第5話 ヤンキー事情を探るなどした!

 「築城舞愛つきしろ まいあぁ?」


 おれは数少ない友人の1人である篠田聖哉しのだ せいやに舞愛ちゃんのことを聞いてみた。彼女が1人で行動しているっぽいことが気になったのだ。


 「まいあぁじゃなくて舞愛な」


 「そうやって言っただろ」


 「ちっちゃい“ぁ”がついてた」


 「こまけぇ.....」


 「ボケやがな!」


 「お前のボケ、分かりズレぇんだよな......」


 聖哉は口角も上げずに真顔で言う。


 「だけど、珍しいな。光稀みつきが人のこと聞いてくるなんて。しかも大嫌いな不良のことを......」


 「まぁ、いろいろあってね。ヤンキーって徒党を組むイメージがあるんだが、彼女はなんで1人なんだ?」


 「ああ。それはな......」


 彼の話によれば、星が浜には不良のチームがいくつかある。

 まず1つは保死我破魔ホシガハマ。最大勢力で星が浜の西地区・・・を仕切っているグループ。リーダーは不良学園として有名な、“星が浜東学園”のリーダーらしいが、在籍校である東学園の掌握はできていないらしい。

 2つ目、保死我破魔のライバルであり、東学園を中心に星が浜東地区を仕切っているのが武羅怒倶楽部ブラッドクラブ

 おれはまず、これらのネーミングセンスにあれこれ文句をつけたくなったが、ともかく、この二つが主な勢力で、あとは有象無象。現れたり無くなったり、くっついたり離れたりしているらしい。聖哉は“大洋不良マリタイム・バッドガイズ”だとか、“星が浜連合格闘同好会ほしがはまれんごう かくとうどうこうかい”とか、“星我浜乃捕食者スタービーチ・プレデターズ”とか、有象無象の組織名をゴチャゴチャ言っていたが、適当に聞き流しておいた。

 聖哉に、「舞愛ちゃんと話してたらノーコンとダーツに襲われた」という話をしたら、彼は目を丸くしていたが、ノーコンとダーツは、保死我破魔でも武羅怒倶楽部でもないだろうということだった。なぜなら築城舞愛は強すぎて、この二大勢力すら手を出せないからだ。

 進学校を自称しており、いい子ちゃんのお人好しだらけのウチの学校がヤンキーに襲われないのも彼女が在籍しているから、らしい。

 いや、どんだけ強いんだよ。


 「お前が築城舞愛と知り合いだったなんて驚きだ。とうとう不良の仲間入りか?」


 聖哉は皮肉っぽく言った。


 「知り合ったばっかりだ。聖哉のほうが不良情報には詳しいだろ?」


 彼女が猫太郎に猫なで声で話していたことや、女の子女の子した部屋についてはおれのほうが詳しいだろうがな。


 「まぁな」


 「ところで、舞愛ちゃんはなんで1人なんだ?そんなに強いんなら徒党を組めば星が浜取れるんじゃないのか?」


 「さあな。本人に聞いてみろよ。俺は関わりたくないね」


 聖哉はさっぱりだと手をあげて、やれやれといった感じで言った。



†††



 「友達いないのか?」


 昼休み。おれは舞愛ちゃんに聞いた。


 「なっ―――!!!」


 次の瞬間、アッパーカットが飛んできた。星が飛ぶ。

 だが待ってほしい。おれは彼女に喧嘩を売ったつもりはない。例えば、「舎弟いないの?」とか聞いたら周りにいるやつはビビるだろう。クラスのやつにも、舞愛ちゃんにも悪いと思い、おれはあえて「友達いないの?」と聞いたのだ。

 その結果、おれは床にへばりついていた。


 「う、うぅ......」


 だからクラスの皆が舞愛ちゃんを恐怖の眼差しで見ているのはおれのせいではない。


 「いっふぇあ痛ってぇな......」


 顎を押さえて立ち上がる。


 「マジかよ......」

 

 「築城さんのパンチを喰らってすぐ立ち上がるなんて......」


 「市野って何者なんだ......」


 ギャラリーがざわついている。


 「市野、お前......この前も思ったけど......」


 目の前の舞愛ちゃんもやはり驚いていた。


 「なんだよぉ。人をぶん殴ったらまず謝るんだぞ」


 「お、おぅ。ごめん......」


 彼女は律儀に頭を下げた。この単純さのおかげで、質問の矛先はおれに向くことがなかった。


 「ま、分かればいいってことよ」


 おれは偉そうにふんぞり返る。


 「そんなことより、友達いないの?」


 自分でもバカだと思う。ただ、なんとなく面白くて、彼女を煽るのがやめられないのだ。


 「うぉっっ!?」


 二発目はさすがに見切った。右ストレートはおれの顔の横を通過した。


 「フー......フー.......お前、次言ったらマジで殺すからな......!」


 コイツ、目がマジになっちゃってる。


 「Tranquilo落ち着けよ


 「なんだそれ!?私に解んない言葉で悪口言ってんのか?あぁ!?」


 おれは胸ぐらを掴まれる。


 「トランキーロあっせんなよ!」


 「あぁ!?」


 彼女は拳を振りかぶる。さすがに調子に乗りすぎた。


 「わ、悪かったって。ただ、他のヤンキーって徒党を組んでるイメージがあって、舞愛ちゃんは......」


 「あぁ!?」


 彼女は再び拳を振り上げる。そう。呼称についても敏感なのだ。


 「つ、築城さんは!どうしてそういうのやんないのかなって!」


 おれは慌てて名字呼びに訂正した。

 同時に、結局、最初に避けた聞き方になった。

 つくづく不器用だなと自分でも思う。


 「そうか。まぁ、猫太郎を助けてくれたしな......よし、特別に教えてやろう!」


 おれが名付けたときは文句を言っていたくせに、結局気に入ったのか、“猫太郎”と呼んでいる.......などと思っているとギュッっと手首を掴まれた。

 一瞬、ドキッとしたがすぐにズキッと痛みが走る。力が強ぇ......


 「つ、ついてこいよ。秘密の場所だからな......」


 しかし、急に恥ずかしくなったのか、唇をツンと尖らせて赤くなっている舞愛ちゃんがかわいくて、おれは手首の痛みを一瞬で忘れたのだった。



つづく

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