第6話 ヤンキー女の過去を知った!

 「秘密の場所とか可愛く言うわりには治安が悪い」


 「るせぇ......」


 なんと連れて来られたのは体育館裏だった。お喋りというよりは殴り合いが似合うだろう。彼女は何を語るのだろうか。


 「あのな......私は元々ヤンキーじゃなかったんだ」


 それはそうだろう。生まれた瞬間から突っ張って、オラついてるやつなんて見たことがない。おれがきょとんとしていると、舞愛まいあちゃんはそうじゃなくて、と言った。


 「1年生のときはヤンキーじゃなかったってことだよ!」


 「じゃあキッカケ的なのがあったわけだ」


 「うん......」


 「聞いてもいいか?」


 「ああ......」


 「私には親友がいたんだ。」



†††



 1年生のころ、私は優等生だった。

 どのくらい優等生だったかというと、委員長をやっていたくらいだ。


 「舞っち!一緒に帰ろっ!」


 そして当時、一番仲が良かったのが奥村 綾おくむら あや。ほぼ毎日一緒に行動していた。委員長としてクソマジメだった私をいい感じにほぐしてくれるような存在だった。


 「ワック食べてく?」


 「寄り道はダメなんだよ」


 そんな形式的なことを言ったが、正直ワックに行きたくてしょうがない。


 「もぉ。舞っちはマジメだな〜」


 「でもお腹すいてるからいっか」


 「舞っちって......いや、なんでもない」


 結局ワックに寄り、ポテトをつまみに幾多の他愛もない話をした。


 「うわぁ。もうこんなに日が早いんだ」


 季節は9月。夏休みならまだ外が明るかった時間にもう薄暗い。

 そして、薄暗いのを好む人間もいる。


 「キミたちガハマ校?かわいいね」


 ガハマ校とはウチの学校、星が浜学園を指す、主に不良が使う通称である。声をかけてきた男は、東学園の制服を着崩し、髪を金髪に染めていた。


 「そうですけど、なにか?」


 綾が前に出る。


 「キミたちみたいな清楚ちゃんほどヨガらせるのがいいんだよねぇ」


 男は指に卑猥な動きをさせ、迫ってくる。

 心と身体が下半身に支配されているゾンビみたいだ。


 「アナタに興味ありません。帰ってください」


 私は突っぱねた。


 「まぁ。まぁ。硬いこと言わないでお茶からでもさ、ね?」


 コイツの言う“お茶”とはなんなんだろう。薬が入ったアイスティーか?


 「行きません」


 再び突っぱねるが、誰かの肩が手に置かれる。

 ビクッとして後ろを振り返ると、背が高めの男が立っていた。


 「大人しく従っといた方がキミたちのためだと思うよ?」


 男は気味の悪い笑顔を貼り付けて言った。


 「誰がアンタたちなんかと......!」


 私は肩に置かれた手を振り払う。


 「キミみたいな強気な女ほど、屈服させたくなるんだよねぇ。まぁでも手こずりそうだから最初はキミから......」


 「ひゃっ!」


 男が綾に手を伸ばした瞬間、私の身体は勝手に動いた。


 「うがっ!?」


 後ろに立つ男のすねをかかとで思い切り蹴り、怯んだ男の頭を回し蹴りで倒す。


 「な、なんだ......!?」


 綾の肩に手を回しかけていた男がビビっている。

 この間が命取りだ。

 私は一気に距離を詰める。

 綾を抱き寄せ、後ろに下げると、男がはっとしたのか、パンチを繰り出してくる。

 それを躱し、上がった相手の顎を逆に打ち抜く。

 男は「がッ!」とだけ音を発し、倒れた。


 「綾、大丈夫?」


 私はすぐに綾に向き直って声をかけた。


 「う、うん......」


 彼女は無事だったが、混乱していた。


 「舞っちって、つ、強いんだね......えへへ」


 えへへというのは彼女の癖で、ごまかし笑いのときに使う笑い方だ。明らかに私の“暴力”に怯えていた。

 同時に私は知ってしまった。

 力により解決する方法を......



†††



 「なるほどね」


 「そういうことでヤンキーになった」


 「でもそのエピソードだけだとなんつーか......ただの自衛じゃないか?」


 「ああ。そん時はな。だが、コレをきっかけに私は星が浜のヤンキー連中から目をつけられ、そいつらを一人一人ぶっ飛ばすうちに、自分もヤンキーになっちまった」


 「そんな律儀に......委員長だな」


 「アイツらが喧嘩売ってくんだからしょうがねぇだろ!」


 「それで......その綾って子は......?」


 「ああ。私がヤンキーになるにつれてあんま関わんなくなっちまった。」


 「......。」


 「それで、市野いちのが気になったのは、なんで私が舎弟とか徒党を組まないのかってことだったよな?」


 「ああ......」


 「こんなんになっても、まだ嫌われたくないと思ってるんだ。綾に。群れちまったら、“ホンモノのヤンキー”になっちまう......」


 そういった舞愛ちゃんは、金髪プリンには似合わない、委員長時代の面影を感じさせるような目をしていた。

 ああ、この子は真面目なんだ。根っからの。



 つづく

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