅうが痛む。視線を足の方に動かすと、金色の球体があった。
「......ん」
足を動かすと、球体はうめき声をあげた。
怖い......!
よく見ると球体は人の頭のようだった。
怖い......!
恐怖で顔がこわばる。
「んあ......?」
すると球体はムクッと起き上がる。
「ま、
なぜ彼女がおれの部屋にいるのだろう。
「も、もももももしかして、コレって朝チュン!?」
「そ、そんなワケねぇだろ!」
舞愛ちゃんは赤くなってなって否定する。
おれは記憶をたどる。ぼんやりと不良男の顔が浮かんだ。
「体、大丈夫か?」
舞愛ちゃんはいつの間にか立ち上がっていて枕元に立っていた。
「まぁ大したことないよ」
おれは起き上がろうとする。
「うぉっ!?」
しかし全身に激痛が走った。おれは再び横になる。
「だ、大丈夫か!?」
「まぁ、ギリ?」
「顔、引きつってるぞ」
舞愛ちゃんの鋭い指摘におれは顔を背けた。
「ところで彼は誰なんだ?急に殴ってきやがって......」
話題を逸らす。
「アイツは、星が浜東学園の
保死我破魔っていうと、前に聖哉から聞いた、星が浜最大の不良グループってやつか。なるほど。どうりで歯ごたえがあるヤツだと思ったわけだ。
「
急に舞愛ちゃんが頭を下げる。
「ど、どしたの?」
「私が坂下を一発ぶん殴ってれば、市野はこんなボロボロにならなかったと思って......」
「いや、舞愛ちゃん。キミを止めたのはおれだ。彼を殴って欲しくなかった」
舞愛ちゃんは何度か坂下に仕掛けようとしていた。
しかし、その拳を止めたのはおれ自身だ。
「どうして」
「だって舞愛ちゃん、ヤンキーやめるんだろ?だったら人を殴っちゃダメだ」
「仲間や自分を守るためでもか?」
「ああ。ダメだ」
「正気じゃねぇよ」
「だって、舞愛ちゃん、ヤンキーになったキッカケって
「じゃあ黙って見捨てろって言うのかよ?黙ってやられろって言うのかよ?」
「可能な限り、暴力沙汰を避けるんだ。殴らないように、殴られないように......」
「そんなの無茶だって」
「無茶でもなんでも、殴っちゃダメだ。いや、おれが舞愛ちゃんには暴力を使わせないし、相手が殴ってきたら全部おれが受ける」
「へ?市野が?」
驚いた顔の舞愛ちゃん。
残念ながらおれは理論派ではない。し、おそらく星が浜の血の気が多いやつらもそれは同じだろう。
だから、おれは体を張りたいと思う。
「今日から一緒にいよう。舞愛ちゃん」
「へぇっ!?」
カラオケでのあの行動。おれは完全に心を打たれてしまっていた。
こんな子をヤンキーにしておくのはもったいない。
綾ちゃんから舞愛ちゃんをヤンキーから卒業させるという話を聞いて、最初は無理だと思ったが、今では卒業させなければならない、おれがさせてやるという考えになっていた。
「舞愛ちゃんに拳を使わせないにはそれしかない」
「はぁ......市野、お前のことバカなやつだと思ってたよ......でも、マジでバカなやつなんだな」
舞愛ちゃんは呆れて言う。
「ちょっ。バカバカ言うなよ。傷つくだろ?」
「でも、バカなやつは嫌いじゃないぜ?それに、現時点で私のためにここまで身体張ってくれてるしな......」
舞愛ちゃんはそう言っておれの髪を撫でた。
額に温かさと鼻にいい香りが広がる。鼓動が速くなって、胸が熱くなるのを感じる。
あれ?もしかしておれって......舞愛ちゃんのことが......
「ま、今の市野は動けないから、今日は学校を休めよな」
舞愛ちゃんはおれの前髪を指でくるくる巻く。
「いや、行くよ」
大宣言をかました手前、初日から舞愛ちゃんのそばにいない訳にはいかない。
痛みを堪えて、無理矢理立ち上がろうとするおれを、彼女は優しくベッドに押し戻す。
「時間、見てみ」
そう言われて枕元の時計を見ると、12時を指していた。
「今日は私も一緒に休むから、“お世話”してやるよ」
いたずらっぽく笑う。その頬は少し染まっていた。
「ふぇ!?」
“お世話”という言葉に下半身が反応する。
「とりあえず、もう12時だし、お昼つくってやるよ。冷蔵庫、開けるぞ?」
そう言って舞愛ちゃんは、キッチンの方に歩いて行った。
「いや、冷蔵庫には......」
しかし彼女はすぐに戻ってきた。
「なんも入ってねぇじゃねぇか!」
さっきまでのやけに優しい雰囲気どこへやら。なぜか怒っていた。
「お前、普段何食ってんだ?」
「コンビニとか、スーパーの弁当とか......」
「そんなんばっか食ってたら体壊すぞ!」
予想もしなかった剣幕である。
「え、ああ。ご、ごめん......?」
「色々買って来てやるからちょっと待ってろ!」
そう言って舞愛ちゃんは部屋を出ていった。
†††
30分ほどで舞愛ちゃんは戻ってきた。
「買ってきたぞー」
スーパーのビニールを引っ提げていた。
「マジかよ」
どういうカルマか、女の子の手料理を食べられる流れになってしまった。
しかし、不安なのは舞愛ちゃんに料理のイメージがないことだった。
「エプロンあるよ」
舞愛ちゃんはそのかわいらしい私服のまま料理を始めようとしたので、おれはそれを止めた。
おれは料理はしないが、ひとり暮らしを始めたときに料理するかもと思ってエプロンを買っておいたのだ。
「マジで?どこにあんの?」
「そこの冷蔵庫の横にかかってるよ」
「お?おい、市野、お前こういうシュミだったのかよ」
出てきたのはピンク色のファンシーな柄のエプロンだった。
舞愛ちゃんはニヤニヤしながらそれをイジってくる。
「そのエプロンが一番安かったんだよ」
「ホントか〜?」
「だいたい舞愛ちゃんもそういうデザイン好きだろ」
「な!言ってはいけないことを......!」
そういいつつも、彼女はエプロンをつける。
めちゃくちゃ似合っていた。
舞愛ちゃんは見事な包丁さばきで食材を刻み、中華屋の親父のような手つきでフライパンをふるった。
しばらくしてテーブルに料理がテーブルに運ばれてきた。
チャーハンとレバニラ炒めだった。
舞愛ちゃんが料理ができるというのは意外だが、男臭い料理は解釈一致でなんだか微笑ましい。
「血を出したからな。血をつくれる料理だ」
問題はドヤ顔でテーブルに置かれたチャーハンとレバニラが特盛だったことだ。
「多くね?」
「これでも少なめだぞ?」
「少なめって......舞愛ちゃん、普段これ以上食ってんの?」
「まぁな」
マジかよ。
おれは舞愛ちゃんのお腹をつまみたくなったが、それをやったら殺されると思いつつ、レバニラに箸をつける。
「う、うっま......」
「ふふふん♪」
舞愛ちゃんはドヤっているが、マジで店レベルの味だ。
続けてチャーハンをレンゲで口に運ぶ。
「うっわ......」
マジで中華屋レベルの味だ。舞愛ちゃんは料理人を目指した方がいいんじゃないか?
「舞愛ちゃん......」
「ん?」
「マジでうまいよ!」
「そうだろうそうだろう」
舞愛ちゃんはドヤっている。
うまいのはマジだが、量がめちゃくちゃ多い。
うまいうまいといいつつ、全て食べ終わった頃には、おれの腹はパンパンだった。
「う......うぷ」
「どうだった?」
舞愛ちゃんは上目遣いで聞いてくる。
「めっちゃうまいけど......多いよ」
「こんくらい食べないと大きくなれないぞ?」
成長期は終わってるっつーの......
「と、ところで市野がお昼ごはんはいつも何食べてるんだ......?」
舞愛ちゃんがなぜかどもりながら聞いてくる。
「そりゃぁ......コンビニ弁当かスーパーの弁当だよ。おれは料理できないからな」
「ふ、ふふ。そうか。じゃ、じゃあ、私が......」
「私が......?」
「市野にお弁当つくってやるよ!」
まさかの宣言に、おれは女の子からお弁当をつくってもらえるという舞い上がりと、うまい昼飯を食えるという期待と、めちゃくちゃ特大弁当を食わされるという恐怖。3つの感情が渦舞いたのだった。
つづく
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