第10話 ダウナーギャルと知り合った!

 放課後、おれはあやちゃんに空き教室に呼び出された。

 

 「カツアゲ?綾ちゃんも不良だったのかよ」


 「違うわよ!」


 ムキーと怒る。


 「あんま怒ってると血圧上がるよ?」


 「うっさいわね!アンタが悪いんでしょ!?」


 「まぁ、一旦落ち着けよ」


 綾ちゃんはいったん埃っぽい天井を見て、手を広げて深呼吸をした後、おれに向き直る。


 「相談があるの」


 彼女は真剣な目つきで言った。

 まいったな。真剣な話は苦手なんだけど......。


 「だめです!じゃっ!」


 おれは右手を上げてドアに向かう。


 「ちょいちょいちょい!!!」


 「ぐえぇっ!」


 襟首を掴まれた。

 この間、全く同じことをやられたが、舞愛まいあちゃんがやったのか綾ちゃんがやったのか分からなかった。

 しかしこの感覚は......


 「犯人は綾ちゃんか......」


 「急に何!?てかなんの犯人よ!?」


 襟首を掴んだりツッコんだり忙しい子だな......。


 「何逃げようとしてんの?」


 「すみません」


 どうやら逃げることは許されないらしい。

 

 「でも、相談って、どうしておれに......」


 綾ちゃんには友達がたくさんいるだろうに。わざわざ友達でもないおれに相談があるなんて、なにか裏があるに違いない。


 「舞っちのことだから」


 やはり裏があった。

 彼女と舞愛ちゃんの共通の知り合いだからおれに相談なのだろう。


 「なるほどね。愛の告白じゃなくて残念だなぁ」


 「アンタ逃げようとしてたじゃん......」


 ジト目で睨まれた。


 「で、舞愛ちゃんのことでおれになんの相談?」


 綾ちゃんはつま先立ちして、おれの肩に手を置いた。


 「舞っちをヤンキーから卒業させたいの」


 思わぬ言葉が飛び出した。


 「いや、でも、そもそも舞愛ちゃんの希望なのか?」


 「うん。舞っちがヤンキーやめたいって」


 この前仲直りをした2人だが、無事よりを戻してよく話すようになったらしい。話しているなかで舞愛ちゃんから「ヤンキーをやめたい」という言葉が出たということだった。


 「そうか......」


 相槌は打ってみたものの、おれは疑問を抱いていた。

 舞愛ちゃんがおれに話してくれた“ヤンキーになった理由”。 それを聞いておれは第一に、真面目だ。と思った。

 そしてもう一つ、それとは別の感想も抱いた。

 自分と似ている。ということだ。

 彼女は綾ちゃんを守るために仕方なく暴力に頼り、ヤンキーになった。状況的に仕方なかったのだ。そしてどんどんヤンキーの世界にのめり込み、結局、彼女のアイデンティティは拳だけになってしまった。

 おれも似たようなモノだ。

 以前、深い事情により格闘技をやっていたが、のめり込むにつれて、力だけがおれのアイデンティティになってしまった。とある理由からおれはもう人を殴らないことに決めたが、一度得た力というのはなかなか手放すことが難しい。

 物事を力で解決するのはシンプルで快感が伴うからだ。

 だから、力を捨てるには、“強さ”が必要だとおれは思う。

 誰かを守るために力を使うことすらダメなのだ。だからあの優しい舞愛ちゃんに、それができるかは正直疑問だ。


 「......市野くん!市野くん!」


 一人考え込んでいたが、綾ちゃんの声で現実に引き戻される。


 「......ああ、ごめん」


 「何よボーっとして」


 「いや、ちょっとな。それで、どうやって舞愛ちゃんにヤンキーを辞めさせるつもりなんだ?」


 「お?やる気になった?」


 やる気になったかどうかはともかく、綾ちゃんがどういう腹づもりなのかは気になった。


 「それはね......友達をつくるの!」


 「は?」


 予想外の言葉におれは型落ちのPCみたいに固まる。


 「ほら、舞っちって友達がいないでしょ?」


 「ひどいな、綾ちゃん、そんなストレートに......」


 「だって事実だもん。それでね、友達をいっぱいつくってそっちに時間を割けばケンカの時間だって減るでしょ!」


 想像しなかった作戦だが、なんとも酷い。この奥村綾おくむら あやという女は本当に友達が多いのか?友達を道具みたいに使うつもりなのか?


 「そして助っ人も呼んでまーす。どうぞー!」


 綾ちゃんが急に宣言したかと思うと、ガラガラと扉が開く。


 「うぃっす〜」


 入ってきたのはウチのクラスのギャル。名前は確か......


 「咲下玲香さきもと れいかでーっす。“レーカちゃん”って呼んでねー」


 制服の上からセーターを着た赤い髪が特徴的なダウナー系ギャル、“レーカちゃん”はヌけた感じで言った。


 「てかイッチじゃん。うっすー」


 彼女はおれの方を見て言う。


 「イッチっておれのこと?」


 そういうと彼女は頷いた。なんと不名誉なあだ名。裏でそんな風に呼ばれていたのか......


 「アヤってイッチと仲良かったんだ。ウケるんだけどー」


 レーカちゃんはおれの方に回る。

 

 「付き合ってんのー?」


 「ないない!だって市野くんだよ?気持ち悪い。付き合うわけないでしょ」


 綾ちゃんはおれのことをボロクソに言った。少し傷つく。


 「そう?かっこいい身体してんじゃんー」


 おれのガタイを見抜いたのか、彼女はおれの背骨をツーっとなぞってくる。


 「ひうっ!?」


 思わず声が出る。


 「どしたの?変な声出して」


 ジト目の綾ちゃん。


 「と、とにかく!レーカちゃんのどこが助っ人なんだ」


 「だってレーカは友達多いし、舞っちも友達の友達みたいな感じで友達増やせるかなって」


 「友達って何回言ったんだよ」


 そう言うと綾ちゃんは揚げ足取るなとばかりにむすっとする。


 「レーカちゃんもマイアちゃんと仲良くなりたいしー」


 レーカちゃんはなぜかおれの肩に手を置いて言った。


 「で、どうやるんだ?」


 「任せてよ。レーカちゃんにスペシャルな作戦があるからねー」


 彼女はなぜかおれの肩をバシバシ叩いて言った。結構痛い。

 また暴力属性かよ......


 「どう?コレが助っ人!」


 なぜか綾ちゃんがドヤ顔で言う。

 というか最初からレーカちゃん頼みかよ!

 おれは先行きが不安になり、やれやれとため息をついたのだった。

 

 

 つづく 

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